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執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

輸入レモンの防かび剤 残留農薬問題は「正しく恐れる」ことが大事

斎藤 勲

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最近は新型コロナウイルスの話題一辺倒で、残留農薬の話題があまり取り上げられません。たまに取り上げられたかと思うと危険性を訴える内容が多く、あまり状況が変わったとは思えません。
残留農薬基準を違反した場合、基準値を超えたからすぐに健康影響が出るレベルで設定されているわけではなく、相当の安全率(しかも一生涯食べることを想定して)を見込んで設定されています。超えた事例があれば原因を調べ、適切に対処改善していくことが重要です。

その際に大切なのは「正しく恐れる」ことでしょう。今回は、まだまだ誤解の多い輸入レモンやオレンジなどの柑橘(かんきつ)類の防かび剤の残留について、みてみましょう。

●日本では食品添加物、海外ではポストハーベスト農薬

柑橘類に使用される防かび剤は、日本では腐敗防止が目的で使われる食品添加物ですが、海外ではポストハーベスト農薬として使用されます。なかみは同じですが、国内では収穫後に使用される化学物質は食品衛生法上、添加物として扱われ、防かび剤の名で認可されています。

添加物の基準は通常は使用基準ですが、防カビ剤の場合は残存量とし規制されています。農薬としても使われる場合、残留基準と同じ値が残存量として記載されています。農薬はイメージが悪いから添加物にしているわけではありません。防かび剤は添加物ですから、店頭でのばら売りでも「○○を使用」などと棚に表示が求められます。

●米国から輸入される柑橘類、どこで防かび剤を使うか?

柑橘に使用できる防かび剤は、イマザリル、オルトフェニルフェノール、チアベンダゾール(TBZ)、ジフェニル、フルジオキソニル、アゾキシストロビン、ピリメタミル、プロピコナゾールが認められています。この中で、米国から輸入される柑橘類はイマザリル、チアベンダゾールのほか、アゾキシストロビン、フルジオキソニルなどが検出されます。

どこで使われるかですが、穀類などは港付近のサイロなどでポストハーベスト農薬(殺虫剤)を混入される場合がありますが、柑橘類の場合は港ではなくカリフォルニアやフロリダなど生産地にあるパッキングハウスの選別工程です。オルトフェニルフェノールは水洗後シャワー上に噴霧され、イマザリル、チアベンダゾールはその後のワックスコーティングするワックスに含有されています。(本コラム「防カビ剤使用のオレンジは皮をむけば大丈夫?」をご覧ください。)

ワックスに含有した防カビ剤が検出される場合は、使用場所、使用時期が似ているので、大体1~2ppmの濃度で残留していることが多く、生育段階で使用される農薬残留は大体0.1ppm前後で数値はバラバラですが、それよりは高い数値となるので気にされる方もいるでしょう。

●果肉にもわずかに残る

ワックスコーティングされて表皮に残存しているので当然果皮の濃度が高くなりますが、果肉からも0.0数ppmですが検出される場合があり、「残っている!」という話になります。しかし、この果肉の分析は実はむつかしいのです。いかに果皮に残存する防かび剤に汚染されないよう果肉部分をわけるかがポイントになります。

果皮を除去する際には、果皮の精油成分が相当溶出して防かび剤も溶出し、手などに付着する。その手で果肉を触れば当然汚染され、若干高い数値となります。熟練した人(果皮に付着した防かび剤が混入する可能性を知っている人)ができるだけ注意して果皮を除去し分析すると、全果の1%位の値が果肉から検出されています。それより高い数値の場合は、果皮のむき方が悪かった可能性もあります。

●水洗いで農薬は落ちる?

よく「水洗いで農薬は落ちますか?」という質問がありますが、イマザリル、チアベンダゾールは、柑橘の表面にクチクラ層ワックス層があり、そこにワックスコーティングした防カビ剤が付着し吸収されています。両者とも水には溶けにくい化合物(チアベンダゾールのほうが少し水に溶けやすいので除去できる割合は高い)なので、普通の水洗いでは落ちないと思っていただいた方がよいでしょう。

果皮には残留していますが、オレンジ、グレープフルーツの場合皮を直接食べることはないし、マーマレードにする場合「湯でこぼし」などで防かび剤も多くが除去されます。

でも、レモンは皮ごとスライスして紅茶に入れる。どうする?心配だと思う方もいるでしょう。

やり方は二つあります。今は巷にアルコール消毒があふれていますが、アルコール(エタノール)をキッチンペーパーなどに湿らせてレモンの表面をゴシゴシゴシと力を入れてふき取ると、ワックス層とともに防カビ剤もかなり除去でき、その後スライスして使用します。

もう一つは、防カビ剤を使用しない国産レモンを使うことです。家庭でのレモンの使用量はそれほど多くないので1個くらい国産愛用でもいいと思います。我が家の庭にも、何の手入れもしませんが晩秋になると大きなレモンがたくさんなります。

最後に、ゼロリスクではなくタイトルに「正しく恐れる」と書いた部分について。

今までお話ししたように防カビ剤はその効果を保つため消費者が手に取る時点でもそれなりの濃度が保たれています。その濃度は、安全性を十分見込んで設定された基準を十分下回る濃度なので、問題はありません。オレンジやグレープフルーツの場合、主な残留部位の果皮は除いて食べますのでさらに問題はないと思います。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。