科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

週刊新潮「国産食品」第4弾はトランス脂肪酸

瀬古 博子

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週刊新潮第4弾
週刊新潮が「食べてはいけない『国産食品』実名リスト第4弾」を出した。
中吊りを見ると、
「危ない『パン』のワースト30商品ランキング」
「成人病まっしぐら 使ったらいけない調味料全58商品」
などの文言が目を引く。

製パン会社が情報開示している

話題の中心は、トランス脂肪酸のようだ。

トランス脂肪酸含有量が多いパンをリスト化し、掲載しているが、これらのパン類のトランス脂肪酸含有量は、週刊誌を買わなくても、メーカーのホームページで見ることができる。

リストに登場する製パン会社は、もともとトランス脂肪酸含有量の情報開示に熱心に取り組んできた企業である。

週刊誌記事では、含有量が高いものをピックアップし、「ワースト」としている。一方、情報開示していないメーカーの商品は除外しているので、かなり限定的な情報といえる。

メーカーの商品に関する情報開示は、消費者のためのもの。掲載品以外でも、商品の情報が広く出ている。トランス脂肪酸がゼロ(100g当たり0.3g未満)のものも多い。エネルギーや飽和脂肪酸、食塩相当量も示されているので、読者の皆さんには、ぜひ全体像を見ていただきたい。と、同時に、メーカーの情報開示の取り組みをこれからも支持したい。

・山崎製パン

  食パン

  菓子パン

・フジパン

・敷島製パン

●トランス脂肪酸について知っておきたいこと

トランス脂肪酸がなぜ問題になるかというと、多量摂取により、冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症など)が増加すると考えられているからだ。WHO(世界保健機関)では、トランス脂肪酸の摂取量を、総エネルギー摂取量の1%未満までに抑えるように勧告している。

日本人の場合、総エネルギー摂取量は平均約1,900キロカロリー。その1%に相当するトランス脂肪酸は約2グラム。つまり、2グラム未満ならWHOの勧告値に収まることになる。

では、日本人はどのくらいトランス脂肪酸を摂取しているのかというと、日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量は約0.67グラム。エネルギー比は0.3%で、WHOの勧告値1%を十分下回っている。

安心して食べたい

安心して食べたい

しかも、このなかには、乳製品や肉などにある天然由来のトランス脂肪酸も含まれるので、トランス脂肪酸のうち、米国等で規制の対象となる「部分水素添加油」の摂取量だけを見ると、0.12%とさらに少なくなる(食品安全委員会「トランス脂肪酸評価書」表14-1参照)。

日本人のトランス脂肪酸摂取量が諸外国に比べて少ないことは、食品安全委員会の資料からもわかる。

●脂質全体でバランスをとる

もちろんすべての人が平均的な食生活をしているわけではない。脂質たっぷりの食事ばかりしている人は、注意が必要だろう。だが、トランス脂肪酸だけに気をつければよいのか?

日本人の中には、飽和脂肪酸を摂り過ぎている人もいる。飽和脂肪酸は、バターやラードなど動物性の油脂に多く含まれ、常温で固体となる性質がある。

厚生労働省が定めている「日本人の食事摂取基準2015年版」では、飽和脂肪酸の目標量は総エネルギー比の7%以下。国民健康・栄養調査結果(平成28年)によると、20代の男性、20~60代の女性で、この目標量を超えて摂取してしまっている。

トランス脂肪酸を減らしても飽和脂肪酸の摂取が増えてしまったのでは、健康的とはいえない。

トランス脂肪酸をどんな油に置き換えるのがよいか

 WHOでは、まず多価不飽和脂肪酸、次に一価不飽和脂肪酸をすすめ、多価不飽和脂肪酸はベニバナ油、コーン油、ヒマワリ油、大豆油、魚油等に多く、一価不飽和脂肪酸はキャノーラ油、オリーブ油等に多いとしている。

さまざまな食情報を見ると、個別の食品の取捨選択で健康になれるかのように思えるかもしれないが、食事は全体で考えることが大事。当たり前のことだが、肉ばかり、洋菓子ばかり多食ということは避け、野菜、果物、魚などを含め、多様な食品をバランスよく食べることがベストと思える。

なお、中吊りの「成人病まっしぐら」については、調味料の話なので、前々回前回のとおりだが、成人病という古い表現には当惑してしまう。現在は生活習慣病というのが一般的だろう。文字通り、生活習慣(偏った食べ方、運動不足、喫煙、飲酒など)が原因となる病気だ。個々の食品、調味料よりも、一人ひとりの使い方・食べ方が問われるのではないか。

参考

http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/index.html

https://ameblo.jp/cao-fscj-blog/entry-12382266606.html

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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