九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
消費者庁が11月1日、「いわゆる健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について(案)」公表しました。現在パブリックコメントの募集中で12月1日(日)が締切日となっています。
この留意事項案は今後、健康食品の虚偽・誇大広告を厳しく取り締まっていくための基本となるものです。これによって私たちの身のまわりに氾濫する悪質な情報が排除されることを期待したいのですが、パブコメを出そうと内容をざっと見たところ、従来のガイドラインからどう変わったのか、ポイントがよくわかりません。確かに絵図や具体例は増えてわかりやすくなっているようですが…。そこで消費者庁の担当者に話を聞いて関連法令を読み込み、ようやくなかみを理解できました。その意味するところを探ります。
●これまでの経緯
2013年1月29日、消費者委員会がこれまでの健康食品の検討をまとめた「健康食品の表示等の在り方に関する建議」を出しました。この「建議」を出すにあたって時間を割いて話し合われたのが「健康食品の表示・広告の適正化」です。この中で、これまで取り締まりの根拠として使われてきた指針等を見直し、大幅な改善を図ることを消費者庁に求めています。
これまでの指針等とは、2003年に厚生労働省が公表した以下の2つです。
・「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)」
・「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)に係る留意事項について」
これらの内容は古くなったこともありますが、違反の基準が明確ではなく、監視執行を行う都道府県等の保健所、地方厚生局などの現場からは使いにくいと指摘されてきました。そこで建議を受けて、消費者庁が10年ぶりに考え方を整理して作り直したものが、今回の留意事項案です。
●ポイントは2つ「景表法が加わったこと」と「健増法の指導事例が公表されたこと」
留意事項案は18ページに及ぶもので、p1~p8に基本的な考え方、p9~p14に具体的な違反となる表示例、p15~p18に違反事例を示しています。2003年時点では厚労省の指針でしたので健増法だけにかかるものでしたが、今回の案は健増法だけでなく景表法も加わって、虚偽誇大広告を禁止する内容となっています。それが同案の1つめのポイントです。
健康食品の広告・宣伝は、健増法第32条の2で虚偽誇大広告を禁止し、景表法第4条1で優良誤認となる不当表示を禁止しています。いずれも、消費者を著しく誤認させるという点では同じですが、執行側がどちらを適用するかはケースバイケースです。
健増法の場合は、これまで自治体による試買調査や事業者の事前相談等で、指針等に照らし合わせて必要に応じて指導を行ってきました。また、消費者庁でもネット監視業務を継続的に行い、違反の恐れのある広告に対して指導を行っています。これらの指導の件数をあわせると年間数百件に及びます。
さらに「国民の健康の保持増進に重大な影響を与える恐れがある」と認める場合は「勧告」が出され、必要な措置がとられて名前も公表されます。この「国民の健康の保持増進に重大な影響を与える恐れがある」とは、たとえば表示されている健康保持増進効果等に関する苦情が関係機関に多く寄せられている場合や、診療を要する人が診療機会を逸してしまうような場合などです。しかし、それを示すのは容易ではなく、「勧告」の実績は1件もありません。
一方、景表法の場合は、違反の疑いのある場合は調査を行い、「指導」に留めるか、違反にあたる「措置命令」を出します。この際、執行側が立証しなくても「合理的な根拠」を示す資料の提出を事業者に求め、その資料が提出されない場合には不当表示とできる「みなし規定」があります(不実証広告規制)。このため健増法の「勧告」よりも違反をとりやすく、「措置命令」を出して違反行為を素早く止めさせることができます。
健康食品の広告・表示を取り締まる場合は、以上の2つの法律をフルに活用することが効果的で、留意事項案の内容はそれぞれの法律の考え方や違反事例が盛り込まれています。
2つめのポイントは、違反事例の中に過去の健増法の指導事例を入れたことです。この部分は最後のp17~P18に示されています。健増法は指導の実績は多数ありますが、これまでその内容が明らかにされることはありませんでした。
ここでは15の事例が示され、たとえば「U社は健康食品を販売するに当たり、新聞折り込みチラシにおいて①血糖値の急上昇を防ぎ、効果的にインスリンの節約につながるため、すい臓の負担を軽減します、②体験談(飲み続けたら血糖値の数字が下がった(60代男性)、毎朝のお通じがよくなった(40代女性))等と表示していたが、実際には表示の裏付けとなる合理的な根拠はないものであった」のように、具体例が紹介されています。「こんなチラシ、あるある」といった内容のものもありました。
●他にもたくさん 留意事項案のポイント
他にも「これがポイント」というところがいくつか出てきました。以下に整理してみます。
(1) 規制の対象とする表示事例を、わかりやすく6類型にまとめた
これまでの指針は表示例の分類が複雑だったが、留意事項案では2つの法律上問題となる表示事例を6類型に整理してわかりやすくした。類型ごとの具体例は増えており、たとえば1項目めの「疾病の治療又は予防を目的とする効果」は、これまでの「糖尿病、高血圧、動脈硬化の方に」「末期ガンが治る」といった事例が、「医者に行かなくとも動脈硬化を改善」「糖尿病、高血圧が気になるかたにもおススメ」など、実態に近い具体事例を10例ちかく並べている。
