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執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

欧州委員会のGM上市規制改正案は依然「絵に描いた餅」か?

宗谷 敏

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 2015年4月22日、欧州委員会はGM(遺伝子組換え)食品・飼料の承認(上市)手続きに関する改正案Q&Aを発表した。本案は、今後欧州議会と閣僚理事会における審議を経て施行される見込みだ。

 これは、先行して採択・施行(2015年4月2日より)されたGM作物の栽培承認手続き(環境放出指令Directive 2001/18/EC)の改正とは対をなすもので、共通する基本理念は各加盟国にopt out(選択権)を与え、その手続きを示したものだ。

 GM作物栽培とGM食品・飼料の上市(平たく言えば輸入と利用並びに販売)承認プロセスの基本的構造については、フローチャートを参照願いたい。

 次に、今回のプロセス改正案に関して概要を説明したPDFを、少し注釈を加えながら読んでみよう。後説の便宜上、各項目にabcの項番を振る。

 <なぜ本改正が提案されたのでしょうか?>

a) EU国民はGMに関して意見が分かれたままです:61%が「GM食品は安全」を認めず、「GM食品が経済的に良い」は、1/3以下(2010年Eurobarometer調査)。
b) 「選択権なし」: GMOs の承認 / 拒絶について結論を下すのは常任委員会と控訴委員会における加盟国の(特定多数決)投票による組織的な結果(加盟国固有の意志を認めず)。
c) 加盟国から支持がなくても欧州委員会はGMOs上市を認可できます。

<経済的局面:>

d) すべての加盟国にとって畜産は重要。
e) ダイズミール(粕)は家畜飼料の主要なタンパク源。
f) EUは第三国からのダイズミールに大きく依存:
g) すべての加盟国がダイズミールを輸入するか、使用している。
h) 2013年にダイズ(1350万トン)とダイズミール(1850万トン)計3200万トン:EU消費量の96%を輸入(域内のダイズ生産は年間140万トンのみ)。
i) 輸入されたダイズミールのほぼ90%はGM。
j) 2013年に輸入されたダイズとダイズミール3200万トンの国別内訳と(その国のGM栽培比率)
43.8%ブラジル(89%)、22.4%アルゼンチン(100%)、15.9%米国(93%)、7.3%パラグアイ(95%)、4.4%カナダ(65%)、2.6%ウクライナ(0%)、1.9%ウルグアイ(100%)、1.7%インド(0%)、世界(72%)

<欧州委員会の提案とは?>

h) 承認システムは変わりません:
i) リスク評価: EFSA(欧州食品安全機関)と加盟国の規制当局が担保します。
j) 加盟国は、GM食品・飼料の上市について-(リスボン条約に基づく)コミトロジー手続き(常任及び控訴委員会)を通じて-意見を求められ、投票します。

<(上記システムにより)GM食品・飼料が承認された後:>

k) GM食品・ 飼料の使用について各加盟国は選択する(opt out)ことを許されます。
l)(但し)加盟国によって提案された法案は、 EFSA のリスク評価と対立する理由により正当化することができません

<次の手順は?:>

m) 通常の立法提案に従い:閣僚理事会と欧州議会に草案が送られます。

 以上実質5枚のPDFからは、欧州委員会によるメッセージのいくつかが読み取れるが、4月22日に欧州委員会が同時発表したFact Sheetは栽培規制の改正も含めてさらに詳しい背景情報などが提供されている。

 先ず、上市手続き作業にかかる時間を短縮化したいという欧州委員会のホンネがある。b)とc)に示された手順は、投票結果が承認 / 拒絶いずれの規定数をも満たさず欧州委員会のデフォルト承認に持ち込まれるまでに冗長な時間を要する。現在58品種(トウモロコシ、ワタ、ダイズ、ナタネ、サトウダイコン)のGM作物が食品・飼料の使用を認可されているが、輸出国側の開発・承認スピードに到底間に合っていない。

 d)~g)の域内畜産飼料事情を考慮すればEU側未承認GM混入により貿易が止まるのは致命的だし、TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)交渉も絡めた米国からの圧力も当然あるだろう。4月16日のGuardian紙は、欧州委員会には5月末までに17GM品種を纏めて新たに認可したい意向があるとスッパ抜いている。

 h)~i)にある通り、承認の基本システムは変わらない。しかし、栽培規制改正が承認手続き段階での加盟国の介入(開発メーカーの承認申請時に自国を除外するよう申し入れられることになった)が認められたのに対し、上市承認では更に厳格に現行基本システムが維持されている。途中で加盟国が意見を出せるのは、従来通りEFSAのリスク評価終了時のパブリック・コメントのみだからだ。

