食の安全・考
食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。
食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
2020年6月1日より、健康食品の安全性にかかわる新制度「指定成分等含有食品による健康被害報告制度」が、改正食品衛生法のもとで始まりました。健康食品の中でも特別の注意を必要とする4成分を指定成分として、適正な製造・品質管理や、事業者からの被害情報届出を義務化したものです。
現在、被害情報は厚労省のウェブサイトで公開され、1件ずつ詳細に知ることができます。さらに4成分以外の健康食品の被害情報も、このウェブサイトで公開する方向で検討が進んでいます。
2017年に検討された当時、この制度は健康食品の健康被害から消費者を守る1丁目1番地になると言われましたが、さらに拡充する勢いです。制度の現状と課題について、まとめます。
新制度が始まって1年4カ月がたち、この間に厚労省のウェブサイトで公開された被害情報届出は347件でした(下図参照)。4成分の中でもっとも多かったのは「コレウス・フォルスコリー」の202件です。よく健康食品売り場で、ダイエット用に表示されている商品を見かけます。これらとの関連が疑われる健康被害が報告されているのです。
この制度が始まった背景には、プエラリア・ミリフィカを含む食品で2017年7月までの5年間で200件以上の健康被害が国民生活センターに寄せられたことがきっかけでした。当時は全国から被害が寄せられていても法的措置を講じることができず、食品衛生上の危害の発生を防止する見地から新制度ができたのです。プエラリアよりもフォルスコリのほうが多いのかと、意外な感じでした。
厚労省のウェブサイトには定期的にデータが更新され、蓄積されています。それを見ると、どんな症状が出たか、いつから健康食品を摂取していつ発症したか、他に健康食品や医薬品を摂取していたか、重篤度はどの程度かがわかります。重篤度は軽微なものがほとんどですが、こうして情報が公開されることで危害発生の防止につながることが期待できます。
一方、消費者庁もこれら指定成分等含有食品について食品表示基準を改正し、「指定成分等含有食品である旨」及び「指定成分等について食品衛生上の危害の発生を防止する見地から特別の注意を必要とする成分又は物である旨」の表示を14ポイント以上の大きさで記載することを義務付けています。他にも食品関連事業者の連作先や、体調に異変を感じた時の注意喚起情報も義務付けており、店頭ではきちんと表示されているものを見かけるようになりました。
さて、この新制度について、10月に薬事・食品衛生審議会で関連する調査部会、調査会が開催され、検討が行われました。10月18日の調査会では、制度の実効性など様々な課題について意見が出ています。
たとえば、「被害情報の中にはブラックコホシュの肝毒性と鎮痛剤を飲んでいる人の医薬品側の相互作用もあるかと思うが、こうした医薬品の摂取状況についてどこまで聞いているか」という質問に、厚労省の事務局側は「全てを系統的網羅的に収集できないが、薬物との相互作用も否定できないときには、できるだけ調べるよう努めている」と答えています。
また、「被害報告を企業からあげてもらっているが、ウェブサイトで特にプエラリアでかなりの種類が販売されており、それを見ると、消費者庁の管轄にはなるが、指定成分等の記載の対応をしていないメーカーが結構いる。こうしたメーカーでは、被害が出てもきちんと届け出をしない可能性があるのではないか」という指摘もありました。
これに事務局側は「網羅的にアプローチはできていない。4成分以外でも被害情報であがってくるが、PIO-NET(国民生活センターによる全国消費生活情報ネットワークシステム)でどういう情報が入っているか、確認しており、消費者庁と協力しながら、対応できる体制をつくっていきたい」と回答しています。
調査会では、これまで専門家4名によるワーキンググループ(以下WG)により指定成分が定められてきましたが、WGに皮膚科、呼吸器内科、腎臓内科の3名の専門家を参考人に加えること、指定成分の4成分以外のいわゆる「健康食品」の健康被害の報告についてもWGで確認しその情報を公表すること等、制度の改正することが検討されました。
厚労省は調査会の中で「これまでのWGでは4つの指定成分に限定してきたが、指定成分以外のものも多少は出てくるので4名の委員に任意で見てもらっており、WGでいわゆる健康食品も含めると明記することにした。現在は指定成分しか公開していないが、いわゆる健康食品についても全て、厚労省のHPでアップしていきたい」と説明しています。
この点について調査会の曽根博仁座長(新潟大学大学院医歯学総合研究科教授)も「いわゆる健康食品の中には、薬ではないのに、薬の副作用によく似た肝障害、皮膚障害など全身の障害が出て、中には薬の副作用に匹敵するくらい重篤なものが含まれることがある。全身症状が出る可能性も踏まえて、より充実した体制にしていただいた。指定成分には産婦人科の症状もあり、将来的には産婦人科、小児、アレルギー関連にも相談できるような体制になればいいという希望がある」と述べています。
一方、4成分以外に被害情報を拡げる点について、委員から健康食品全般に広げると膨大な数が出て、WGでとても対応できないのではないかと心配の声があがった点について、事務局は、
「現時点で、いわゆる「健康食品」では月1件があるかないかくらいだ。健康食品の健康被害防止という点から言えば、指定成分制度は、頂点の部分で、土台の部分をしっかりしてもらいたいし、こうした制度を消費者にしっかり知って頂くことも大事である。」
「厚労省としては製造管理をしっかりしてもらって、それでもなお健康被害が出る状況があれば、指定成分にしていくという取り組みも大事である。事業者や他省庁と協力しながら、徐々に健康食品の制度が充実したものになっていくように、しっかり検討してきたい。」
と述べています。(なお、いわゆる「健康食品」とは、保健機能食品も含むことも確認されました。)
今後の予定ですが、事務手続きを経て11月にも新たな参考人への情報提供を開始し、今年度中にWGを少なくとも1回開催、年に3回程度を予定しているとのことです。
思い返せば2017年の改正食品衛生法懇談会で、健康食品の健康被害防止の1丁目1番地として、この制度が新設されました。法律が施行されて1年ちょっとで、徐々に制度が強化され、健康食品全般の被害防止につながるように制度が拡充されことは、消費者にとっても、業界の健全化という意味でも大きな一歩です。
あとは、事業者がどのくらいきちんと被害を報告するのか、定められた注意喚起表示に適切に対応するのか、これからが本番だと思います。厚労省、消費者庁、国民生活センターの連携を期待したいと思います。(2021年10月21日FOOCOMメールマガジン第510号より加筆修正)
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。