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執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

USDAがNon-GM食品の公的認証と表示を計画、とメディアは言うけれど

宗谷 敏

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 2015年5月14日、AP通信のMary Clare Jalonick 記者は、USDA(米国農務省)がNon-GM(非遺伝子組換え)食品の任意の公的認証と表示を検討しているとスクープした。

 Tom Vilsack農務長官がUSDA職員に宛てた5月1日付書簡をAPは入手し、それには認証計画の概要が記されていたというもの。USDA報道官はVilsack長官が出状したことは認めたが、認証プログラムに関してのコメントは拒否している。

 今のところ、食品が GMOフリーであることを証明する政府の表示はなく、多くの企業が「Non-GMO Project」と呼ばれる非営利団体によるプライベート表示を使っている。USDAのオーガニック表示は、同じように食品がGM成分フリーであることを証明するが、多くのNon-GMO表示食品はオーガニックではない。

 Vilsack長官によれば、最近、「leading global company」が、Non-GM表示が可能となるよう自社製品に使われるトウモロコシやダイズがGMではないことを確認するための援助を Agriculture Marketing Service(AMS:農業サービス局) に求めた。AMS は検査と検証プロセスを開発するために、この企業と共に取り組んだ。プロセス認証プログラム自体は新しいものではないが、これはUSDAを通して認証された最初のNon-GMO /GE申立てである。この認証制度はまもなく発表されるであろう。他の企業がこのサービスを利用するためにすでに列を作っている。

 米国政府が任意ではあれNon-GMの認証と表示を認めたという上記APの報道は間違えとは言えないが、話はもっと複雑らしい。先ず、5月15日にVilsack書簡全文が、他メディアから公表された。

 次に、同じく15日、「leading global company」とは、カナダのオーガニック食品加工企業であるSunOpta社であるとNew York Timesが暴露した。

 さらに、同日「Non-GMO Project」が、APはVilsack書簡の一部を誤解しているというコメントを出した。

 この3つの追加情報を整理すると、

(1)USDAの措置は、humanely raised(人道的に飼育された畜肉)no antibiotics ever(抗生物質不使用の鶏肉)などと同じで、既にあるProcess Verified Programの発展形であり、システムとしては新しいものではない(「Non-GMO Project」)。

(2)USDAは SunOpta社の製品成分が GMOフリーであることを証明してはおらず(エーッ?)、SunOpta社のミネソタ州にある自社工場で処理するトウモロコシとダイズはGM品種ではないことを確認したと認証し、同工場からの製品には「Process Verified Seal-Non-G.M.O./G.E」という紺と緑色のシールを貼ることを認めた(New York Times、ウワーッ、ものすごいレトリック!要するに、これはあくまで行程認証であり製品認証ではない。しかし、製品には行程認証済みと表示していい。但し、そのことは当該製品がGMOフリーであることを必ずしも保証しない、ということだろう。これを正しく理解できる一般消費者がいるのだろうか?)。

 このシステムは、USDAのオーガニック認証プログラムとも似通っている(但し、オーガニックには定義を含む国家が定めた規格・基準が確立されているが、Non-GMはこれらを欠く)。同じく行程認証であり原則的に原料段階でGMはゼロ・トレランスだが、製品は95%以上認証済みの原料を用いた場合オーガニックと表示できるので、残りの原材料5%にGMが混入したらどうなる?という話は前々回書いた。

 一方、Non-GM行程認証では、製品への原材料のピュリティについては(今のところ)触れられていないが、ここは地雷かもしれない。SunOpta社が、EUにNon-GM表示付自社製品を輸出したければ、製品閾値をゼロ又は0.9%に設定しなければならないだろう。米国のNon-GMシールとEUのGM義務表示がSunOpta社の同一製品に貼られていたら、まさにマンガである。あるいは製品閾値を定めず、TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)などで特殊ネゴが計られるのか?興味深いところだ。

 APも触れているが、この認証システムは連邦議会においてMike Pompeo下院議員(カンザス州、共和党)が3月25日に議員立法したH.R.1599(Safe and Accurate Food Labeling Act of 2015)の一部変形具体化であろうという見立てはおそらく正しい。

 H.R.1599は、超党派の下院議員(共和党33名、民主党12名)とGrocery Manufacturers Association(GMA:食品製造業者協会)はじめ食品業界からの支持を集めており、「TITLE III—Non-bioengineered food certification(非バイオ食品の認証)」が含まれているからだ。しかも、条文中の定義で管理する国家機関をUSDA-AMSと明確に定めている。

 H.R.1599は3部構成になっており、TITLE Iでは、現在開発企業によるGM食品上市に関するFDA(食品医薬品局)との安全性に係わる任意の事前コンサルテーションを義務化する。その見返りに、州政府も含めてGM食品義務表示を禁止(とは明確に書かれていないが、帰結的にそう読める)する。コンサルテーション抜きでGM食品を商業化するなどという蛮勇を振るう企業はまず無いから実質的に現状とは変わらず、コンサルテーション義務化が義務表示禁止とのトレードオフなら食品企業にとっては御の字だろう。

 TITLE IIは、市場が混乱している「100% natural」、「naturally grown」、「all natural」、「made with natural ingredients」などの表示に関し、政府による定義と管理を提案しており、GM反対派は、GM食品にも「Natural」表示が可能になると主張している。

 H.R.1599は、下院の複数委員会で現在審議中だが、必ずしもスムーズな審議になっていない。そこには、FDA(食品医薬品局、食品表示全般を統括)を管理する委員会とUSDAを管理する委員会との間で、(GM)表示は誰が担保すべきなのかというコンフリクトが存在するからだ。

 このような背景を考えれば、USDAと食品産業によるこの動きは、H.R.1599が成立しなかった場合の保険的意味合いを持ち、かつFDAに対しお庭を侵さないようにUSDAは既存のシステムを使っただけです、というエクスキューズを持つ、技ありの解決ではある。さらに、トップバッターにカナダベースのオーガニック企業を持ってくることで、米国内食品企業同士の(Non-)GM表示是非の諍いを避けたのも賢い。

 マーケティングから考えれば、民間認証のNon-GM表示食品が既に市場にあるから、爆発的に需要が増えるとは思えないが、大手食品企業がこのUSDA/AMS行程認証に一斉に乗ってNon-GM原料の調達に走れば、一時的に供給が逼迫し原料価格は高騰するかもしれない。但し、農家がNon-GM作物栽培にシフトするのはオーガニックよりはるかに容易なので、数年でこの混乱は収まり、Non-GM食品は市場に一定のシェアを得ていくだろう(オーガニックとも競合するその規模はいま分からないが)。それにしても、GMを避けたい米国の消費者は、店頭でUSDA認証オーガニック、民間認証Non-GM、USDA認証Non-GMを前にして、どんな判断を下すのだろうか?市場が混乱するだけという一部識者からの指摘も分かる。

 20年間GMOsの周辺事情を眺めてきて、米国では表示で大騒ぎになってはいるが、実はこれは箱根の火山活動程度の問題であり、安全性問題が一段落した今(GM表示の要求は、安全性問題では勝てないため、消費者の知る権利を主張するのがトレンドである)は、むしろ安定期だと筆者は感じている。富士山大爆発は、おそらくGMコムギとコメが商業化される時点で起きる。そう考えるとNon-GM食品の公的認証(みたいなの)は、先を読んだ政府と食品業界の深慮遠謀ではないかとも思えてくる。

<5月19日追記>
 上記執筆時には閉鎖されていたUSDA/AMSのProcess Verified Programのサイトが再開され、リストの21ページ目にSunOpta社が追加された。同社としてのピュリティ基準として99.1%が謳われており、つまりGM混入閾値は0.9%ということになる(あくまでSunOpta社の独自基準であるが、事実上AMSによるNon-GM認証のデファクト・スタンダードとなる可能性は高い)。

 また、5月18日付 Epoch Timesは、この認証はSunOpta社が使う生(ナマ)のトウモロコシとダイズに対するものであり、今のところ認証シールのついた加工食品はスーパーの店頭には現れないだろうと分析している(もしそうならこれほど大騒ぎすることではないように思えるが)。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい