科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

消費者庁の食品添加物表示検討会 「無添加・不使用表示」の見直しへ

森田 満樹

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消費者庁は2020年3月31日、「食品添加物表示に関する検討会」の報告書を公表しました。本検討会は2019年4月17日にスタートして、約1年間にわたり9回開催されました。結論から言えば、論点となった一括名表示・用途名表示は現状維持となり、無添加・不使用表示はガイドライン策定を求め、栄養強化目的で使用した添加物の表示は見直しの方向が示されました。

食品添加物表示制度は平成元年に今の形となり、その後はほとんど見直しが行われきませんでした。今回の検討会では、現行制度を海外の制度と比較しつつ問題点を洗い出し、まずは「無添加」「不使用」の表示について今後ルールを決めていくことになりました。筆者は委員としてこの検討会に参加しましたが、検討会が終了した段階で概要を振り返り、報告書のポイントと感想をまとめます。

●4項目について報告書に取りまとめ

報告書は全34ページで、「1.はじめに」「2.食品添加物表示制度の基本的な考え方」「3.食品添加物をめぐる情勢」「4.今後の食品表示制度の方向性」「5.おわりに」で構成されています。報告書には多くの図表が出てきますが、これらは検討会で使われた資料の抜粋です。

このうち、検討会の結論部分は「4.今後の食品表示制度の方向性」にまとめられています。ここでは、右図のとおり4つの項目にまとめられ、それぞれ整理の方向性が示されました。

 

検討会では第2・3回に消費者・事業者からのヒアリングを行い、それを踏まえて論点を5つに絞ってその後の検討を進めました。このうち「論点1一括名表示(簡略名、類別名を含む)の在り方」「論点2用途名表記の在り方」については、報告書では1つの項目となっています。それぞれについてみていきましょう。

●一括名表示は現行維持 事業者には自主的な情報提供が望まれる

食品表示添加物の表示は、昭和23年にタール色素などごく一部の添加物に限定して制度がスタートしました。戦後は化学合成品の添加物が使われるようになり、消費者の不安も出てきて表示を求める声が強くなりました。消費者の関心の高まりを受けて表示対象が徐々に拡大され、使用した添加物を表示対象とする現行制度となりました。

現行制度のルールは、大まかに次のとおりです。

1)物質名の表示が基本ですが、「簡略名(一般に広く使用されている名称)」や、「類別名(物質の化学構造等から類別した名称)」も可能。
2)消費者の関心の高い添加物について、物質名のほか「用途名併記」(8種類)が必要。 例)着色料(赤色3号)、保存料(ソルビン酸)など
3)複数の組み合わせで効果を発揮するもの等は「一括名表示」(14種類)も可能。 例)乳化剤、調味料、イーストフード、かんすいなど
4)表示免除は「加工助剤」「キャリーオーバー」「栄養強化目的で使用された食品添加物」の3種類

このうち3)の一括名表示について、まずは話し合われました。第2回の消費者ヒアリングでは「使われているものを省略せずに全部書くべき」「今のままでよい」という意見に分かれました。もう1つ、国際的な観点からみると一括名の表示は香料など一部に限定されていて、一括名を14種類も認めているのは日本だけです。

こうした観点から、現在の一括名表示を省略せずに書くことはできるか、また、国際整合性の観点からコーデックス分類にあわせて用途名を増やすことができるかを検討しました。日本の添加物の分類はそもそもコーデックス分類とは異なり、表示制度だけを変更することは現時点では困難であり、様々な観点から検討したうえで、なじみのある現在の添加物制度を維持する方向でまとまりました。

とはいえ、一括名表示で隠れてしまう個々の添加物を知りたいという消費者のニーズも一部にはあります。そこで報告書では、こうした消費者からの問い合わせに丁寧に対応することや、ウェブを活用して自主的な消費者の情報提供に努めることが望まれる、としました。

