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執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

子どもたちのために~見過ごされがちなこと

瀬古 博子

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 10月28日、新聞各紙が、食品中の放射性物質による健康影響は「生涯100mSv以上」と大きく報道する中で、その陰にかくれるように掲載された小さな記事が気になりました。
  ・乳幼児、この10年やや小柄に…細身ママ増加で(読売新聞)
  ・赤ちゃん小さく生まれる 10年前より50~60グラム(日本経済新聞)
  ・新生児:10年前より体重や身長減少(毎日新聞)
 これらの記事は、10月27日に厚生労働省が発表した「平成22年乳幼児身体発育調査報告書」を紹介するものです。赤ちゃんの出生時の体重・身長の減少、運動・言語機能(例えば、つかまり立ちができるようになった月齢など)がやや遅くなったことなどが報告されています。

出生時体重が減り続けている
 この記事を見て、新生児の体重減少が続いていることを知り、残念な気持ちになりました。
 妊婦の「やせ」の問題、生まれるときに2.5kg未満の「低出生体重児」の増加の問題は、いまに始まったことではなく、以前から指摘されてきたことです。
 出生時体重の平均値の年次推移を見てみると、昭和55(1980)年には、男子は3.23kg、女子は3.16kgあったものが減少を続け、平成22年では男子、女子とも3kgを割りました(表参照)。そして、低出生体重児の出生率は、1990年に男子5.7%、女子7.0%だったものが、2010年には男子8.5%、女子10.8%と増加しています(平成22年人口動態統計)。

  表:出生時体重の年次推移
              男子    女子
 昭和55(1980)年  3.23 kg  3.16 kg
 平成2 (1990)年  3.15 kg  3.06 kg
 平成12(2000)年  3.04 kg  2.96 kg
 平成22(2010)年  2.98 kg  2.91 kg
 資料:厚生労働省「平成22年乳幼児身体発育調査の概況について

将来の生活習慣病リスクの要因に
 赤ちゃんが低体重で生まれる背景には、妊娠期間/胎児期の低栄養、栄養不良があると考えられます。かつては「小さく産んで大きく育てる」と言われたものですが、近年では、胎児期の栄養不良と成人後の生活習慣病との関連が指摘されています。
 1980年代のイギリスのバーカーらによる報告で、胎児期の低栄養が将来、肥満や糖尿病、高血圧などになりやすい要因となり、心血管障害の死亡率を上昇させるというもので、その後さらにいろいろな研究が進められ、現在ではこの説は広く認められています。日本でも、日本学術会議が「提言 出生前・子どものときからの生活習慣病対策」(2008年)を出すなど、警鐘が鳴らされています。
 胎児期の低栄養がその後の生活習慣病につながるというのは不思議な話ですが、胎児期は体の組織が作られる時期であり、栄養が不足すると、さまざまな臓器に発育不全が起き、例えば腎臓の機能が低下するといったことがいわれています。こういった臓器の機能の変化は生まれたあとも正常化することなく、いわば取り返しのつかないことになります。そして、生まれたあとに栄養過多になると、肥満、糖尿病など、さまざまな生活習慣病にかかりやすくなるというのです。
 心配なのは、それだけではありません。妊娠時の低栄養は、水溶性ビタミンである葉酸の不足から二分脊椎のリスクを高めるおそれがあります。二分脊椎は、神経管閉鎖障害という先天異常のひとつであり、日本の発生率は1998年で出産1万人対3.2程度でしたが、2003年に6.1になったことが報告されています(妊婦のための食生活指針)。

20代女性では5人にひとりが「やせ」
 なぜ出生時体重は減り続け、低出生体重児の出生率は増加し続けているのでしょうか。
 冒頭に紹介した新聞記事では、厚生労働省のコメントを紹介しています。「やせ体形の女性も増えており、母親の体重と乳幼児の体重が関連している可能性もある」(読売新聞)、「はっきりした理由はわからないが、出産が速まっていることが影響している可能性がある」(日本経済新聞)。
 ひとつ言えるのは、若い女性の「やせ」志向が10年以上にわたって変わっていないことでしょう。最近の女性のやせ(BMIが18.5未満)の割合は、20代で22.3%、30代で14.3%。つまり、20代女性では5人にひとり、30代女性でも10人にひとり以上がやせということです(平成21年国民健康・栄養調査)。
 妊娠前からやせの場合、妊娠後はどのような体重管理を心がければよいのでしょうか。妊婦の体重増加は、ふつうの体格(BMIが18.5以上25.0未満)の場合7~12kg、やせの場合9~12kgが推奨されています。妊婦さんには、信頼できる医師や栄養指導の専門家などから助言を得て、上手に、しっかり食べてほしいと思います。

参考:
読売新聞 「乳幼児、この10年やや小柄に…細身ママ増加で」

「提言 出生前・子どものときからの生活習慣病対策」(日本学術会議、2008年)

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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