科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

松永 和紀

京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

食品表示・考

新しい食品表示のために、意見を〜食品表示一元化検討会 中間論点整理パブコメ募集中~小比良 和威さん

松永 和紀

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2011年9月から始まった消費者庁の食品表示一元化検討会が、折り返し地点に来ている。消費者庁は2012年3月5日、これまで出た意見について中間論点整理として発表し、1か月間の意見募集を開始した。あわせて3月23日は東京で意見交換会を開催した。

食品表示一元化に向けた中間論点整理の公表について
食品表示一元化検討会 中間論点整理についての意見募集
食品表示一元化検討会 中間論点整理に関する意見交換会の開催について

これまで食品表示一元化検討会(第1~6回)の内容については、FOOCOM.NETの「食品表示・考」で掲載されているが、今回は、中間論点整理にたくさんの意見を出すべきだ、との思いから、その内容について紹介する。

○中間論点整理のポイント

検討会は「わかりやすい食品表示」を目指して始まったが、出てきた中間論点整理は9ページに及び、加えて関連する委員の指摘と参考資料が添付されて、なかなかわかりにくい。これでは意見を求められた方も戸惑ってしまうかもしれないので解説する。(消費者庁資料

論点は全部で5つ。新しい制度に関する総論が3つ(論点1~3)と、加工食品の原産地表示、栄養表示という各論2つ(論点4、5)。この中でご意見のある一つの論点だけを選んで頂いてもいいように、記入様式はつくられている。たとえば栄養表示だけ意見したければ、論点5だけ取り出して意見をすることも可能だ。

論点1 新たな制度の目的

新たな制度の目的は3つ提示されている。1-1は今回一元化する三法(食品衛生法、JAS法、健康増進法)のそれぞれの目的を並列に並べたもの、1-2はこれらをまとめて共通目的である「合理的商品選択に資すること」に主眼をおいたもの。1-3は少し観点が異なり、「消費者基本法の理念が図られること」を目的としている。これらが考え方として並んでいるが、これは3択という意味ではない。2つ選んで組み合わせてもらってもいいし、ここに無い考え方を示して頂いてもかまわないということだ。

論点2 新たな制度の考え方について

2-1は、義務表示と任意表示についてどうあるべきか、述べている。義務表示を減らしてわかりやすく記載するのか、現行よりも表示項目を増やすのか、いくつかの考え方を示している。また、任意表示は、事業者の自主的な取り組みを促進と位置付けるのか、強調表示をする場合のルールを決めるのか、こちらもいくつかの考え方を示している。
さらに2-2では、表示をわかりやすくするためにどう取り組むべきか、一元化して用語の統一を図るだけでもわかりやすくなるのかといった観点や、容器包装以外の表示媒体の活用、たとえばインターネット等についても考え方を示している。

論点3 新たな制度の適用範囲

現在、食品表示の法令の適用となっていない外食や持ち帰り惣菜などの中食、インターネットなどの通信販売や自動販売機について、新たな制度でどこまで対象とするのか。業界の自主的な取り組みを促進すればいいという考え方から、容器包装の表示と同様に一律に表示を義務付けるのか、いくつかの考え方を示している。さらに細かく販売形態ごとに、外食や中食にアレルギー表示や栄養表示を義務化するといった意見も並べている。

論点4 加工食品の原料原産地表示の拡大について

これまで10年ちかくにわたって議論されてきたが、結論が先延ばしになっていたのがこの項目だ。今後も拡大していくのかどうか、ここでは「現行のまま」「ガイドラインを整備して拡大する」「全ての加工食品に義務化する」「現在の義務付け品目もあわせて改めて必要性を検討する」「強調表示したものだけ義務付ける」「誤認しやすい場合のみ義務付ける」と、6つの考え方が示されている。

論点5 栄養成分表示の義務化について

ここでは任意表示だった栄養成分表示について、「義務化を進める」「困難な事業者に除外規定を設ける」「義務化ではなく自主的な取り組みを推奨する」という3つの考え方を示している。また表示をする際には、「エネルギー、ナトリウム(または食塩相当量)、脂質、炭水化物、脂質の5成分とする」「エネルギーと食塩相当量の2成分とする」という2つの考え方を示し、あわせて表示値の設定についても示されている。

○十分な検討が行われないまま中間論点整理が発表された

以上はざっくりとした論点の紹介なので、詳細は中間論点整理をご覧頂きたい。こうして短くまとめると、ここでの内容は食品表示の現状の問題を解決する方向ではなく、新法に何を盛り込むかという限定された範囲で話し合われていることがおわかり頂けると思う。新たな監視体制については取り上げられていないし、実行可能性についても議論されていない。今回の検討会は、あと4、5回、7月には終了する予定だから、この5つの論点をまとめあげるだけで精いっぱいだろう。

実は、事務局の検討会の進め方について、疑問に感じることが多い。本来であれば食品表示の現状の問題は何かを整理して、そのうえで改善に向けて何をすべきか、一元化はどうあるべきかを議論すべきだった。しかし、食品表示の現状の問題点についてレビューする機会が無いまま、委員の間で共有理解が進むことなく新法の議論になってしまった。今後は議論をまとめ、収束する形で最終報告はこのように散漫にならないことを願いたい。

○みんなの食品表示、だから意見を出そう

これまでの検討会を傍聴してきたが、これらの議論の内容については報道も少ない。食品事業者の多数を占める中小零細の事業者は、こうした議論の内容をほとんど知らないままだろう。論点の中には実行可能性に疑問がもたれるものも散見される。それらが新しい制度として決まった場合、もっとも影響をうけるのはそうした中小零細の事業者だ。そうした人たちこそ意見を出していかなければならないはずだ。

食品表示はだれのためのものだろうか。事業者と消費者の信頼を結ぶためものであり、消費者のためだけではなく、事業者のためでもあるはずだ。どんなやり方であれば実行可能性や真正性の検証が伴うのか、事業者にしかわからない部分もある。表示を実行する立場の事業者が、困難な表示を無理強いすれば偽装表示になりかねない。それは社会の混乱を招き、事業者と消費者の信頼感が損なわれ、結局は消費者の不利益となる。消費者も事業者も様々な意見を寄せてほしいと思う。どうぞ周囲の方にもパブコメを出して頂くよう呼びかけてほしい。

執筆者

松永 和紀

京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動