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斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析知っておきたい問答あれこれ

斎藤 勲

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 日本農薬学会から発行されている「残留農薬分析知っておきたい問答あれこれ(Q&A追補)」(改定2版2005)の追補版が最近学会ホームページ上で運用されることとなった。改訂版が出されてから3年を経過しており、最近の残留農薬にかかわる関連法規および制度の整備や、分析技術の進歩など、日々刻々進展していく最新の話題を、年2回開催している残留農薬分析セミナーでの質疑応答も踏まえ、役立つ情報を掲載した追補である。一度興味のある方、必要な方は見ていただきたい。ただし、回答については会員限定となっている。会員への優遇もあり悪しからず。

 「残留農薬分析知っておきたい問答あれこれ」は、日本農薬学会環境委員会・残留農薬分析検討委員会が中心となって、03年に第1版が発行された。食品中の残留農薬分析という業務は、はなはだ難しい。高額な分析機器があれば出来るというものでもなく、試料の前処理→抽出→精製→測定・定量という一連の操作の中で、分析に必要な一定の約束を守るとともに、担当者の十分な経験が必要だ。

 米国食品医薬品局(FDA)が発行しているPesticide Analytical Manual「FDA残留農薬分析マニュアル」として日本語訳が中央法規出版から発行されている。2000年)の中にも、「残留分析担当者の専門知識は、分析の測定過程において最も重要である。証拠を正しく解釈するためには、分析担当者の農薬使用と農薬の化学と代謝についての知識が非常に大切である。食品や試薬の夾雑物質および環境汚染物質などにより見られる妨害に精通していれば、誤った結論を防ぐのに役立つ。(13ページ)」と、あの機器万能のように思われる米国でも基本はきちんと押さえている。 さらに最近の残留農薬分析の難しさは、農薬が、水に良く解けるものからまったく溶けないものまで、酸性物質から塩基性物質、分解しやすい、混合すると分解しやすい、代謝物・分解物が多いなどなど、対象がさまざまな化学物質の総称でありながら、いろいろな食品からの妨害物質も多数含まれるのに、分析方法は1本道、しかも迅速簡略化されているところである。いきおい昔のような丁寧な精製法もない。後は、力業でガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーの分離能力を利用し、選択的な検出器を駆使して日常業務をこなしているのが実情である。

 そういった背景を踏まえ、残留農薬が適切に評価されるためにも、信頼性の高い分析値が得られるように、残留農薬分析を行う上で配慮すべき事項を50の設問に取りまとめ、Q&Aの形で冊子にしたのが、03年の第1版である。前処理のノウハウや、分析中の溶媒、試薬、標準品の取り扱い、溶解の仕方、精製カラムの特性、使い方などなど、従来の成書などにはあまり記載されていない現場からの貴重なメッセージが掲載されており、それなりに利用された冊子であった。実験室での使用も考え紙質を良くしたので80ページ程度の冊子であるがかなり重いものとなった。

 05年に改定2版が、設問も88と増え、ポジティブリスト制度にかかる分析法の掲載など、計170頁と大幅に増ページして発行された。これも上質紙でありとても重い冊子となった。内容が増えたため、主だったキーワードを設問や回答の中から抜き出して索引を作成して利用しやすくしたが、最初の原案を私が作成したが、はなはだ不十分な出来で、ほかの委員から非難ごうごうであったことを今でも覚えている。訂正していただいた委員に感謝。 そして今回の追補である。時代を経て今回の執筆担当は新しい人が増えた。内容は1.関連法規及び制度、2.分析技術及び概論、3.精度管理及びデータ評価——と大きく3つに分類してある。ポジティブリスト制度施行後の法的な対応や運用等検査担当では分かりにくいことが説明してあったり、3.の精度管理の部分は、精度の妥当背評価やデータ解析、標準品管理、機器管理など今現場で困っていることなどを出来るだけ網羅したものである。

 それぞれの回答では、もう少し踏み込んで説明したい部分も多々あるが、出来るだけ客観的な方法で誤解のないような記述で書かれている。基準のところでは、インポートロレランスについてや、分析法では日常的に行っている操作でふと疑問になるような事柄が多く説明してある。データ解析では、質量分析での定量イオンと確認イオンの関係、定量値の差の許容範囲、精度管理のZスコアを超えた場合の対処など出来るだけわかりやすく解説してある。
 何はともあれ、残留農薬関係者は一度目を通していただきたいQ&Aである。日本農薬学会員でないと見ることが出来ない仕組みとなっているが、広く農薬問題での情報を提供している学会でもあり、加入していただくなり、友人に見てもらうなり、いろいろな方法でアクセスして利用していただきたい。有料であることについては、情報という有益な資産保護の面や執筆担当者のボランティア精神に免じてご容赦願いたい。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)