科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

アーモンドがアレルギー推奨表示に追加 & 落花生(ピーナッツ)表記方法が見直しに

森田 満樹

キーワード:

2019年9月19日、消費者庁はアレルギー表示について「アーモンド」を推奨品目(特定原材料に準ずるもの)に追加するよう規定を改正しました。また、義務表示品目(特定原材料)7品目のうち「落花生」を「落花生(ピーナッツ)」と変更し、落花生のかわりにピーナッツと表示できるようにしました。

【2019年9月19日 食品表示基準について(第17次改正)】新旧対照表より著者作成

この改正は「いつまでに」と期限は定められていませんが、様々な影響を及ぼしています。また、この先は推奨品目の「くるみ」を義務表示品目に加える方向で検討されており、分析方法などが整備される予定です。
アレルギー表示はどのように決まるのか、今後の動向も含めてまとめます。

●全国のアレルギー専門医の症例報告から、対象品目を決める

食物アレルギーのかたが、アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)を含む食品を食べると、皮膚がかゆくなる、せきが出るなどの症状や、さらにはショック状態になるなど重い症状に至ることもあります。少しでも原因となる食物を避けることができるように、2001年に加工食品の食物アレルギー表示制度ができました。

当時は5品目を「特定原材料」として表示を義務化し、19品目を「特定原材料に準ずるもの」として表示を推奨することでスタートしました。その後、対象品目が何度か見直され、現在は特定原材料が7品目、今回の改正で21品目が「特定原材料に準ずるもの」となり、合計28品目が対象品目です。

この根拠となるのが、国がおおむね3年ごとに行っている「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」です。この調査は全国のアレルギー専門医約千名の協力(ボランティア)によって、医療機関を受診した食物アレルギーの症例報告をまとめたものです。調査対象、調査方法は全て踏襲し、継続性を重視して、経年評価ができるものとなっています。

●木の実類の症例が急増 くるみ、アーモンドに注目

平成30年度調査事業報告書 図2原因物質

2019年5月末に公表された第6回目となる平成30年度調査研究事業報告書は、4,851例の症例において次のような指摘がありました。
・木の実類が著しく増加し8.2%(前回3.3%)となり、小麦に次いで第4位となった。
・木の実類の内訳は、くるみが 251 例(木の実類の 62.9%)で最も多く、以下カシューナッツが 82 例(同 20.6%)、アーモンド 21 例(同 5.3%)であった。くるみは、6年前の42例から著しく増え、ショック症例も前回7例から42例に急増した。特定原材料の格上げが考えられるが、義務化に向けて試験方法の開発等が必要となる。
・アーモンドの件数は21件で、カニに比べても多い。前回3年前の調査でも、特定原材料等でカバーされない食物の中で一番多い。症例数は十分多いので、今後アーモンドの推奨表示対象への追加を検討する必要性が示される。

これを受けて、消費者庁はくるみ、アーモンドの追加等を検討を行い、2019年7月5日に開催された消費者委員会食品表示部会で説明しました。部会では「前回2013年のごまとカシューナッツの追加の時と比べても、アーモンドの推奨品目表示の追加は妥当。くるみに関しては、一過性の確認は必要だと思うが、順位を見ると義務化に向けた検討は妥当」という意見でまとまりました。

第56回消費者委員会食品表示部会 資料4より抜粋

これを受けて9月19日、消費者庁は「食品表示基準について(第17次改正)」「食品表示基準Q&A(第9次改正)」を通知して、「アーモンド」を特定原材料に準ずるものに追加することを決めました。なお、「くるみ」については検査法など引き続き検討することになりました。

●いつまでにアーモンドの表示を追加する?

それでは、食品事業者はいつまでにアーモンドの表示を追加すればいいのでしょうか。消費者庁は猶予期間を定めず、食品表示基準Q&A(I-9)で「アレルゲンとしてのアーモンドの表示を行うのであれば、可能な限り速やかに行うことが望ましいですが、取扱食品の包装資材の切替状況を勘案し、各食品関連事業者の判断で表示時期を決めて頂くことになります」としています。つまり、事業者判断ということです。

これまでは猶予期間が定められており、たとえば2013年9月20日に消費者庁が推奨表示に「ごま」と「カシューナッツ」の2品目を追加した際には、2014年8月31日までに表示をするよう求め、このときは猶予期間が1年もありませんでした。2004年に推奨表示にバナナを追加したときも猶予期間は1年、2008年に義務表示のえびとかにを追加したときには猶予期間は2年でした。