何だ、変わらないのか、と思われたでしょうか。とはいえ、もし一括名表示を廃止して全て物質名を表示するとなると、食品によってはパッケージの原材料名欄の表示の文字が大幅に増え、わかりにくくなってしまいます。アレルギー表示などたいせつな表示が埋もれてしまうことも気になります。事業者の負担も大きくなり、コストアップとなると消費者の財布にも響きます。

一方、パッケージに表示できなければ、ウェブによる食品表示もあるという意見もあるかもしれません。しかし、消費者委員会が2019年8月15日に公表した「食品表示の全体像に関する報告書」によれば、「ウェブによる食品表示に関しては整理すべき課題が多く、引き続き検討するべきである」とされています。ウェブの義務表示は時期尚早です。現時点では、事業者が日ごろの問い合わせなどから消費者のニーズに対応して、柔軟に情報提供をしてもらいたいと思います。

●無添加・不使用表示はガイドライン策定へ なかみはこれから

次は、「無添加・不使用表示の在り方について」。現在、店頭を見ると、「無添加」と大きく書いてあるパッケージやポップが目立ちます。

こうした無添加表示の中には、消費者の優良誤認を招くものもあります。実は消費者庁の食品表示基準Q&Aの「加工―90」に無添加表示の考え方が示されているのですが、その内容が曖昧で、あまり守られていないようなのです。

たとえばQ&Aに「同種の製品が一般的に添加物が使用されることがないものである場合、添加物を使用していない旨の表示をすることは適切ではありません」と書かれています。これに照らし合わせて考えると、レトルト食品は一般的に保存料が使用されることはないのですが、「保存料無添加」などと表示をしてあるレトルトカレーを見かけます。

またQ&Aには「加工助剤やキャリーオーバー等で表示が不要であっても添加物を使用している場合には、添加物を使用していない旨の表示をすることはできません」とあります。たとえば通常の食塩など加工助剤で添加物が用いられているのですが、この点を留意せず「無添加」と表示をしている食品があまりに多いと事業者ヒアリングでも聞かれました。

さらに「乳化剤不使用」と言った表示が、ほかの添加物を使用していないような誤解を招いたり、同様の成分を含む代替食品を使用しているのに強調しているケースがあったりという指摘も聞かれました。また、「無添加」等の任意表示が商品の主要面にあまりに目立つように大きく書かれると、本来見るべき義務表示が見られていないという意見もあります。

このように無添加・不使用表示が氾濫すると、「やっぱり添加物は危ない」として、添加物が科学的根拠に基づき使用が認められているという理解が阻まれることにもなりかねません。実際に消費者庁の消費者意向調査では、食品添加物の安全性についてきちんと理解している人は3分の1程度に留まっています。

こうした事実を踏まえて、検討会では、「食品表示基準第9条の規定により、消費者を誤認させる表示や、表示すべき事項の内容と矛盾する表示等は禁止されていることから、この禁止事項に当たるか否かのメルクマールとなるガイドラインを新たに策定することを提案する」としました。現在のQ&Aを大幅に見直し、規制を強化することになります。

ガイドラインでは、実際にどのような場合が第9条の禁止事項に当たるかどうか、詳細について慎重に検討されることになります。消費者庁は、来年度にガイドライン策定に向けて作業をすると述べています。

また、「人工」「合成」という用語についても、見直しが行われました。そもそも添加物の表示が決められた平成元年、添加物について「天然だから安全」とは言えないとして、「人工・合成」と「天然」の区別なく表示をしようということになっていました。しかし食品表示基準には「人工」「合成」のことばが残っており、まずはこれらの用語を削除することにしました。検討会では、これらの言葉が残っていることで、消費者の誤認を招くという意見で一致したのです。

もう1つ、「化学調味料無添加」と大きく書かれているものも目立ちますが、「化学」という用語はそもそも食品表示基準にはありません。こうしたあいまいな用語が消費者の誤認を招いているという指摘もありました。このように「化学」「人工」「合成」の用語の使用についても、今後のガイドライン策定の際には検討してもらいたいと思います。

