科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

PM2.5で食品が汚染される?

瀬古 博子

キーワード:

放射性物質を避けていたら・・・

 中国の大気汚染の問題で、PM2.5という聞きなれない言葉がニュースで何度も流れるようになりました。日本への影響も懸念され、福岡市では警戒予報を出すといった取り組みも開始されています。
 消費者の間には、PM2.5による食品の汚染を心配する声も出てきているという話を聞きました。突飛な話のようですが、特に九州産の農産物などについては、放射性物質への懸念から関東・東北産を避けたい消費者が購入していることがあり、そのような消費者の中では、“放射性物質を避けているのに、新たな危険物質がやってくるなんて”との思いがわき起こっているのかもしれません。

PM2.5とは

 PM2.5のPMとはParticulate Matterの頭文字です。PM2.5は、大気中に漂う粒径2.5μm(1μmは0.001mm)以下の小さな粒子のことで、微小粒子状物質とか超微粒子とも呼ばれます。
 環境省のサイトによると、PM2.5は、髪の毛の太さの30分の1程度と粒径が非常に小さいため、肺の奥深くまで入りやすく、肺がん、呼吸系への影響に加え、循環器系への影響が懸念されているとのことです。日本では、人の健康保護のため望ましい水準として「1年平均値15μg/㎥、1日平均値35μg/㎥以下」という環境基準が定められており、各地でモニタリングされています。さらに、1日平均値の2倍にあたる70μg/㎥を超えると予想される場合、外出を自粛するなど注意喚起する方針案が環境省から示されています。

 また、世界保健機関(WHO)では、PM2.5について、1年平均値10μg/㎥、1日平均値25μg/㎥という指針を定めています。WHOでは、微小粒子状物質(粒径が10μm以下のPM10)による大気汚染を70μg/㎥から20μg/㎥に低減できれば、大気環境の関連死を約15%低減できるとしています。

中国の状況

 在中国日本大使館の資料によると、中国では今年1月に入り、激しい大気汚染が頻発し、1月12日、北京市内の多くの観測地点でPM2.5の観測値が700μgを超過しました。中国のPM2.5の環境基準は70μg/㎥なので、この値はその10倍、そして日本の環境基準値(1日平均値35μg/㎥)の約20倍になります。1月に中国環境基準を達成したのは4日間のみ、という深刻さです。
 
 PM2.5の発生源はボイラーや焼却炉、コークス炉、自動車、火山などさまざまですが、北京の場合、自動車由来22%、発電所やボイラー等の石炭燃焼17%、粉塵16%、自動車や家具塗装等の工業噴射揮発16%、天津市、河北省からの越境汚染25%などとされています(2012年1月北京市発表)。

日本もひどかった

 このような中国の大気汚染は、日本にとってもたどってきた道のりだといえます。1960年~1970年代ぐらいには、日本も同じような汚染状況であったようです。東京などで光化学スモッグが頻発するようになったのは1970年頃からのこと。当時、夏の日中、光化学スモッグ注意報が出て、窓の外でブオーっという警報が鳴り響き、不気味に感じられたことを今でも覚えています。この間、日本では、1968年に大気汚染防止法が制定され、1971年に環境庁(当時)が発足するなど、環境保護・公害対策が本格的に着手されてきました。

たばこの煙もPM2.5

 いま東京はきれいな青空を取り戻していますが、PM2.5の濃度が局地的に高くなる場所が実は日本の中にもあります。それはたばこを吸う人のいる場所です。たばこの煙もPM2.5なので、喫煙スペースではPM2.5の濃度は800μg/㎥になることもあり、北京の汚染状況と同じようなレベルになってしまうのです。

 PM2.5の害を避けるには、たばこの煙を避け、分煙を進めることが重要です。食品が汚染されたら…などと心配するよりも、まずはきれいな空気の中で食事できるようにすることが大事。そして、それはひとりひとりがかかわっていけることです。

 食品の安全性については、何か一つ問題が起こると、報道もそれに集中し、消費者としても「これさえ避ければ」となりがちです。しかし、実際にはいろいろな危害要因があるので、食品安全をトータルでみる必要があります。そのことを忘れないようにしたいものです。

参考:
環境省・微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報
WHO・Air quality and health
PM2.5問題に関する日本禁煙学会の見解と提言

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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