科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

第6回食品表示一元化検討会 国民の意見を求める中間論点整理(案)の整理に疑問~板倉ゆか子さん~

森田 満樹

キーワード:

 消費者庁の第6回食品表示一元化検討会が、2月21日に開催された。今回は、上谷律子委員を除く15名の委員が出席し、議題として「Webアンケート結果の報告」と「パブリックコメントに向けた食品表示一元化に向けた中間論点整理(案)」について検討が行われた。今回の議論の中心は後者の中間論点整理(案)で、来月実施される意見募集(パブリックコメント、意見交換会)のたたき台となるため、委員からその内容をめぐって、意見が噴出した。

 配布資料は食品表示一元化に向けた中間論点整理(案)と参考資料1として中間論点整理の補足資料、参考資料2として食品表示に関する消費者意向等調査(Webアンケート結果)があり、また、委員の机上には市川委員提供資料森田委員提供資料が配られた。

 会議の冒頭に、前回、山根香織委員から質問のあったトランス脂肪酸の表示の現状について、事務局から回答があった。トランス脂肪酸については、トランス脂肪酸の情報開示に関する指針が出されており、消費者庁が調べたところ、自社のウェブサイトにおいて製品の含有量の表示をしている企業が複数ある。トランス脂肪酸Q&Aを作成している企業もあり、トランス脂肪酸含有量低減への努力もみられるという。今後、消費者庁でもトランス脂肪酸Q&Aを作る予定であることが紹介された。

 その後、事務局から今後の段取りについて、中間論点整理で出た基本的な考え方について最終的にはまとめる方向で進めていくが、項目によっては両論併記になるかもしれないという説明があった。中間論点整理を基に望ましい食品表示について、国民から幅広い意見を求め、集まった意見を取りまとめて6月末までに報告書をまとめる予定ではあるが、時期が7月以降にずれ込む可能性をほのめかす説明も加えられた。

〇 WEBアンケート調査結果 わかりやすくするため「表示項目を絞り、文字を大きく」
 
 次に事務局は参考資料として昨年末に実施されたWebアンケートの結果について説明を行った。同調査の結果は、今までに様々な機関で実施されたアンケート結果と大きな違いはなかったが、二者択一の設問があったので、差が大きく出た回答もあった。内容の概要は以下のとおりである。なお、この調査は2011年12月27・28日、20~60歳以上、全国1,083人を対象に実施された。

 加工食品を購入する際に、商品選択のために、「いつも参考にしている」もしくは「ときどき参考にしている」表示項目としては、「価格」(91.9%)が最も多く、次いで「消費期限・賞味期限」(87.4%)、「原材料名」(72.9%) 、「内容量」(70.7%) 、「輸入品の原産国・製造国」(69.9%)、「原料の原産地名」(67.9%)であった。また、価格以外の項目で参考にしている理由を聞いたところ、「安全性を確かめるため」が最も多く、表示項目別にみると、輸入食品の原産国・製造国(63.0%)、原材料の原産地(61.0%)、食品添加物(64.2%)、遺伝子組換え表示(63.3%)となっている。

 実際に商品を購入する際に知りたい情報が「いつもすぐ見つけることができる」のは、「名称(一般的名称):「魚肉練り製品」「スナック菓子」等」(75%)が最も多く、次いで「原材料名」(57.2%)、「内容量」(56.9%)、「消費期限・賞味期限」(55.8%)であり、それ以外の表示項目では半数を下回っていた。「すぐに見つけられることはあまりない」もしくは「すぐに見つけられることは全くない」とした理由は、ほとんどの表示項目で「文字が小さすぎて見つけにくい」「表示事項が多すぎて見つけにくい」の割合が高かった。中でも「消費期限・賞味期限」、「遺伝子組換え表示」、「アレルギー(特定原材料)の表示」については、目立たないため見つけにくいという声があった。

 「食品の表示をより分かりやすく、活用しやすいものにするためにどんなことが必要だと思いますか」という問に対しては、「表示項目を絞り、文字を大きくする」(72.6%)の方が「小さい文字でも多くの情報を載せる」(27.4%)よりも多く、また「表示方法のルールを多くの食品でできる限り統一する」(72.9%)が、「小さい文字でも多くの情報を載せる」(27.4%)よりも3倍近く多かった。

 また、表示媒体については「できるだけ多くの情報を容器包装に表示する」(50.4%)と「容器包装に載せる事項を重要なものに限り、それ以外は容器包装以外の表示媒体(ウェブやPOP表示等)を活用して任意に伝達する」(49.6%)は相半する結果であった。さらに容器包装以外による情報伝達手段としていつでも利用すると思うものとしては、「陳列した商品に近接した箇所にポップ、貼り紙等を用いて詳細情報を確認できるようにする」が33.1%と最も多く、次いで「容器包装にウェブサイトアドレスを表示し、パソコン等を用いてウェブサイトで詳細情報が見られるようにする」(25.0%)、「包装容器に二次元コードを表示し、携帯電話等を用いてウェブサイトで詳細情報が見られるようにする」(22.0%)の順となった。

 この結果について、中村幹雄委員からウェブを使える人を対象にした結果であるので消費者全体を反映した母集団ではなく、たとえばインターネットを通じた情報入手が便利という結論は妥当とはいえないとの指摘があった。また、消費者には原産地表示で「安全性が確かめられる」との認識があるとみられる部分については、原産地表示が誤認や風評被害につながるのではないかとの意見があり、表示に対して否定的な発言がある一方で、積極的に表示していくことで消費者に理解を求めるべきだとの意見もみられた。

