科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

頭も体も使って準備万端:疫学調査の裏側お見せします4

児林 聡美

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私が関わった「3世代研究」の準備の様子をご紹介してきました。
今回は、前々回お話しした質問票のその後を紹介したいと思います。

●印刷した質問票の量ってどのくらい?

図1. 送付した質問票:大きな封筒の中に、学生、母、祖母用の3つの封筒に入った質問票が入っています。なるべく折れないように1箱に30家族分、立てて詰めました。この写真は参加者が回答した後、戻ってきたところです。封筒は各参加者に渡ったため少しよれよれになっていますが、送ったときと同じ形で返却してくださいました。(写真提供/『栄養と料理』女子栄養大学出版部)

図1. 送付した質問票:大きな封筒の中に、学生、母、祖母用の3つの封筒に入った質問票が入っています。なるべく折れないように1箱に30家族分、立てて詰めました。この写真は参加者が回答した後、戻ってきたところです。封筒は各参加者に渡ったため少しよれよれになっていますが、送ったときと同じ形で返却してくださいました。(写真提供/『栄養と料理』女子栄養大学出版部)

さて、質問票の内容は決まったものの、全部で2万人以上となる参加者分の質問票を印刷し、それを封筒に入れて箱詰めし、発送の準備をしなければなりません。
質問票は、学生、母親、祖母用をそれぞれ違う色の封筒に入れることにしたことは、前々回お話ししたとおりです。
さらに1家族分の3通の封筒を大きな1通の封筒に入れて学生参加者に渡しやすいようにし、段ボール箱に詰めました。
なるべく折れないように、そして1箱が重すぎないようにと色々配慮した結果、1箱に30家族分を立てて詰めることにしました(図1)。
この分量だと約230箱の質問票を詰めた箱ができあがりますが、これだけの箱を研究室に保管するスペースはありません。
作業者も、研究室のメンバーだけでは足りなさそうです。
場所と人手が必要ですが、どうしよう…。

幸い、質問票作成の段階でお世話になった会社のご厚意により、たまたま空いていた事務所の部屋をお借りすることができ、封筒詰め、箱詰め作業はそこで行うことになりました。
また、詰め終わった箱は発送当日まで配送業者の倉庫に一時的に保管していただくことになりました。
作業は他の研究室の知人、その他の知り合いなどにも声掛けし、なんとか見込みがたちました。

●質問票に隠された秘密?

ところで調査の際、対象者の方からは調査への参加の意思を示していただくために、最初に同意書に署名をいただく必要があります。
そして、次に質問票に回答していただきますが、今回は、食習慣質問票を先に、生活習慣質問票をその後で、回答してもらいたいと考えました。
これは、今回の調査では食習慣を可能な限り丁寧に調べる、ということを目標にしていたからです。

生活習慣質問票の中では、ダイエットの経験、病歴、その他様々な健康状態を尋ねています。
たとえば、先に生活習慣質問票に回答し、ダイエットの項目に「現在ダイエット中」と答えた方が、次に食習慣の質問票に答え始めたとします。
この方が、ダイエット中なのにここ1か月ちょっと食べ過ぎていた場合、もしかしたら「ダイエット中だったからあまり食べていない」と思いたくなって、実際より食事量を少なめに答えてしまうかもしれません。

このように、この順で質問票に回答した場合、生活習慣質問票の回答が食習慣質問票にどのように影響を与えるかは、人それぞれ異なります。
この影響を避けるためには、対象者全員に、同じように先入観のない状態で食習慣質問票に答えていただく必要があり、そのためには食習慣質問票を先に答えてもらうのがよい方法だろうと考えました。

図2. 祖母用封筒の中身:祖母用を意味する緑色の封筒の中に入っているものは、研究説明文書、同意書つき食習慣質問票(赤の帯)、生活習慣質問票(緑の帯)です。質問票の作りや入れ方にもさまざまな裏側がありました。

図2. 祖母用封筒の中身:祖母用を意味する緑色の封筒の中に入っているものは、研究説明文書、同意書つき食習慣質問票(赤の帯)、生活習慣質問票(緑の帯)です。質問票の作りや入れ方にもさまざまな裏側がありました。

