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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

第10回食品表示一元化検討会〜小比良和威さん 

森田 満樹

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 第10回の食品表示一元化検討会についてレポートする。議事の模様はtogetterでまとめてあるので、そちらも参考にしていただきたい。

●原料原産地表示についての方向感

 今回は報告書(案)について、第9回で議論されなかった原料原産地表示と栄養成分表示の議論を中心に議論された。前回、事務局から出された報告書案では、この部分は作成されていなかった。そのため、委員は今回の資料として当然報告書案の残りの部分が出てくるものと思っていたことだろう。しかし、現実に出てきたものは『新たな食品表示制度における加工食品の原料原産地表示についての方向感(案)』と『新たな食品表示制度における栄養表示についての方向感(案)』であった。この『方向感(案)』というものが報告書にどのような形で反映されるのかわからないが、ともかく不安含みのスタートとなった。

 まず、原料原産地表示についての議論から開始された。資料は『たたき台(案)』の議論で具体的なイメージがわかりにくいという発言が出たのを受け、誤認防止や価格差に焦点をあてられていた。しかし、たたき台(案)が具体性に欠けていたのは事実だとしても、方向感(案)で示された内容が、これまでの議論内容を反映したものとはいえないこと、新たに価格差といったメルクマールが登場するなど唐突感が否めない内容であった。そのため、結局これまで同様に、そもそもの義務化の是非まで含んだ議論になり迷走した。

 価格や品質をメルクマールにすることに対しては、国産よりも海外産のほうが価格や品質が高い場合もあり不適切であるという指摘が行われた。また、ある委員は過去に消費者庁による産地表示ミスの指導理由において、国産のものが外国産のものに比べ、一般的に安全性が高いと認知されているとされていた例を指摘し、原料原産地表示が安全に関するものと誤解されやすい問題点を指摘した。

 (仮に拡大するとして)原料原産地表示の品目拡大の方向性も一致点が見いだせていない。そんななか、新たな品目を増やすという手法ではなく、現行の表示制度における境界部分に着目をしてはどうかという新しい提案がなされた。例えば牛たたきとローストビーフは一見似ているが、その製造方法は異なる。そのため、牛たたきが原料原産地表示の対象だがローストビーフは対象外だ。このことは、よく原料原産地表示のわかりにくさを示す例として取り上げられる。そうした消費者にとってわかりにくい境界部分について検討を行うというのは、実効性や消費者へのわかりやすさの面で有効であるように思える。結局、池戸座長は事務局に対して議論を反映した報告書案を示すことを求め、次の議題である栄養成分表示の議論に移った。

●栄養成分表示についての方向感

 栄養成分表示の重要性は委員の中で共有されているようにも見えた。その中で、義務化の範囲や実効性、環境整備などを、どこに力点を置き進めていくかで意見に差があり、それが発言のスタンスにつながっていた。ここで、あえて委員を2つのグループに分けると義務化を進めるべきと考えているグループと、無理なく義務対応できるよう、まずは環境を整備するべきと考えているグループだ。これは本当に難しい。

 義務化が先行することで周辺環境も順次整備される面もあると考えると義務化にも説得力を感じるし、既に80%近くに表示がなされていることを考えると、あえて義務化を急ぐ必要性を感じない。いずれの方向に進むにしても、表示を活かすための消費者教育や、実効性を担保するための除外規定を含めた適切な対象の設定を、納得のいく形で示してほしい。

 最後に委員から事務局に対して質問があった。内容は前日に行われた新聞報道において、資料の内容がリークされていたことと、報告書についてパブリックコメントを実施する予定があるのかという2点について。これに対し事務局は、取材は受けていないとし、パブリックコメントは予定していないことを明らかにした。

●感想

 委員の発言にもあったが、原料原産地や栄養成分について、過去に同様の議論は繰り返し行われてきている。にもかかわらず、同様の議論が繰り返されるのは、過去のレビューを行い、それを土台として議論を行うことを徹底して避けてきたからではないか。そういう、過去の議論の軽視は検討会の中にも見られる。今回もあったが、新しい資料が事務局から示される度に議論されていない新しい要素が加わり、それがもめる原因となるようなケースが繰り返されている。しかも、その新しい要素は議論の流れのなかで必要となり追加されるのではない。議論の流れを無視し、特定の部分に過剰に反応した結果、突然新たに降ってわくように見える。

 この検討会も、あと数回で終わるはずだ。しかし、そういう時期に差し掛かっているにもかかわらず、議論の落とし所というものが見えてくる感じがまったくしない。本当に報告書がまとまるのか、実際の法案がどうなるのか、不安が募るばかりだ。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。