●栄養強化目的の添加物は義務表示の方向 今後の調査を経て結論へ

続いて「栄養強化目的で使用した食品添加物の表示」について。現行制度では、加工助剤、キャリーオーバーとともに表示が不要とされる免除規定となっています。しかし、食品表示法ができる以前のJAS法において、農産物漬物、食肉加工食品等は免除されておらず、そのまま現行制度に引き継がれてきました。つまり、食品の種類によって必要だったり不要だったり、まだら模様でわかりにくい状況です。

一方、海外に目を向けてみると、栄養強化目的の物質はそもそも添加物として分類されておらず、使用した物質は義務表示となっています。こうしたことから考えると、栄養強化の目的でわざわざ加えている添加物についは、消費者としてきちんと知りたいという思いもあります。実際に多くの食品では自主的に表示もしています。

報告書では、これまでの免除規定を見直し「原則すべての加工食品に栄養目的で使用した食品添加物を表示させる方向で検討することが適当である」と記されました。しかし、事業者側からは「実際に消費者ニーズがどれほどあるのか明らかではない」「義務化によって事業者への影響がわからない」といった意見が出されました。こうした意見も取り入れ、検討にあたってはさらに実態調査を実施し、消費者委員会食品表示部会に関する検討も踏まえて、最終的な結論を得ることが適当とされました。

つまり、方向性は示されたものの最終的に決まったわけではありません。今後のさらなる調査や検討なども踏まえると、結論までには相当に時間がかかりそうです。いくつかの食品事業者の方に聞くと「うちでは省略せずに全部書いていますよ」という答えが返ってきますが、義務化となると様々な問題が出てくるのかもしれません。この先の調査、検討を注視していきたいと思います。

●添加物表示の啓発とともに、安全性についても消費者教育を

最後の論点は「食品添加物表示の普及、啓発、消費者教育について」です。検討会は表示の話なのですが、その中で食品添加物そのものについて消費者になかなか伝わっていない現状が明らかになってきました。報告書ではこうした実態を踏まえて、食品添加物の安全性や食品添加物の目的についても様々な立場、世代で普及、啓発を行うことが大事、とまとめました。

また、検討会では教育現場における食品添加物の伝え方についても、たびたび話題となりました。この1つとして、文科省が定めた学校給食衛生管理基準(平成 21 年文部科学省告示第 64 号)の中に以下の表記が問題となりました。

「有害若しくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤その他の食品添加物が添加された食品、又は内容表示、消費期限及び賞味期限並びに製造業者、販売業者等の名称及び所在地、使用原材料及び保存方法が明らかでない食品については使用しないこと」

ここでの「有害な」食品添加物といった表現が、食品添加物そのものに関する誤認が生じているのではないかとして、改正を求める意見が複数の委員から挙がりました。この点については、報告書の「おわりに」に明記されました。

2003年に食品安全基本法ができて食品安全委員会の設置がきまり、食品安全の世界はリスクアナリシスの考え方が導入されました。その中でリスクコミュニケーションが位置付けられ、食品安全委員会などを中心に食品添加物についても取り組みが行われてきた経緯があります。消費者団体もその取組に協力してきたところであり、その観点からも文科省の告示は違和感がありました。

さて、1年間の検討を経て、以上のように報告書がまとまりました。消費者庁が2015年に食品表示法を施行した後、原料原産地、遺伝子組換えなど様々な表示基準の見直しが行われましたが、今回の添加物の検討会をもって宿題となっていた一連の見直しは終了しました。

本検討会では無添加表示や栄養強化目的の添加物表示の見直しについて方向性は示したものの、食品表示の義務表示について大きな見直しはありません。
これからは添加物表示を含めて食品表示全体について、消費者がより活用しやすくするために消費者教育にも力を入れてもらいたいと思います。

*「添加物表示の現状の整理と今後の方向」について、2020年3月12日(木)に一社)食品表示検定協会主催の「食品表示検定フォーラム2020」で講演の予定がありました。新型コロナウイルスの影響で中止されましたが、当日の資料が同協会のウェブサイトにアップされていますので、ご参照ください。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。