(2) 景表法で、健康食品のインターネットの広告・宣伝を規制することを明確にした
留意事項案の景表法の説明の中に、健康食品のインターネット販売の対応について述べられた記述がある。この分野は問題となる広告宣伝が多く「一般消費者にとってウェブサイト上の表示が唯一の情報源であることが多いことから、景表法では効果効能の裏付けとなる合理的な根拠を適切に表示することが望ましい」としている。その際には「利用者の体験談などは統計的に客観性が十分に確保されている必要がある」としている。
(4)健増法のメリット「何人も」を明確に打ち出した
健増法第32条の2第1項では、対象を「何人も」としており、それが強調された。表示が禁止されているのは景表法では製造事業者と限定されるが、健増法では製造者だけでなく、新聞社、雑誌社、包装事業者等の広告媒体事業者、取り次ぎをする広告代理店、プロモーションサービスプロバイダーまでも対象としている。
(5)健増法の違反要件の「著しく」の説明が明確になった
健増法の違反要件は「著しく事実に相違する表示または著しく人を誤認させる表示をしてはならない」だが、この「著しく」に該当するかどうかの判断について、「その食品を摂取した場合に実際に得られる真の効果が広告等に書かれたとおりではないことを知っていれば、その食品を購入することはないと判断される場合」とした。(以前はこの部分が「広告と真の効果の相違を知っていれば」と表現が曖昧だった)
(6)健増法で、新たにステマや口コミが対象となる
健康増進法の違反行為(虚偽誇大広告)の要件で新しく加わったのが、「食品に関する表示が広告でなく、あたかも当該食品の購入者個人による自発的な表明であるかのようにされた場合」で、これがステルスマーケティングや口コミサイトにあたる。最近のインターネット販売拡大の被害に伴い、これらも規制対象とした。
以上のように10年前のガイドラインよりも取り締まり対象が拡がり、違反の線引きを明確にする説明とともに、豊富な具体事例が示されているのが特徴です。基本的な考え方は変わっていないので、まじめにやってきた事業者は、今回の留意事項案はあまり関係がないかもしれません。しかし、法律すれすれの表現を駆使してインターネット販売などを手掛けてきた会社は、これを受けて広告内容を見直さざるを得ないでしょう。
今回の留意事項案は、監視執行の現場をサポートするとともに、事業者の予見可能性を高め法律を守りやすくさせようという、消費者庁の意志が読み取れます。私たちも具体例を見ながら、どういう考え方で表示が指導されるのか、この宣伝は法律上問題があるのかが判断しやすくなります。
●機能性表示解禁と不実証広告規制
さて、気になるのは今回の留意事項案が、今後の健康食品の規制にどのような影響を及ぼすか、という点です。本年6月、規制改革会議から「一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備」を求める答申が出され、2014年度中に結論が出される予定になっています。
消費者庁の担当者に聞いてみたところ、「今回の留意事項案は、機能性表示解禁の話とは関係が無い」ということでした。本留意事項案は、現状の健康食品の広告・表示について、執行力を高めることができるよう指針を改善したもので、これから導入される予定の機能性表示とは直接は関係がないと言います。
しかし、機能性表示が解禁されても、合理的な根拠が無く著しく事実に相違する表示であれば、景表法や健増法で取り締まることができることに変わりはない、のだそうです。特に景表法では、合理的な根拠があるかどうか立証できなくとも違反とできる「不実証広告規制」が強みになります。この不実証広告規制の適用を拡大することが、今後のカギとなりそうです。
この不実証広告規制とは、景表法第4条2項に規定されているもので、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料が提出されない場合は不当表示とできる、という「みなし規定」です。そこで、どんな資料であれば合理的な根拠といえるのかどうかを定めたものが「不実証広告ガイドライン」で、2003年に公正取引委員会が公表しています。
消費者庁の執行体制も強化されています。表示対策課では、今年7月より「食品表示対策室」を設置して、景表法、食品衛生法、健康増進法の各種法令に基づいて食品表示の執行を一元的に行う体制をスタートさせました。9月には、食品表示対策室第1号の案件として、㈱モイストの「烏龍減肥」に対して景表法の措置命令を出しています。このときに使われたのが不実証広告規制でした。
消費者庁の担当者は「健増法の勧告が期待されているのはわかるが、今回は景表法の措置命令のほうが早く使えた。どちらの法律を使うにせよ、被害が拡大しないことが大事」と言います。今回の留意事項案に加えて、2つの法律の執行面を連携させる新体制が整い、健康食品の広告・宣伝規制は今後強化されることが期待されます。しかし、食品表示対策室の人員はわずか10名。今後、健康食品を厳しく取り締まるためには人員の増強とともに、地方自治体関係部局との連携強化が求められます。
今回の留意事項案で実際の健増法の指導事例が初めて公表されましたが、これはほんの一部です。今後さらに内容を充実させ、2つの法律とも次々と出てくる新しいタイプの指導事例の情報を、その都度更新してほしいと思います。
今回のように10年ぶりの見直しではなく、違反となる具体事例公表を積み重ねていけば、消費者を誤認させる表示も減っていくはずです。この留意事項案を機に、健康食品の虚偽誇大広告の執行体制を強化し、近い将来、機能性表示解禁となってもその力を発揮してほしいと願っています。(森田満樹)
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。