科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

健康食品の機能性表示問題を考える ―第1回 食品の新たな機能性表示制度に関する検討会を傍聴して

長村 洋一

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はじめに

 本年6月5日に安倍総理が、成長戦略第3弾スピーチとして「健康食品の機能性表示を、解禁いたします。国民が自らの健康を自ら守る。そのためには、適確な情報が提供されなければならない。当然のことです。」という語りかけで始まる健康食品関連の規制改革についての概略の計画を述べられた。
 その内容はさらに踏み込んで『現在は、国から「トクホ」の認定を受けなければ、「強い骨をつくる」といった効果を商品に記載できません。お金も、時間も、かかります。とりわけ中小企業・小規模事業者には、チャンスが事実上閉ざされていると言ってもよいでしょう。アメリカでは、国の認定を受けていないことをしっかりと明記すれば、商品に機能性表示を行うことができます。国へは事後に届出をするだけでよいのです』と続けられた。

 そして、同月14日付けで規制改革実施計画が公表された。この閣議決定に基づき消費者庁、厚生労働省、農林水産省は閣議決定された通り「米国ダイエタリーサプリメント制度」を参考にして、食品の機能性表示に関して具体的検討を始めている。

 このことは、一部の健康食品業界にとっては長年の46通知に苦しめられてきた思いがあるので「企業の責任で、健康機能性表示を行い、それを消費者は自己責任において摂取できるようになる。すなわち、事実上の46通知の撤廃である」という見方がある。46通知というのは、昭和46年に厚生省から出された「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」で、幾度かの改正が行われている。口から摂取するものは食品と医薬品(医薬部外品)があるが、なにが医薬品で薬事法の対象となるかを整理したもので、食品は一部の保健機能食品を除き効果効能の表示・広告はできない。これが事実上撤廃されるという解釈である。

 今回の発表をそう受け取るのはかなり飛躍があり、米国におけるダイエタリーサプリメントの実際の在り方、そして発足後に発生している問題を見ると、手放しでこの規制改革を受け入れることはかなり危険である。
 このFOOCOM編集長の松永和紀氏は、基本的に機能性表示に関する規制緩和には反対の立場を取っておられるが、筆者も現状の日本において、いきなり米国のダイエタリーサプリメント方式を日本の現状の中に持ち込むのはリスクが大きすぎると考えている。
そこで、筆者が考えている問題点と現実に検討され始めた規制緩和が実行されるならば、せめてこうあって欲しい、またはこうあるべきと考えている事を数回に分けて述べさせて頂く。

具体的に開始された表示制度の検討会

 12月20日の午前中に消費者庁が開催した第1回の「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」を傍聴する機会を得ることができたが、この検討会で感じた内容がまさにこれから書かせていただこうと考えている問題点を浮き彫りにしたので今回はその印象から話題を展開させて頂く。

 まずこの検討会のメンバーであるが、座長が松澤佑次大阪大学名誉教授でメタボリックシンドローム関係の権威者として活躍された方であり、食と健康に関する消費者のための検討会のまとめ役として依頼されたのだと想像している。そして、委員の面々は食品という括りの中でそれなりに活躍されておられる方々である。

 検討会はまず消費者庁からこの会において検討すべき新制度の在り方についての概略と特定保健用食品等を含めた現行の制度、および米国のダイエタリーサプリメント制度およびEUとコーデックスにおけるこの問題に対する在り方などが説明された。
そのあと、安全性の確保、機能性表示を行うに当たって必要な科学的根拠の設定、適正な表示による消費者への情報提供をトライアングルとした「消費者の誤認を招かない、自主的かつ合理的な商品選択に資する表示制度」を創るという基本的概念と、制度を構成させるに当たっての論点および検討会のスケジュールが示されて、各委員から幾つかの意見が出された。

健康食品に定義がないことの問題

 今回の規制改革では食品の機能性表示とされているが、6月5日の安倍総理の演説が「健康食品の機能性表示を、解禁いたします。」から始まっていることからも明らかなように、まず多くの企業およびこの問題に関心のある方たちは、いわゆる健康食品の機能性表示をイメージした。
 事実、消費者団体等が食品の機能性表示に反対している大きな論点は、いわゆる健康食品の機能性表示が緩やかにされることで安全性や、健康食品詐欺等の問題が発生しやすくなることに対してであって、その関心の大半はいわゆる健康食品の機能性表示の問題である。

 しかし、この検討会が食品の機能性表示問題の検討会であることから、意見を述べられる委員からも健康食品に主眼をおいて話される方や農林水産物に主眼をおいて話される方もみえた。座長もこの点に関してはカテゴリー別に行う必要性を述べられたが、日本には健康食品に明確な定義がないので果たしてどのような議論が今後なされてゆくのか、その方向性に漠然とした混乱が予想された。

 例えば青魚の加工品に含まれているオメガ3の脂肪酸とそれがカプセルに入った脂肪酸を同列に扱い、さらにその表示だけで消費者が摂取すると仮定した時に、消費者が混乱をせずに適切な摂取を行うことは困難であると筆者は感じている。別な機会に詳しく論じさせて頂くが、日本で唯一個別の健康機能表示が認められている特定保健用食品の大半は、米国のダイエタリーサプリメントの範疇から外れている。

 検討会が参考にするダイエタリーサプリメントをはじめとして諸外国では日本のいわゆる健康食品を全て定義している。定義されているからこそ、その規制をどうするかが明確に出来るし、対象品目も誰もが明確にわかる。定義されていないものを混乱なく規制しようとすることはかなり困難である。

消費者教育の重要性

 この検討会の席で、梅垣委員が「米国のダイエタリーサプリメントはDSHEA(Dietary Supplement Health and Education Act)の中で規制されているが、DSHEA中にEducation Actと言う単語が入っている意味を良く考える必要がある。一般市民の多くは健康食品に医薬品的効果を期待しているのが実状である。この点を踏まえて消費者教育をどうするかを抜きにしてこの問題は論じられない」ということを強調された。この意見には何人かの委員が同調され、消費者の混乱を招かないようにするための方策を検討してゆく重要性が浮かび上がった。

 筆者もこの点に関しては全く同感であり、特定の食品素材の摂取より食のあり方そのものが健康に関与していることが近年急速に明らかになり始めている。食のあり方が予防医学的な面では医薬品とは異なって非常に大きな効果があり、健康食品を用いるとしたらその補助として用いることを勧めているのが、DSHEAの基本的考え方であり、日本の特定保健用食品の考え方でもある。

 しかし、梅垣委員が指摘されるように一般消費者はこの点に関する考え方が本末転倒している。消費者教育をここから行ってゆかないと、国民を健康にするための食品素材の機能性表示は意味がないと筆者は考えている。

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

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