〇 中間論点整理(案)は、総論3つと各論2つ

 食品表示一元化に向けた中間論点整理(案)の資料は、これまでの会議で委員から出たさまざまな意見が、総論3つと各論2つに区分された項目ごとに列記されているものであった。
総論は、
1.食品表示の目的について(以下1.目的と略す)
2.食品表示の考え方について(以下2.考え方)
3.食品表示の運用範囲について(以下3.運用範囲)であり、
各論は、
4.加工食品の原料原産地表示の拡大について
5.栄養成分の義務化について
である。つまり、食品表示一元化の検討範囲はここまで、ということである。

 総論の1.目的には「論点1 新たな食品表示制度の「目的」をどのような内容とするべきか」として「背景(説明)」が記され、「論点についての主な考え方」として(考え方1-1)から(考え方1-4)まで4つの意見が書かれており、その後ろに「関連する委員の指摘等」が配置されていた。

 2.考え方には「論点2-1新たな食品表示制度における表示事項はどうあるべきか」と「論点2-2食品表示をわかりやすくするため、どのようなことに取り組むべきか」のふたつの論点があり、3.適用範囲には「論点3食品表示に関する法令の適用対象となっていない販売形態について、新しい食品表示制度の下で、どのように取り扱うべきか」があり、1.考え方と同様に論点の「背景」や「論点についての主な考え方」、「関連する委員の指摘等」が記載されているものであった。

 しかし、今回の論点整理に記された「論点についての主な考え方」は、十分に整理されたものではなく、それぞれの違いがわかりにくいものやひとまとめにすべきと考えられるものがあったため、委員から修正の提案が相次いだ。

 また、概要の説明後、委員の質問に対する事務局の回答から確認できたことは、この検討会では、中間論点整理(案)に記載のない食品表示及び監視体制や是正措置については検討の対象とせず、現状の仕組みを維持するということを基本的に考えていくつもりであるということだ。「食品添加物の表示等」の各論については、議論に加える考えはないということであった。なお、対象は、加工食品の表示である。

 中間論点整理(案)に関する委員の問題意識の一端は、市川まりこ委員や森田満樹委員の提出した資料に見て取れる。とはいえ委員の意見も多様であり、中間論点整理(案)の体裁について、消費者には混乱が起きるので整理が必要ではないかという意見がある一方で、論点整理はまとめではないので意見を羅列するこのままのスタイルで問題ないという意見もあった。しかし、整理が不十分で検討会の方向性も見えない論点整理案を肯定する意見は、傍聴者のひとりとして理解のできるものではなかった。

 それでもいくつかの論点については、具体的な提案により多少なりとも文章の修正が進んだ。たとえば、各項目にある「関連する委員の指摘」の部分は参考資料にする、論点の文末の「~したらどうか」という文言を「~する」に変更する、文中のわかりにくいところは三法(食品衛生法、JAS法、健康増進法)の解説を加えるが誘導することになるような説明はつけないといった細かな部分である。

 1.目的については、消費者基本法との関係で「消費者の知る権利」「選択の権利」について明記してほしいという発言があったが、第七条にある「消費者は、自ら進んで、その消費生活に関して、必要な知識を修得し、及び必要な情報を収集する等自主的かつ合理的に行動するよう努めなければならない」という点も考えるべきだとの指摘があった。事務局側は、目的の背景説明の部分には消費者基本法の趣旨を加えるが、論点の中に入れるのは難しい、その理由として消費者の知る権利については「企業に何から何まで開示させる権利があると読めると問題があるので、目的に加えるのは難しい」と説明した。

 2.考え方について、論点である表示の「分かりやすさ」について、本来は文字のサイズ等の可視性と文言の意味の理解しやすさが含まれるが、ここでは、可視性にとどめられる模様である。文言の意味の理解しやすさについては今まで十分な議論がおこなわれてこなかったからだろうか。

 なお、原料原産地表示については、すでに消費者基本計画で拡大の方向がうたわれていることを記載するという提案も受け入れられた。また、栄養成分表示については義務化すると情報量が多くなり、アンケート結果にそぐわなくなるという意見もあったが、ナトリウム表示を食塩相当量表示にすべきという意見や表示順の変更を説明に加えるべきとの発言には、裏に義務化が前提とも受け取れる雰囲気があった。

〇 パブリックコメントを経て、一定の方向が見つけられるか

 事務局は今回の検討会の意見も踏まえて、中間論点整理の案を修正し、その案を各委員の意見を聞いて再度修正した後、パブリックコメントの案として今月末か来月より意見募集をするという。また、3月23日(金)に意見交換会を開く予定については、正式には消費者庁のサイト等を通じて知らせたいと締めくくった。次回の検討会は4月、各委員の都合を聞いて日程が決められるという。2時間の予定ではじまった会議は40分前後超過して終わった。
 
 これからも水面下で中間論点整理の案は修正されるのであろう。少しは良くなるのだろうか。消費者の多くは、表示から想像している情報と実態の違いさえ十分把握していないだけに、パブリックコメントに際しては、「求められる意見は何か」がわかるような資料の提供が望まれる。

 委員の間でさえまだ集約が出来ない食品表示のあり方について、果たしてパブリックコメントを加えて、一定の方向が見つけられるのだろうか。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。