科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

輸入大麦の殺菌剤アゾキシストロビンの基準違反と検査

斎藤 勲

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 今月初めから、豪州産輸入大麦から基準を超える殺菌剤アゾキシストロビンが検出され、大麦はもちろん、それを原料として使用したシリアル食品の回収が報道された。野菜果物の基準違反より、穀類は食物繊維を多く含むことなど食材原料として広くいろいろなものに使用され、豪州産大麦だけで平成29年度分で14万トンの輸入量であり何か起こった時の影響は大きい。

 ことの顛末や今回の事故事例の評価は、農水省のプレスリリース松永和紀さんのコメントを参照していただければ健康影響的なものは少なく、食品衛生法第11条の規格基準違反の対応として理解すればいいことは分かる。

 今回の大麦中アゾキシストロビンの残留濃度は、基準0.5ppmに対して2.5ppmと5倍程度の基準超過との報道である。通常の作物残留試験で最大残留量が0.2ppm程度であれば0.5ppmくらいの基準が設定されるので、実際の使用場面での残留の想定をはるかに超える残留濃度であり、イレギュラーな原因しか考えられない。

 農薬は適正量を使用するから効果があるのであり、多ければむしろ薬害など悪影響のほうが多い。農水の輸入大麦のサーベイランス検査では14年以上検出事例がないことや、ほかの輸入大麦の緊急検査では1件0.16ppmのアゾキシストロビンが検出されている(今回の違反検体と同じ種子会社に委託してクリーニングを行っていた)が、ほかのロットは定量下限以下と従来の結果と同様の結果である。

 ただし農水の発表では、この違反大麦は商社が船積み前に現地の種子会社に委託してクリーニングを行ったことが原因の可能性があるとの報告があり、ポストハーベスト農薬のような残留濃度を見ると、間違えて種子消毒のような処理をされたのかと疑ってしまう。近年、残留農薬違反事例も少なく、経費削減から自主検査を含め検査依頼のニーズが減少しているが、こういった通常と少しでも異なる工程が追加された場合、関連事業者は品質保証の観点からスクリーニング検査を追加してチェックする習慣をぜひとも忘れないでほしい。こういったイレギュラーに対応できる検査技量は、日本の分析機関には完備しているのだから。

 麦の輸入はコメ同様、国策に関わるところでもあり、輸入に関してはそれなりの資格が必要だ。今回のトラブルで、輸入商社は輸入業務指名停止処分となるが、輸入経験も実績もあるところなので対応は適切に行われることを期待している。

 殺菌剤アゾキシストロビンは、キノコの天然生理活性物質の誘導化合物であり、糸状菌など広く抗菌活性を示す。当然ながら毒性は低く1日摂取許容量(ADI)は0.18㎎/㎏/日と設定されているが、一時的摂取に対する急性参照用量(ARfD)は設定されておらず『必要なし』の評価である。アゾキシストロビンの農薬としての使用場面も多く、野菜果物など低濃度ではあるが検出事例は多い農薬である。

 しかし、実態はよくわからないが、殺菌剤は広くサニタリー分野等でも使用されることもあり、使用状況はよくつかめない。そのためか、輸入食材などは、途中での梱包やコンテナーや保管場所での混在などによる移染も考えられ、使用履歴はないのに微量にアゾキシストロビンは検出されることもある。いろいろ追跡調査はしたが原因不明で悩まされた事例もあるのが、この農薬の実態でもある。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。