科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

食品表示一元化にモノ申す 特定の消費者団体の声に消費者庁どうする?

森田 満樹

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 消費者庁が食品表示一元化検討会の報告書を発表してひと月半。主婦連合会をはじめとする特定の消費者団体は、これを不服として9月25日、緊急合同記者会見「『欠陥表示を許すな!~食品表示一元化にモノ申す~』を開いた。

 26日付のしんぶん赤旗によれば、日本消費者連盟、全国農業協同組合中央会(全中)と全国農業協同組合連合会(全農)など14団体が、「原料原産地表示の義務化品目の拡大を見送ったことを許せない」「国際的にも貧しい表示なのに削減の動きさえあることを許せない」等々、アピールしたという。

 そして、「主催者である『食品表示を考える市民ネットワーク』が、阿南 久消費者庁長官の意見交換を予定している」と伝えている。
特定の消費者団体が長官と意見交換をするというのは、どういうことだろうか。早速、消費者庁食品表示課に聞いてみたところ、「先方の団体からオファーがあったので、近いうちに意見交換会を行う予定で調整中である」という。非公開だそうだ。

 そういえば、伏線はあった。先月8月28日に衆議院議員会館多目的ホール開催された、緊急院内学習会「消費者が求める食品表示」と銘打った集会である。

●特定の消費者団体が、農業団体と組んで加工食品の原料原産地表示拡大運動を展開

 この学習会の主催団体が同じく「食品表示を考える市民ネットワーク」だ。構成するの「主婦連合会」「食の安全・監視市民委員会」「NPO食品安全グローバルネットワーク」「生活クラブ生協連合会」「グリーンコープ共同体」「特定非営利活動法人日本消費者連盟」「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」の7団体である。この時も、共催は全国農業協同組合中央会(全中)と全国農業協同組合連合会(全農)だった。

 この学習会は彼らの政治力を物語るのか、国会議員10数名が参加し、200名ちかい参加者が集まった。壇上でスピーチしたのは、国会議員を含めて、何と25名。この学習会の冒頭に、消費者庁の阿南長官が「一元化検討会では1年間検討を行い、一元化法と栄養表示についてまとめた。その他の個別議題である原料原産地表示、遺伝子組換え食品表示、食品添加物表示は十分な検討が行われなかった。原料原産地表示は、現行のルールのまま、先延ばしになったが、今後さらに検討を深める中でそのプロセスが大事。その途中で幅広いご意見を頂くことが大事で、その取り組みを広げて頂ければと思う。」と挨拶をしている。
 ここで「幅広いご意見を頂くことが大事」と述べており、近いうちに行われる意見交換会は、その流れを汲んだものだろう。

 それにしてもこの学習会はすごかった。まず、学習会の第一部は食品添加物批判で有名な安部 司氏が招かれて、「食品表示の裏側を話す」というタイトルで講演を行った。以前にも氏の講演を聞いたことがある。「食品添加物だらけの食生活をしていたらオットは糖尿病、自分ががんだよ。それでもいいと言えなければ食品添加物は摂るな」「消費者が判断するのにもう科学はいりません」を連発するトークショーで、食品添加物を使った実演を行う。

 何よりも驚いたのは、この内容が参加者に大いに受けていたことだ。「食品表示を考える市民ネットワーク」や全農、全中のメンバーが時には爆笑し、共感をもって聞いたように見えた。この感覚で、日本の食品安全や食品表示を論じるのだろうか。

 主婦連の二代目会長であった高田ユリさんは「消費者運動に科学を」という名言を残した方で、これを受けて1990年代後半から消費者団体は食のリスクコミュニケーションの重要な担い手として、活動してきたのではなかっただろうか。これまでの消費者運動の流れに逆行しているような感は否めない。

 そして学習会の第二部は、「消費者が求める食品表示」として、消費者団体、生産者団体、国会議員のスピーチが続いた。スピーチの多くが「全ての加工食品に原料原産地表示を義務付けて、食糧自給率を向上させよう」「遺伝子組換え食品の表示を直ちに見直そう」「消費者の知る権利のために、表示の義務付けを拡充させよう」といったものだ。議員はTPP反対を叫び、中にはTPP反対集会と勘違いしたような発言をする議員もいた。

 TPP反対運動を繰り広げる農業団体は、食品表示の規制を強めれば、みな国産を買って、食糧自給率が向上すると主張する。だから食品表示を政治の道具にしようとする。これに一部の消費者団体が乗っかっている。だが、向上するというのは幻想ではないか。これが消費者を代表する声だろうか。

●様々な消費者視点が盛り込まれたはずの、報告書ではなかったか

 消費者視点とは何か。消費者を代表する声とはどんなものか。前消費者庁長官の福嶋浩彦氏は、8月10日の退任時記者会見で、消費者行政の基本的な3つの姿勢のうちの1つに「声の大きい特定の団体の代弁者にならない」ことを大事にしてきたと語っている。彼が在任時の2年間は様々な立場の消費者団体を意識して、意見を聞いていたと思う。

 阿南長官も同日行われた新任記者会見で、福嶋長官の基本姿勢について「本当に、かみしめて長官の任務を果たしていきたいと考えている」と述べている。また、記者の「多種多様な消費者がいる中でどういうものが消費者目線か」という質問に対して、「消費者団体の協力を得ながら、様々な消費者の声を聞くことができるのではないかと思っている」と答えている。

 そもそも、食品表示一元化検討会は、さまざまな消費者の意見を取り入れてまとめられたものではなかったか。大規模なアンケート調査も行われ、消費者の大多数が「今の食品表示はわかりにくい」としたことを受けて、優先順位の考え方が導入された。1年ちかい時間をかけて検討されたものだ。

 しかし、特定の消費者団体は「消費者の意見が入っていない」として、反発する。そして、意見交換会を個別に申し入れ、近いうちに行われるという。でもそうなると、また特定の消費者団体の話だけを聞くことになる。これはまずいのではないか。私は消費者庁食品表示課に「意見交換会をやるのなら、3月の時のようにオープンにやるのかと思ったが、そうではないのか」と聞いたが、そのつもりはないという回答だった。

 今回、報告書が出てから、様々な反対意見が噴出しているのは、消費者庁の進め方にも問題がある。今回の一元化については、パブリックコメントを中間論点整理の段階の1回しかとっていない。あのときの論点整理から、報告書は大きく内容が変わっているのだから、とりまとめた段階でもう一度国民の意見を聞くべきではなかっただろうか。

 また、食品表示新法については、今年度中に法案を作成して国会審議が行われる予定だが、法案がどんなものになるのかもわからない。法案ができた段階で、国民の意見を聞く機会があるのかと思ったが、消費者庁に確認したところそれも無いという。ということは、一元化にあたって、国民の意見を聞いたのは、今年3月に行われたパブリックコメントと意見交換会だけだったのだ。

 そうであれば、報告書の公表の後で、様々な消費者団体が不満を述べるのは無理もない。そして消費者庁長官と意見交換できる場が一部の団体で設けられるのであれば、ぜひ様々な消費者団体の意見を聞いてもらいたい。オファーして意見を聞いてもらえるのであれば、ぜひ私たちFOOCOMとも意見交換会をして頂こうと、本日、食品表示課に調整をお願いした。FOOCOM一団体で弱いのであれば、私が所属している他の消費者団体やNPO法人にも声をかけるつもりだ。

 本当は、オープンな意見交換会が開かれることを期待したい。開催されないのであれば、こうするしかない。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。