なぜ、今回は定められないのか。第56回消費者委員会食品表示部会では食品事業者代表の委員から「2020年4月1日以降は食品表示基準の完全義務化、2022年4月1日以降は原料原産地表示の完全義務化があり、切り替え時期を考えると猶予期間を配慮してもらいたい」といった意見が出されています。こうした声もあり、今回は猶予期間が定めらていないのです。

一方、消費者庁長官は9月19日の記者会見で、記者の質問に対して「過去の健康被害の状況や頻度を考慮して、特定原材料と特定原材料に準ずるものという整理をさせていただいているところでして、今回アーモンドを追加するということですから、これはできるだけやっていただくように、それもできるだけ早くやっていただくように働きかけたいということであります。」と答えています。

つまり、事業者に勘案して猶予期間は設けなかったが、「できるだけ早くやっていただくように働きかけたい」ということで、この受け止め方は様々でしょう。とはいえ流通業界からの要請もあって、食品事業者は推奨表示「アーモンド」の準備を早々に進めているという話も聞かれます。

●アーモンドは意外なものに入っている

ところが、実際に表示しようとなるとなかなか大変です。アーモンドは粒のままやクラッシュ状態など見える形で食品に含まれるものもあり、アーモンドミルク、アーモンドオイルなど加工されて含まれるものもあります。中間加工原材料で、たとえば「ココア調製品(砂糖、ココア、その他)」と表示されている場合、「その他」の中にアーモンドパウダーが入っていることもあります。

入っていることがわかればよいのですが、思わぬ食品に使われているケースもあります。たとえば、中華料理などにつかう調味料の「醤(ジャン)」。豆板醤、豆鼓醤、甜麺醤などの隠し味にアーモンドペーストが微量に使われることもあるそうです。そうなると、アレルゲンの確認のために原材料を川上まで遡って調べる必要があり、原料カルテの規格書なども作りなおすケースもでてきます。

こうした確認作業は、手間と時間を要します。そのうえで、表示変更作業に進みます。たとえば、これまでは「豆板醤」だけでよかった場合でも、アーモンドが含まれていることがわかれば、個別表示の場合は「豆板醤(アーモンドを含む)」とします。一括表示の場合は最後に(一部に○○・△△・アーモンド・…を含む)とアーモンドを追加します。

●一括表示枠外の「27品目中」の書き方どうなる?

ところで、アーモンドを含まない食品は、今回の改正は関係ないのでしょうか。食品によっては、一括表示枠外に「アレルギー物質(27品目中) ○○・△△」などと記載している場合があります。
27品目を表にすべてを書き出して目立つように色付けするような場合もあります。これらを27から28に変更するかどうか、検討することになるでしょう。

アーモンドのアレルギー患者さんにとっては、アーモンドが入っているかどうかが大事な情報です。一括表示枠外に【28品目中】と書いてあったり、それがわかれるように表記されれば「新しく追加されたアーモンドまで、ちゃんと確認されているんだな」として選ぶことができます。

 

一方、一括表示枠外の表記を「アレルギー物質(推奨品目を含む) ○○・△△」など、品目数を書かずに表示しているものもあります。この表記であれば今後、アレルゲンが増えても改版をせずにすむので、今回の改正を機に表記方法に変えるところもあると聞きます。アレルギー患者にとっては品目数がわかったほうが親切だとは思いますが、任意表示なのであくまでも事業者の判断にゆだねられます。

●落花生(ピーナッツ)の意味は?

さて、アーモンドの話はこのくらいにして、今回の新旧対照表を見ると特定原材料の「落花生」が「落花生(ピーナッツ)」と、(ピーナッツ)が赤字で加わっています(前図)。
これがどういう意味かわからず、改正後すぐに「落花生のあとにカッコをつけて、ピーナッツと表示しなければならないという意味ですか?」と消費者庁に聞いたところ、「落花生のかわりに、ピーナッツと表示してもよいという意味です」という回答でした。

落花生はこれまで代替表記でピーナッツと書くことは認められてきました。しかし、原材料の最後にアレルゲンをまとめてかく一括表示においては、(一部に落花生を含む)としか表示できませんでした。今回の改正によって一括表示で(一部にピーナッツを含む)という表示もできることになります。