このような理由から、対象者の方には、同意書→食習慣質問票→生活習慣質問票の順で記入をしていただくように伝える必要があります。
また、自然とそのようになるような仕組みをあらかじめこちらが作っておくことも大切です。
そこで、同意書は食習慣質問票の表紙として、質問票冊子にくっつけることにしました。
さらに、封筒に詰めるときに研究内容の説明書、同意書つき食習慣質問票、生活習慣質問票、の順に入れることを決めました(図2)。

そして、対象者向けの研究説明書や説明スライドで、記入の順序を丁寧に説明することを確認しました。
これらは、過去に調査を行ったことのある先輩方のアドバイスに従いました。

●せっかく配慮したのに、失敗!

図3. 本来作業者へ渡すべきだった作業説明イラスト:作業者へ封筒詰め作業内容を説明するために作成しました。質問票の順序には細かい配慮がなされました。しかし実際に作業者に渡したイラストでは、DHQ・BDHQ(食習慣)と健康(生活習慣)の質問票の順序を逆にしてしまっていました。

図3. 本来作業者へ渡すべきだった作業説明イラスト:作業者へ封筒詰め作業内容を説明するために作成しました。質問票の順序には細かい配慮がなされました。しかし実際に作業者に渡したイラストでは、DHQ・BDHQ(食習慣)と健康(生活習慣)の質問票の順序を逆にしてしまっていました。

こうして質問票の封筒詰め作業が始まりました。
あいにく、私は作業開始日に作業場へ行くことができず、作業の内容は図3のようなイラストを渡して説明していました。
数日後、ようやく作業場に行ったところ、封筒に詰める質問票を重ねる順序が予定とは異なっています。
急いでイラストを確認したところ、なんと私の作成したイラストが間違っていて、2冊の質問票を逆に記載してしまっていました。

作業は既に3分の1程度進んでいます。
結局現場ではそのまま進めてもらうことにし、事務局メンバーや先輩方に謝って、対象者向け説明スライドなどで回答順序を詳しく説明することでフォローしたいと伝えました。
なんとかフォローが可能な失敗でよかった、と思うとともに、今後調査現場すべてを確認に行けないことを考えると、提供するものに間違いがあれば、それが大きな失敗につながる可能性があるのだと、襟を正す経験となりました。

●質問票いよいよ旅立つ

箱詰め作業中は出来上がった箱を毎日少しずつ倉庫に送っていたので、箱の個数は把握できていたものの、全体の量がどの程度か、まだ実感が湧いていませんでした。
いざ発送の当日、発送作業場に質問票が到着するのを待っていると、なんとトラックが何台もやってきます!
そのトラックからクレーンで降ろされた200数十個の箱の山が、次はフォークリフトに乗せられ、移動していきます。

あっけにとられている場合ではありません。伝票を貼るという重要任務があります。
箱ひとつひとつに伝票を貼ると、箱たちは送付先の地域ごとに分かれてまたトラックに乗せられ、運ばれていきました。
その光景は、調査実施の中で忘れられない光景です。
ただ、あっけにとられすぎて写真をとるのを忘れてしまったのが残念でなりません(参考:図4)。

図4. 調査用物品発送作業(参考):別の調査の際の物品発送作業の様子です。このときも業者の倉庫をお借りして、200ほどの調査施設ごとに必要な物品を詰めていきました。研究者はデータを分析するだけではなくて、ときにはこのような体力の必要な仕事も行います。

図4. 調査用物品発送作業(参考):別の調査の際の物品発送作業の様子です。このときも業者の倉庫をお借りして、200ほどの調査施設ごとに必要な物品を詰めていきました。研究者はデータを分析するだけではなくて、ときにはこのような体力の必要な仕事も行います。

●いざ、準備最終段階

調査実施直前には、調査マニュアルや、対象者向け説明スライドを作成し、共同研究者の先生方へ配布しました。
これでいよいよ準備が整いました。
準備の大切さはよく分かったし、できることはすべてやったし、あとは85の施設で調査が始まる2011年4月を待つばかり。
調査開始1か月前の2011年3月のことです。

と、準備を終えて一息ついていたところで起こったのが、東日本大震災でした。
このハプニングを乗り越えられるのか!?次回に続きます。

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします