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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

特集

食品安全委員会の新見解か、つじつま合わせか

森田 満樹

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食品安全委員会が、放射性物質のリスク評価書の内容について説明を変えた。
これまで、「生涯における追加の累積の実効線量がおおよそ 100mSv 以上で放射線による健康影響が見出されている」とし、ワーキンググループ座長らが「外部被ばくを含めて全体の数値を出している」という趣旨の説明をしていたのに、生涯の累積実効線量100mSvはそのままで「食品による内部被ばくのみ」と言い始めた。
NHKは新見解、と伝え、毎日新聞は「説明不足だった」とする食品安全委員会の言い分を掲載している。
このリスク評価書には多くの問題がある、と思えるが、まずは「説明を変えた」経緯を、二つの角度から見つめたい。

食品安全委員会の新見解か、つじつま合わせか

内閣府の食品安全委員会は10月27日、食品に含まれる放射性物質について食品健康影響評価をまとめ、あわせて食品安全委員会委員長談話を発表した。評価の中身は、7月26日に発表された「評価(案)」と表面的にはほぼ同じ。だが、実際には大きく異なっている。これまでは外部被ばくと内部被ばくを合わせて「健康への影響が見出されるのはおおよそ100mSv以上」と説明していたのに、内部被ばくのみの評価として「食品からの追加的な被ばくについて放射線による健康への影響が見出されるのは、生涯における追加の累積線量として、おおよそ100mSv以上である」とまとめられた。
*食品健康影響評価
*委員長談話

27日の食品安全委員会は、いつもと違った。前日にウェブサイトで「本会合終了後、報道関係者を対象とする簡単な説明を行います」と案内文が追加されたのだ。いわゆる「事後レク」である。通常であれば、リスク評価(案)⇒パブコメ募集⇒リスク評価まとめ、の流れの中で、リスク評価の内容が(案)と大きく変わることはまず無い。したがって、報道関係者向けの説明もない。
ところが、わざわざ報道関係者を対象とする「簡単な説明会」を開くという。中身は何だろう? 3000を超えるパブコメが集まったというのは聞いていたので、パブコメの中身を受けて評価を変えるのだろうか? そう訝って説明会に参加してみた。
案内文

その説明会の場で「食品安全委員会委員長談話」としてペーパーが配布されて驚いた。その時初めて、内部被ばくだけで100 mSv以上で影響ありとするのだということがわかったのだ。その説明は概ねこんな感じである。「食品安全委員会の評価はそもそも食品なので、今回の評価は外部被ばくが著しく増大していないことを前提として、食品のみの評価を前提として、おおよそ100 mSv以上で影響が見いだせるとした。外部と内部で合計して、評価したわけではなかった。今まで間違った報道がされてきた」

なぜ今頃になって、そんなことを言うのだろうか。7月26日の食品安全委員会終了後の記者会見で、記者の「内部、外部を含めた数値で出しているが、これは食品安全委員会が判断を行うべきものか?」という質問に、ワーキンググループの山添座長は「食品健康影響評価を超えて、外部被ばくを含めて評価している」と明確に答えている

また、7月に評価(案)がまとめられた時点でのQ&A集の「問4 評価書(案)では、将来的な影響や、内部被ばくと外部被ばくを通じた全体的な健康影響が考慮されたのですか?」という問いに対して、「評価(案)では、あくまで食品の健康影響評価として、追加的な被ばくを食品のみから受けたことを前提に、生涯における追加の累積線量(実効線量)として示していますが、結果として、この値については、外部被ばくを含めた線量として捉えることも可能と考えられます」と、明確に答えている。こうした説明や資料を受けて、食品安全委員会は「外部と内部をあわせて評価した」と考えるのが当然ではないか。

しかし、今回配布されたQ&Aでは、先の太字の部分は削除され、そのかわりに「これは、外部被ばく自体の評価を行ったものではありませんし、外部被ばくと内部被ばくの合計についての判断を示したものでもありません」と、新たな文章が追加されていた。この点について、27日の説明会では「Q&Aの書きぶりについては、やはり説明がいると思ったので、わかりやすく訂正をさせて頂いた」として説明され、新しいQ&Aが配布された。現在、ウェブサイトでみられるのは、この新しい方のQ&Aである。

説明会に参加した記者たちは、どうしても納得いかない。これまで自分たちは、「外部と内部を合計して」とさんざん報道してきたからだ。FOOCOMの特集もそうである。
ちゃんと説明してほしい、と言う記者の要望が強く、「簡単な説明会」では終わらず、結局1時間を超えたやり取りとなった。

記者からは「今回内部だけでの評価になったのは、食品安全委員会は修正したということか」という類の質問が何度か行われたが、事務局の説明によれば「修正ではない」そうだ。事務局は最初から「内部被ばくと外部被ばくを合計して生涯100mSvでリスクがある」といったようなことは伝えていなかった、というのだ。記者が勝手に勘違いして報道した。勘違いさせてしまったのは、食品安全委員会が説明不足だった。説明不足は認め、その点は「お詫びする」ということだった。これからはきちんと説明をして、リスクコミュニケーションに力を入れるそうである。マスメディアに責任をなすり付けた、としか思えない。

次に多かった質問は、外部被ばくをどう考えるのか、評価は誰がするのか?と言う点だ。事務局からの回答は「しかるべき機関において、適切な措置を講ずべきものと考えている」というものだった。たとえば場所によって空間線量の高い地域について、外部の環境は環境省、子供は文部科学省が対策を講じるそうである。「食品安全委員会は食品のことしか言えない」から、外部のことは知らないという。そんなことは前からわかっていたことではないだろうか。

このリスク評価を受けて、厚生労働省はこれから暫定規制値の見直しに着手する。リスク管理側としては、これまでの評価では、およそ100mSvを食品だけに使っていいのか、それとも外部の部分を考慮して引き算した割り当て分を食品に使うことになるのか、悩んでいただろう。だが、食品による摂取だけで上限100mSvとなれば、すっきりと決められる。

既に総理大臣が「子ども基準をつくることを検討する」としており、厚生労働大臣は「厳しく見直す」と発表している。その前に「評価を明確に」「内部被ばくだけ」にしておかねばならなかった。こうして、食品安全委員会は終始苦しい弁明に追われ、つじつま合わせをした。私にはそう見える。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。