この背景には、食物アレルギーの患者団体から「落花生ではなく、ピーナッツの表記を認めてほしい」という要望がずっと寄せられてきたことにあります。医療現場では「落花生アレルギー」ではなく「ピーナッツアレルギー」と診断され、患者もそのように認識していることが多いのだそうです。食品表示もずれがないよう、対応してほしいという切なる要望でした。

落花生と言われてもピンとこない人は多いのかもしれません。たとえば、おそば屋さんのゴマだれの隠し味に落花生が使われることがありますが、アルバイトがお客さんに「ピーナッツが使われているか」と聞かれて、落花生と結びつかずに間違えて答えた話などを聞いたことがあります。

落花生はさやに入っているもの、ピーナッツは皮つきや皮をむいたものという話もありますが、アレルゲンとしては同じ。今回の改正で(一部にピーナッツを含む)と表示できるようになり、食物アレルギーの患者さんに寄り添った形となったと言えます。今後、(ピーナッツを含む)と言う表記を見る機会が増えていくことでしょう、

●この先、くるみが義務表示に格上げされる

最後に「くるみ」について。くるみはアーモンドとともに健康志向で消費量、輸入量が増えており、スーパーやコンビニでもよく見かけるようになりました。味付けをしていない「素焼き」「生」と書かれたものも増え、ダイエットでおやつ代わりにしている人もいます。こうしたブームがアレルギー症例の増加につながっているようです。

今回の改正の根拠となった調査報告書では、くるみの症例数が著しく増え、ショック症例も急増していました。特定原材料の格上げが検討されましたが、義務化に向けては実行担保の観点から試験方法の開発と妥当性評価が必要となるため、まずはその準備を進めることとなりました。

現在、くるみの検査方法はスクリーニング方法が既に1つは開発されていますが、義務化にあたっては2種類の方法で行うこととなっており、これから検査方法が確立されます。ちなみにえび、かにが特定原材料に格上げされる際には、検査法がきちんと確立されるまで3年半かかっています。くるみも検査法が確立されれば、数年後に特定原材料に加えられることになるでしょう。

また、他のナッツ類についてはどうでしょうか。ナッツ類は交差反応性が強く、患者団体からアーモンドだけではなく他の木の実についてもアレルギー症状を発する場合もあると聞きます。今回の報告書でも、マカダミアナッツの症例数はアーモンドよりもやや少なめですが、ショック症例はアーモンドより多い結果です。今後は、さらなる調査結果を受けて木の実類をどこまで入れるかということも課題となるでしょう。

●今後のアレルギー表示は…

以上のようにアレルギー表示の対象品目は増える一方ですが、減ることはないのでしょうか。たとえば推奨品目である「まつたけ」は、前回に引き続き今回も症例数が全く報告されていません。こうした品目は対象から外してもよさそうです。しかし、食べる機会が少ないから症例が少ないのかもしれないし、外すことによって症例が増えるかもしれず、結局のところ、今回の改正では減らすことはありませんでした。

一方、こうしたアレルギー表示の対象品目の妥当性については、食品安全委員会でワーキンググループを作って検証が行われています。これは委員会が自主的に行う評価で、アレルギー表示について科学的検証を行うことを目的にスタートしたもので、3年間に5回の会合が行われました。

これまでに、麦類・そば類、卵・乳のアレルギー表示についての調査事業や評価方法確立のための調査研究などが行われていますが、ワーキンググループは非公開なので、どのように進んでいるのかわかりません。このワーキンググループの結果が、消費者庁の今後のアレルギー表示制度にどのような影響を及ぼすのかもわかりませんが、結論がでるまでしばらく時間がかかりそうです。

日本のアレルギー表示は海外と比べて対象品目が細かく多く、食物アレルギーのかたにとっては食品を選ぶたいせつな情報となっています。患者団体は勉強会を開いて間違えやすい表記の事例集を作成したり、分かりやすい表示方法を要望したりして、こうした活動が今回のピーナッツの表示変更にもつながっています。

複雑な制度ではありますが、事業者と消費者双方の努力の積み重ねが、より良い表示制度を作ることにつながってきました。事業者が適切に表示し、消費者がきちんとチェックすることで、食物アレルギーの事故が少しでも減ることを願いたいと思います。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。