新・斎藤くんの残留農薬分析
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。
地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。
今年2月の話になるが、食品安全委員会の食品安全関係情報詳細に台湾での日本からの輸入食品の検査で1月分不合格となった食品等24件の内容が掲載された。
また、同じ頃、てんとう虫情報(反農薬東京グループ)第270号も、台湾での日本からの輸入食品の違反事例が、3か月で39件だったと伝えている。
中でも、イチゴは1月分の不合格の12件中8件は、台湾で基準がない殺ダニ剤シフルメトフェンが検出されたものだった。フロニカミドも5件検出されている。
多くは九州産で、販路拡張を狙ったものだろう。てんとう虫情報では、「農水省は日本での農薬使用をやめさせることよりも、基準以下になるように指導するのは当然として、ひどい場合には相手国に日本と同等の基準を設定させることすらやりかねません」と結んでいる。
同様の事例は2009年、青森県から輸出されたリンゴから殺菌剤トリフロキシストロビンが検出され、残留基準が設定されておらず不合格となった事件がある。リンゴの場合はその後日本からの要請もあり、現在では日本よりも厳しいが基準が設定されており、今回苺で問題となっている2農薬もリンゴでは基準が設定されている。要するにイチゴの設定がされていなかったということである。
今後日本農業の再生として国を挙げて農産物輸出に力を入れる状況であり、生産者もそういった視点で自分の商品を考えている人は多いだろう。その際、初歩的で当たり前のことであるが、自分が使用している薬剤と相手先の残留基準の設定の有無、日本の基準との違いくらいは先ず知っておかないと話にならない。其の知識を持って、必要ならば輸出しようとする商品の事前の残留農薬検査(自分が使用した、土壌に残留している可能性のある、隣などからドリフトで来る可能性のある農薬等)を行い残留レベルを知って、初めて輸出の準備が進められるはずである。今回の1月分の違反事例を見ていると、その基本的な対応がされていたのかはなはだ疑問である。日本全体として、学習効果が上がっていないのである。
今回問題とされた殺ダニ剤シフルメトフェン(商品名はダニサラバという良い名前を付けてもらっている大塚化学の薬剤)は、生産現場では有効なダニ剤が少ない中、殺ダニ作用も選択的で十分な残効性もあり、環境や生態系に与える影響も少ない総合的防除方法IPMに合った薬剤でもある。基準違反というと、又農薬が悪いことをしているというステレオタイプの知識ではなく、一度シフルメトフェンとはどういう化合物でどのように合成されその有用な選択性はどうして作られてきたのか、開発時点からの苦労や面白味を一度、日本農薬学会誌のウェブページを開いてぜひとも読んでシフルメトフェンの全体像を理解してほしい。ちなみにこの薬剤は2012年の日本農薬学会業績賞(技術)を受賞しているしっかりした薬剤である。
日本農薬学会誌37巻(3)275-282(2012) 学会賞受賞論文(業績賞・技術)
新規殺ダニ剤「シフルメトフェン」の開発 高 橋 宣 好,中 川 博 文,笹 間 康 弘,池 見 直 起 (大塚アグリテクノ株式会社鳴門研究所)
更に言えば、殺虫剤フロニカミド(石原産業森田雅之他)も今年の日本農薬学会業績賞(技術)を受賞した優れた薬剤である。「農薬がまた」というあまり意味もないくくりで判断するのではなく、その化合物そのものの性状・生い立ちを知り、物事を立体的に適切に判断していく練習材料としていただきたい。
地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。