科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

食品機能性表示を考えるー米国のダイエタリーサプリメントの現状

長村 洋一

キーワード:

ダイエタリーサプリメントに関する法律導入の経過

 米国のダイエタリーサプリメントという概念は、1994年に制定された「ダイエタリーサプリメント健康教育法」(Dietary Supplement Health and Education Act=DSHEA)の中で定義されている。このDSHEAに関してGrobal Nutrition GroupがDSHEAガイドブックを発行しているが、この会社のご好意で小生の主催する日本食品安全協会のウェブサイト上での公開の許可を得てあるので、ご覧いただきたい(筆者は原文をチェックしてこの翻訳に問題ないと判断している。以下の文章におけるDSHEAから引用した日本語は全てこのガイドブックによる)。

 まず、ダイエタリーサプリメントに関する法律を何故定めるかという経過の議論が次の15項目にわたって記載されているので、その経過をざっと紹介させて頂く。最初に国民の健康を考えてこうした法律の必要性があることを第1項目として明確に次のように宣言している。

1. 米国民の健康状態の改善が合衆国連邦政府の最優先課題

次いで、ダイエタリーサプリメントの利用が健康維持にもたらすと予想される効果について次の4項目をあげているが、その内容を良く見ると、ダイエタリーサプリメントの事よりもむしろ健全な食事が重要である事を明らかに示していることにご注意頂きたい。

2. 健康増進・疾病予防に、栄養とダイエタリーサプリメントの有効性を示す科学論文が増加
3. ある種の栄養成分とダイエタリーサプリメントの摂取は、癌、心臓病、及び 骨粗鬆症等の成人病の予防に関連。慢性疾患の幾つかは、野菜、植物由来の食品を中心とした食事で予防可能。健康的な食事例として、脂肪、飽和脂肪酸、コレステロール、塩分を低減した食事が挙げられる
4. 健康的な食事は、バイパス手術などの高額医療費を要する手術リスクを低減
5. セルフメディケーション、健康に対する知識の向上、十分な栄養摂取、ダイエタリーサプリメントの適切な使用等は、慢性疾患の発症率の低減、介護費削減に貢献

 そして、これらのことを国民が理解して有効に使用すると寿命を延ばすことに有効なだけでなく、医療費の削減にも有効であることを次の6項目で説明している。

6. A) 健康的なライフスタイルは、寿命を延ばすだけではなく、医療費を削減
B) 医療費削減は、米国の将来にとって最重要課題で、経済的発展の基礎
7. 長期的な健康状態と栄養との関連性の情報を広めることが、益々重要
8. ダイエタリーサプリメントの健康に対する有効性を示す科学研究の情報を知らせ、その知識に基づき消費者が予防的健康管理対策を選択できるようにするべき。
9. 国民調査によれば、国民の50%、2億6千万人がビタミン、ミネラル、ハーブ等のダイエタリーサプリメントを自己の栄養状態改善手段として常用。
10. 国民調査によれば、消費者は高費用の医療サービスを回避して、食生活の改善を含む包 括的な新たな健康管理サービスに依存する傾向。
11. 合衆国の1994年の健康管理費用はGNPの12%に相当する1兆ドル以上。 この総額とパーセンテージは努力抑制しない限り増加傾向。

 次にダイエタリーサプリメント産業界をしっかり維持させる事は米国の経済にとって重要である事を第12項目の中で3つの項目に分けて説明している。

12. A) ダイエタリーサプリメント産業は合衆国経済の一翼を担う
B) 貿易収支は一貫して黒字
C) 600社のメーカーと4,000種の製品、最低40億ドル/年の販売額

 さらに安全性に関してはあまり心配がいらないにも拘わらず不合理な規制があってはならないと次の2項目で触れている。

13. 連邦政府は製品の安全性を欠く/品質不良製品には迅速な処置が求められるが、同時に 不合理な制約で、消費者への安全な製品や正確な情報を制約、遅延させてはならない
14. ダイエタリーサプリメントは摂取量の安全域が広く、安全性問題は比較的に稀にしか発生していない

 最後に、消費者の権利を守るために国が介入して制度を確立する必要性がある事を次の2項目で説明している。

15. A) 健康増進には、消費者の安全なダイエタリーサプリメント選択の権利を守る法的措置が必要
B) ダイエタリーサプリメントに対する現在の一時しのぎのつぎはぎの規制策に代わり、連邦政府として合理的制度確立が必要

 

 以上の15項目のほとんどは、日本の健康食品の在り方に関して正面から取り組み、さまざまな観点から問題点を指摘している方々の意見または議論の過程と全くと言って良いほど一致している。ここ数年間にわたって厚生労働省、消費者庁の行ってきた健康食品に関する検討会において議論された内容でもある。

 特に、15番目B)に掲げられた「政府としての合理的制度の確立が必要」の一文は、多くの識者の一致する考えで、「日本においても早急にそうして欲しい」と感じている非常に多くの人々の訴えでもある。このように見てゆくと今回の規制改革案の実行は、日本もやっとそんな方向性に向いてゆくのだろうかと歓迎すべきように一見感じられるが、日本の特定保健用食品、栄養機能食品およびいわゆる健康食品が混在しているこの現状を考えると非常に大きな不安材料がある。

機能性表示のできる食品はどんな食品?