 つまり、a)にも拘わらずEFSAとEUが認めた安全性に関して、承認作業完結まで加盟国は一切文句が付けられない。新制度においては、k)により承認後はじめて加盟国は、当該GMの流通から身を引く権利が与えられる。従来のシステムにおいても、この段階で加盟国は、健康や環境に対する新たなリスクを(科学的に)証明し、emergency measures(緊急措置)を発動することによりGMの上市をストップできた。しかし、この挑戦はEFSAや欧州裁判所によりことごとく否定され、高いハードルは現実的に「絵に描いた餅」であった。

 新たに、k)を設けたのだから、今まで承認手続き段階の投票で、常に反対票を投じてきた特定の加盟国はもう脚を引っ張るな、というトレードオフなのだが、果たして上手く機能するだろうか。形の上では加盟国の権利拡大に見えるが、l)の縛りは曲者である。EFSAとEU がなしと認めた健康や環境に関するリスクを理由とすることは一切許されず、権威はさらに手厚く保護されているのだ。それ以前に、GM食品はともかく飼料についてはd)~g)で、「やれるものならやってみろ」という欧州委員会の皮肉も透けて見える。

 栽培規制の改正では、「固有の文化や社会経済性」など安全性以外の理由により加盟国はGM作物栽培を禁止できるようになった。しかし、上市規制改正ではこれらの例示すら見当たらない。「固有の文化や社会経済性」などを理由として準用出来るかと考えると、この説得性のある論立てはかなり難しそうだ。このあたりが、GM反対派がこの改正に反対する理由であろう。「お供えの餅にダイダイを載せただけで絵に描いたままじゃないか」という訳だ。

 妥協案の常として、一方のGM推進派からもこの改正は評判が悪い。米国はUSTR(米国通商代表部)が落胆を表明し、EUの食品・バイテク業界も「EU統一市場原理を壊すもので、経済的ダメージは計り知れない」として、欧州議会と閣僚理事会へのロビーイングを画策しているという。

<4月26日追記>

2015年4月24日、欧州委員会は、2013年から凍結していたGM作物の輸入、利用及び販売をデフォルト承認した。
内訳は食品・飼料として新規10品種(トウモロコシ1品種、ダイズ5品種、ナタネ1品種及びワタ3品種)並びに更新7品種(トウモロコシ2品種、ナタネ1品種、ワタ4品種)、切り花2品種であり、今後10年間有効。

*新規承認10品種
トウモロコシ:MON 87460(乾燥耐性、Monsanto社、BASF社共同開発)。

ダイズ:MON 87705(除草剤グリホサート耐性及び低飽和脂肪酸・高オレイン酸)、MON 87708(除草剤ジカンバ耐性)、MON 87769(ステアリドン酸産生、以上Monsanto社)、305423系統(高オレイン酸DuPont/Pioneer社)、BPS-CV127-9(イミダゾリノン系除草剤耐性、BASF社)。

ナタネMON 88302(除草剤グリホサート及びグルホシネート耐性、Monsanto社)。

ワタ:T304-40(除草剤グルホシネート耐性及びチョウ目害虫抵抗性)、LLCotton25xGHB614(除草剤グリホサート及びグルホシネート耐性、以上Bayer CropScience社)、MON 88913(除草剤グリホサート耐性、Monsanto社)。

*承認更新7品種
トウモロコシ:T25(除草剤グルホシネート耐性、Bayer CropScience社)、NK603(除草剤グリホサート耐性、Monsanto社)。

ナタネ:GT73(除草剤グリホサート耐性、Monsanto社)。

ワタ:MON 531 x MON 1445(除草剤グリホサート耐性及びチョウ目害虫抵抗性)、MON 15985(チョウ目害虫抵抗性)、MON 531(チョウ目害虫抵抗性)、MON 1445(除草剤グリホサート耐性、以上Monsanto社)。

*新規承認切り花2品種
色変わりカーネーション:IFD-25958-3(除草剤クロロスルフロン耐性)、IFD-26407-2(除草剤クロロスルフロン耐性、以上Florigene社)。

<一部参照記事>

4月22日 AFP「EU agrees opt-out deal for GMO imports」
4月22日 Reuters「UPDATE 1-EU proposes GM opt-out for members, angering pro- and anti-GM camps」

4月22日 Bloomberg「EU weighs option of national bans on biotech imports」

4月22日 EurActiv「EU proposal on GMO food criticised by Greenpeace, industry」

4月22日 Financial Times「EU proposal on genetically modified crops satisfies no one」

4月23日 AFP「US says new EU plan for GMO imports is no solution」

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい