科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表としてフリーランスで栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

今後の動きに目が離せないたんぱく質:これでわかった!食事摂取基準13

児林 聡美

エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、信頼できる食情報のエビデンスとして活用できる「日本人の食事摂取基準(食事摂取基準;文献1)」を連載でご紹介しています。

エネルギーの指標の説明に続いて、34種類の栄養素の指標の説明が始まります。
初めはたんぱく質です。

●たんぱく質は必須栄養素

まずは、たんぱく質の特徴を確認しながら、食事摂取基準の5つの指標のうち、どの指標が定められているのかを確認しましょう。

たんぱく質は、体を構成している重要な構成成分のひとつであり、体の中で様々な生命機能を調整する働きをもつものもあります。
ヒトが生きていくために必要な栄養素で、体の中では常に合成と分解が繰り返されています。
たんぱく質の合成にはたんぱく質の構成成分であるアミノ酸が必要で、他の栄養素から体内で合成することはできません。

そのため、たんぱく質は生きていくために必ず摂取しなければならない必須栄養素であり、摂取不足を回避するための指標である推定平均必要量、推奨量、目安量が定められています。

一方で、過剰に摂取したときの健康障害に関しては、例えば腎機能に影響がある可能性があるとも言われますが、現時点では上限をどのくらいに設定すればよいのかが明確にはわかっていません。
そのような状況から、耐容上限量は定められていません。

そして、たんぱく質はエネルギーを産生する栄養素(具体的にはたんぱく質、脂質、炭水化物など)のひとつです。
どの栄養素からエネルギーを摂取するかということが生活習慣病の発症や重症化と関連するため、生活習慣病発症予防の指標である目標量も定められています。

●試みられた新指標の策定

たんぱく質は、このように5つの指標のうち4つが定められているのですが、それ以外の観点での指標の策定も試みられました。

というのは、総論に戻るのですが、「策定方針」の項にあるように、2020年版はこれまでの版での方針に加えて、高齢者の低栄養予防やフレイル(要介護状態の前段階)の予防も新たに視野に入れて策定を行っています。
また「指標の目的と種類」の項には、2020年版では十分な科学的根拠がある場合には、生活習慣病の重症化予防やフレイル予防を目的とした量を、目標量とは別に示すと説明されています。
食事摂取基準の5つの指標とは異なる、まだ名前が付けられていない新指標を示そうとしたのです。

そしてたんぱく質は、フレイルの発症や重症化予防と関連があるのではないかということが、いくつかの研究で示されるようになっています。
そのため、フレイルの発症や重症化予防のためのたんぱく質摂取量に関しても指標を定めたいところでした。

けれども今回は、その観点で研究論文の収集などを行ったものの、研究報告の数が十分でなく、結論が得られていないことから、指標の設定は見送られました。

●必要量には窒素出納法の結果を活用

それでは、具体的に、各指標がどのように定められたのかを見ていきます。

まずは、摂取不足を回避するための指標である、推定平均必要量や推奨量に関してです。
これらの指標を定めるには、1日当たりに必要なたんぱく質の量である、たんぱく質維持必要量が必要になります。
この量は、窒素出納法の研究結果で知ることができます。

たんぱく質は窒素を多く含むという、他の栄養素にはない特徴があります。
窒素出納法とは、食事で摂取したたんぱく質中に含まれる窒素の摂取量、そのうち体内に吸収されて尿中に排泄される窒素の排泄量、体内に吸収されずに便として排泄される窒素の排泄量などを測定して、そこから体内に必要なたんぱく質量を算出する方法です。

様々な研究結果から、成人でのたんぱく質維持必要量は、男女とも1日当たり体重1 kgに対して0.66 gであることが示されています。
この値と参照体重、さらに吸収率などを用いて、成人の各性・年齢区分のたんぱく質の推定平均必要量と推奨量が定められています。

高齢者ではもっと高い必要量を示したとの研究結果もありますが、まだ十分な報告がないため、高齢者も他の成人の年齢区分と同じたんぱく質維持必要量を用いて指標が定められています。
また、1歳以上の小児でも、たんぱく質維持必要量は成人とほぼ同じ値であることが研究から示されています。
一方で、小児や妊婦は、体重を維持するだけではなく、増加させなければなりません。

そこで、小児や妊婦では、体重増加に必要なたんぱく質の量を付加して、推定平均必要量と推奨量が定められています。
1歳未満の乳児では、窒素出納法でたんぱく質維持必要量を求めたような研究結果が存在しないため、推定平均必要量と推奨量は設定されていません。
代わりに、現在摂取されている量が不足していない量であると推測して、母乳中の濃度、哺乳量、そして離乳食の摂取量などから算出された摂取量の結果を用いて、目安量が定められています。

以上のようなことから、各性・年齢区分のたんぱく質推定平均必要量、推奨量、目安量は、具体的には表1のとおりになります。

表1. たんぱく質の食事摂取基準(推定平均必要量、推奨量、目安量:g/日、目標量:% エネルギー)(文献1 1-2 P.126):食事摂取基準の指標の値(いわゆる基準値)というのは、各項の末にあるこの表の値のことを言います。

●目標量はエネルギー摂取割合を考える

定められている4つの指標のうち残るは、生活習慣病の発症予防のために定められている目標量です。

たんぱく質、脂質、炭水化物などのエネルギー産生栄養素のうちの、どの栄養素からエネルギー摂取しているのかという比(バランス)は、生活習慣病の発症と関連があることが示されています。
そのため、たんぱく質の目標量は、エネルギー摂取量全体のうちの何%をたんぱく質から摂取すればよいのか、という割合である%エネルギーで示すこととなりました。

また、たんぱく質は低すぎても高すぎてもよくないことから、適切と考えられる摂取割合の範囲を示すための下限値と上限値が定められました。

まず目標量の下限値ですが、生活習慣病の発症を防ぐ以前に、不足しない量、つまり推奨量以上を摂取しておく必要があります。
そこで、たんぱく質の推奨量を、各性・年齢区分の推定エネルギー必要量を使って%エネルギーで示すと、最も低い身体活動レベルの場合で、それぞれ12%エネルギー前後となります。

この量が不足のリスクがなくなる最低量であると考えられそうです。
一方で、様々な研究からたんぱく質の摂取を増やすことがいくつかの生活習慣病に予防的に働く可能性が示されていることを考慮すると、この最低量よりは多めにとったほうがよさそうです。

さらに、先ほど、フレイルの発症や重症化予防のためのたんぱく質摂取量の指標は定められなかったことを説明しました。
このことは、食事摂取基準の表(表1)の注釈2にも、フレイル予防を目的とした量を定めることは難しいと触れられています。
フレイル予防のたんぱく質摂取量として定めることはできなかったものの、高齢者では若年・中年成人に比べると、多めのたんぱく質が必要かもしれないといった研究結果が徐々に示されるようになってきています。
このことは、目標量を定めるときに考慮されることになりました。

以上のようなことから、目標量下限値は、1~49歳で13%、50~64歳で14%、65歳以上で15%エネルギーと定められています。

目標量の上限値ですが、摂りすぎによる健康障害が現れない量に設定するのがよさそうです。
その場合、本来であれば耐容上限量を考慮するべきなのですが、研究結果が乏しく、その指標は示されていません。
けれども、20~23%エネルギー前後のたんぱく質摂取量というのは、成人では悪い影響がでないぎりぎりの範囲かもしれないとか、高齢者には影響をきたす可能性があるなどと言われている量です。

そこで、十分な科学的根拠は得られていないものの、1歳以上の全年齢区分で、目標量の上限値は20%エネルギーと定められています。

このように目標量は%エネルギーで示されたものが本来の食事摂取基準の指標の値ですが(表1)、日常での活用のしやすさから、その値がg/日で示されるとどの程度の値になるかも示されています(表2)。

表2. 身体活動レベル別に見たたんぱく質の目標量(g/日)(文献1 1-2 表8):たんぱく質の目標量の値は、本来は%エネルギーで示されていますが(表1)、日常生活の中での活用のしやすさを考慮して、g/日の単位でも参考に示されています。

●もっと多くのたんぱく質が必要?

たんぱく質の指標は以上のように定められていますが、最近になって、たんぱく質維持必要量を窒素出納法で求めるやり方は誤差が大きくて問題ではないか、という意見が各国で出されています。

窒素出納法では、料理がお皿についてしまうと摂取量をうまく測定できなかったり、尿や便以外のところからの排泄量を十分に測定できなかったりすることが問題だそうです。
そのため、徐々に、指標アミノ酸酸化法という新しい方法でたんぱく質維持必要量を求める研究が増えてきています。

この新しい方法でたんぱく質維持必要量を求めると、これまで窒素出納法で示されていた量よりも高めの量が示されるようです。

2020年版では、指標アミノ酸酸化法の研究結果はまだ、質の高いものが十分にないということで指標の策定に活用されませんでしたが、今後の食事摂取基準の改定では、この新たな方法で得られた結果も指標の策定に使われ、たんぱく質の推奨量などが大きく変わる、ということもあるのかもしれません。

さらに、フレイル予防を目的とした量も研究が進めば定められることになるかもしれませんし、たんぱく質の今後の動向には目が離せません。

参考文献:

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.

※食情報や栄養疫学に関してHERS M&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、通信講座も開講しています。ぜひご覧ください。

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表としてフリーランスで栄養疫学研究の支援を行う.

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