 前回の記事に若干触れさせて頂いたが、日本で唯一健康食品機能性表示が許されているのはビタミン、ミネラルの一部の栄養機能食品と個別に許可を得ている特定保健用食品のみであるが、今回はあらゆる食品が対象になっていて、その中に米国のダイエタリーサプリメントに該当する物があるというのが現実である。

 DSHEAによれば、ダイエタリーサプリメントを成分、形状、そして表示の3項目から次のように定義している。

■成分

ビタミン、ミネラル、ハーブまたはその他植物、アミノ酸、その他食用成分、上記成分の濃縮物、代謝物、構成成分、抽出物、混合物、医薬成分を含まない、ダイエタリーサプリメントの成分は、食品添加物とみなさない。

■形状

◆摂取するために加工された製品(錠剤、カプセル、粉末等)

◆一般的な食品、または単独で食事として用いられるものではない

■「ダイエタリーサプリメント(Dietary Supplement)」と記載がある製品

 日本では健康食品の世界は「特定保健用食品」、「栄養機能食品」および「いわゆる健康食品」の3つの分野から成り立ち、前者2つは保健機能食品として法的位置づけがなされているが、最も市場規模が大きい「いわゆる健康食品」には法的定義がない。

 このいわゆる健康食品は法的定義がないために普通の肉や野菜や魚と同じ範疇に位置づけされており、そのことが日本の健康食品に関する種々の問題の根源である。そして、米国の制度の観点から見れば、日本において登録申請を行わなければならない特定保健用食品の大半は、お茶、ヨーグルト、納豆、お菓子等の形状で、かなりの物が一般食品と区別がつかない状態である。

 すなわち、機能性表示を可能とすると言う法的整備にあたり、早急に求められるのは日本における健康食品の定義である。この定義なくして今後の日本の健康食品の健全な発展はありえないと筆者は考えている。

米国において安全性確保はどのようになされているか

 健康食品の問題を論ずるとき、必ず問題になるのは有効性と安全性の問題であるが、特に求められるのは、何をおいても安全性の問題である。この問題をDSHEAは次のように規定している。

製品が不良食品(Adulterated Food) であるか否かを証明する責任は、米国食品医薬局(FDA: Food and Drug Administration)が負う。
■下記1つでも当てはまる製品をダイエタリーサプリメントの不良食品(Adulterated Food)という

◆表示用法/通常用法の条件下で、病気や障害を起こす重大もしくは不当なリスクがある

◆新規食品成分(NDI: New Dietary Ingredient)において、上記のようなリスクがないと保証できる十分な情報がない

◆最新の製造管理基準(cGMP: current Good Manufacturing Practice)の規則に合わない条件下で加工、包装または保管された製品

◆米国食品医薬局(FDA)が公衆の健康や安全性に危険をもたらすと緊急宣言したもの

DSHEAはさらに表示については、強調表示、構造・機能強調表示、成分・栄養情報表示に関ししっかりと規制をかけ、さらに新規食品成分(NDI:New Dietary Ingredients)についてもしっかりした規制を行っている。

 以上のような法的規制により品質管理を含めた安全性の確保を行っている。類似した法的規制は日本においてもすぐできそうに見えるが大きな問題がある。それは品質管理に関する事項として米国ではcGMPを必須としている。そして、cGMP認定工場以外で製造された製品の販売に対して米国では具体的な取り締まりが行われている。

 日本では現時点で出されている厚生労働省の指示は、GMP取得が望ましい、であって、必須ではない。しかも、このGMP認証団体が国内には2つあり、業界の混乱を含め幾つかの問題を抱えている。この問題点に関しては、筆者の既報記事を参考にしていただきたい。

 以上のように、安全性確保、有効性表示および表示の行き過ぎ等をしっかりと監視するためにダイエタリーサプリメントオフィス (ODS:Office of Dietary Supplements)を設置している。日本では独立行政法人国立健康・栄養研究所が部分的に同じようなことはできているが、ODSに匹敵できる機関はない。

 このようにして米国ではダイエタリーサプリメントが出来上がって既に20年が経過しているが、そこにはどんな問題が発生しているか、そして日本で今後予測される困難性などを次回に取り上げさせて頂く予定である。

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

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