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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

カシューナッツとごまをアレルギー表示推奨品目に 猶予期間は2014年8月31日まで

森田 満樹

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 消費者庁は2013年9月20日、「アレルギー物質を含む食品に関する表示について」通知し、特定原材料に準ずるもの(推奨品目)として、新たにカシューナッツとごまの2品目を追加することを定め、2014年8月31日までに表示をするよう求めました。

 日本で加工食品のアレルギー表示制度ができたのが2001年。以来、食物アレルギーの患者さんの命を守る大切な役割を果たしており、品目が追加されるのは2004年のバナナ以来です。

 現在のアレルギー表示は25品目が対象品目で、重要度に応じて「特定原材料」と「特定原材料に準ずるもの」に分けられます。「特定原材料」は卵、乳、小麦、えび、かに、そば、落花生のあわせて7品目。これらは義務表示で、表示しなければ法律違反です。また、「特定原材料に準ずるもの」は18品目。こちらは推奨品目で、表示が無くても違反ではありません。今回、カシューナッツとごまが推奨品目に加わることで、義務表示7品目、推奨品目20品目の合計27品目になります。

 この2品目が追加される実施時期について、当初の消費者庁が示した案では「包装材を切り替える機会に合わせたできる限り早い段階で表示を行うように」として、時期は特定していませんでした。しかし8月27日に開催された消費者委員会食品表示部会で、委員から「バナナの追加された2004年は1年後と時期を決めていたので、それに準じた方がいい」「患者としては、明確に期限を設けてもらったほうがわかりやすい」という意見が出されました。

 消費者庁は「2品目は推奨表示なので、表示しなくてはいけないというものではない。法令的には時期を決めなくても問題はない」と答えましたが、「2次原料、3次原料、HPの切り替えなどを考えると切り替え時期を1年と設けてもらった ほうがむしろよい」という意見が出されました。消費者庁が表示基準を作ったり改正したりする場合は、必ず消費者委員会の意見を求めなくてはならず、これを受けて今回の通知が2014年8月31日の期限付きとなったのです。

 今回、2品目の追加にあたって、消費者庁は通知にQ&Aを添付して範囲を明確にしています。ここでいう「ごま」の範囲とはゴマ科ゴマ属に属するもので、種皮の色や違いによって「白ごま」「黒ごま」「金ごま」に分けられ、これらが対象になります。また、ごまを絞って作られるごま油や練りごま、すりごま、ごまペースト等の加工品も対象です。カシューナッツについてはそのままで、特に範囲を設けていません。

 また、ごま由来の食品添加物の扱いについても定めており、ゴマ油不けん化物は「ゴマ油不けん化物(ごま由来)」「ゴマ油抽出物(ごま由来)」となります。一方、d-α-トコフェロール(ビタミンE・抽出ビタミンE)などについては、分子蒸留したものはアレルゲンが除去されていると考えられるため、(ごま由来)の表示は不要としています。

 さらに代替表記方法リストにも「ごま」の項目が追加されました。代替表記(表記方法は違うが、ごまと同じであることがわかる表記)は「ゴマ」「胡麻」の二つの表記、特定加工品(ごまという字が入っているため含んでいることがわかるもの)は「ごま油、練りごま、すりゴマ、切り胡麻、ゴマペースト」といった表記例が示されています。なお、カシューナッツに代替表記は認められていません。

 現在、推奨品目も含めてアレルギー表示の対応をしている食品メーカーは、カシューナッツとごまについても原料を遡ってチェックして、追加品目に対応していくことが求められます。それにしてもカシューナッツはさておき、ごまの場合はちょっと厄介です。ごまはごま油で香りづけがされていたり、ごまペーストがカレールウの隠し味に使われたりと、様々な原材料に紛れ込んでいるからです。
 また、複合原材料にごまが用いられていることが多く、たとえばお弁当のおかずで、付け合せのたくあんにごまをちょこっとまぶしているような場合、これまで原材料欄には「付け合わせ」とだけ書いておけばよかったのですが、推奨表示をすることになれば「付け合せ(ごまを含む)」という表示が求められます。そういえば、惣菜などいろいろな形でごまが入っていそうです。

 一方、食品メーカーなどがアレルギー表示をわかりやすくするために、一括表示欄外に25品目を含む表にして使っているものに●をつけるなど、一目でわかるような情報開示を行っているケースもみられます。このようにアレルギー表示の推奨表示を行ってきた場合は、新たな2品目について原材料に使っているかどうかチェックして欄外の表を27品目にして、●をつけるなどの作業が求められます。
 以上のように一括表示の原材料表示欄も、一括表示欄外の自主的な表示も、推奨表示をする場合は1年足らずしか準備期間が無く、対応が急がれます。

 ところで今回の通知はごまとカシューナッツが中心ですが、実は通知にあわせて12年ぶりに厚労省時代のQ&Aも見直され、新たに定めた「アレルギー物質を含む食品に関する表示指導要領」とともに「アレルギー物質を含む食品に関する表示Q&A」として添付されています。

 この中に、カシューナッツとごま以外の見直しもありました。特定原材料の卵の拡大表記である「卵黄」と「卵白」の取扱いです。卵の場合、原材料欄にこのどちらかを表記していれば、卵という字がありますので「卵を含む」とわざわざ表記する必要はありません。

 しかし今回のQ&Aでは卵の代替表記の項(p22 G-1)で、次のとおりただし書きを加えました。
「『卵黄』、『卵白』は卵を使用していると理解できるとみなし、特定原材料に関する表記として認め、含む旨の表示は省略できます。ただし、『卵黄』と表示することで『卵を含む』旨の表示を省略する場合であっても、他の原材料に『卵白』や『卵』を含んでいるが複合原材料であるために『卵白』や『卵』の表示が省略されている場合は、消費者に誤認を生じさせないよう、当該複合原材料又は一括表示に『卵を含む』旨の記載をすることが適切です。また、『卵白』についても同様です。』
つまり、卵黄、卵白を明確に書き分けて表示をしなさいということです。

 この見直しの背景には、2013年7月27日に行われた㈱ロッテの雪見だいふく2品の自主回収があります。雪見だいふくは、もち菓子の部分に卵白が使われているため、通常の製品では原材料欄に「もち菓子(卵を含む)」と表記してあるのですが、一部の商品でアイスの部分に卵黄油が使われている場合に原材料の一部に「卵黄油」と表示をしてあり、ここでは「もち菓子」として(卵を含む)との表記はされていませんでした。
 「卵黄油」の記載があるため卵を使っていると理解でき、もち菓子に表記しなくても法律上問題はありませんでしたが、この表示を誤認した卵白アレルギーの患者さん(卵黄はOKなので、表示を見て卵白は含まないと思って食べてしまった)の発症例が報告されて、㈱ロッテは自主回収を行っていました。
消費者庁はこの事例を受けて、今回Q&Aの一部にただし書きを加えることにしたのです。今後は原材料に「卵黄」と表記されている商品でも、他の複合原材料に「卵白」を使用していれば(卵を含む)の表示が必要で、たとえばこの場合は「もち菓子(卵を含む)」と表記しなければなりません。

 今回の表記上の見直しはここだけでしたが、実は「卵黄」表記に限らず、アレルギー表示制度は「替わりの表記」として代替表記、特定加工食品表記、拡大表記が認められており、このルールが複雑なため「見えない卵」「見えない乳」となって誤って食べてしまう恐れがあります。

 前述した消費者委員会食品表示部会でも「マヨネーズは卵が入っているとみなされ、卵を含む旨の表記が省略できるが、マヨネーズが卵からできているとわからない子どもも増えている。いろいろなタイプのマヨネーズがでているので省略はやめてほしい」という意見が出されています。アレルギー患者さんからも現在の「替わりの表記」はわかりづらいものがあると、不評です。
 消費者庁はこのとき「今回の見直しにおいて代替表記等は現行のままだが、2年後の食品表示法の施行までに食品表示基準を見直すのでその際に取り上げてほしい」と答えています。

 今回の通知はカシューナッツとゴマの推奨表示の追加、卵黄と卵白の書き分けが主な見直し項目でしたが、今後1~2年で新たに「替わりの表記」が見直される可能性が出てきました。
 新しい食品表示法の表示基準ができることを機に、アレルギー患者さんが誤解しないような、よりよい表示になってもらいたいと思います。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。