科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

サーモントラウトはサケ?景品表示法ではどうなる?(上)

森田 満樹

キーワード:

 ホテル・レストランのメニュー表示問題を受けて、消費者庁が昨年12月19日に業界向けに作成したメニュー表示のガイドライン案。ここでの解釈をめぐって「サーモントラウトを使ったら、サケ弁当をニジマス弁当と表示するのか?」と、業界、マスコミが反発しています。
 それではサーモントラウトは、どう表示したらいいのでしょうか。まずはスーパーなどで売られる生鮮食品や加工食品の場合について(上)で紹介し、(下)でメニュー表示の場合について考えてみます。

●魚介類は「種名で表示」が基本

 スーパーの魚売り場に行くと、切り身コーナーには「サケ」「サーモントラウト」「アトランティックサーモン」など、サケのなかまが並んでいます。加工食品の場合も、サケ缶詰は裏面の一括表示の原材料名のところに「カラフトマス」、お茶漬け用のサケには「シロサケ」、スモークサーモンには「ベニザケ」と表示されています。これらは全て、種名の表示です。

 サケのなかまは、昔は国産で天然モノが主流でしたが、今は、輸入、養殖モノが多くなって種類もさまざまです。また、塩蔵から生鮮(解凍)へと、消費者の嗜好も変化してきました。サケに限らず、魚の名称は地域や成長段階によって違っていたり、日本にはいない輸入魚が出てきたりと、特有の事情があります。これらはかつて統一されることなく、バラバラに表示されていました。

 しかし2000年以降、食品表示制度の充実が求められるようになり、魚の名称をめぐって消費者や事業者が混乱することがないよう、一定のルールがつくられました。これが「魚介類の名称のガイドライン」です。水産庁は2003年に中間とりまとめを行って運用をスタート、2007年には、より実態にあった正式なものを発表しました。この頃から、魚介類は種ごとにわけて、細かく「種名」で表示することが基本になったのです。

 このガイドラインを受けて、魚売り場の表示は大きくかわりました。消費者にはあまりなじみのないような種名もよく見かけるようになりました。サケの世界も、たとえば刺身やカルパッチョはサーモントラウトを、とか、スモークサーモンはベニサケをといった具合に、種名の表示が選択の目安となってきたのです。

●サーモントラウトは、「サケ」とは違う

 一般には川で生まれて海に降る降海型がサケ、淡水で一生終わる陸封型がマスと思われがちですが、実は明確な区分はありません。「魚介類の名称のガイドライン」から、サケのなかまを抜粋して表にまとめました。

魚介類の名称のガイドラインよりサケのなかまを抜粋

魚介類の名称のガイドラインよりサケのなかまを抜粋

 このように1つの種ごとに、「学名」「標準和名(種名)」があり、ものによって「一般的名称例」があります。ガイドラインでは、学名に専門家の間で認知された「標準和名(種名)」がつけられています。また、標準和名になじみがないときのために、「一般的名称」もつけられました。

 「学名」は生物の学術上の名称で、国際動物命名規約に基づきラテン語で表記されます。たとえば表のいちばん上の「サケ」はOncorhynchus ketaで、Oncorhynchus は属名、ketaは種小名と、属名と種小名からなります。

 「種」をまとめたものが「属」、「属」をまとめたものが「科」、「科」をまとめたものが「目」です。このガイドラインに示されているのはほとんどがサケ科のOncorhynchus(サケ属)になります。サケ科の分類をみると、サケ属、サルモ属、イワナ属など11属あり、合計78種類以上のサケのなかまが存在するそうです。最近よく見かけるアトランティックサーモンはサケ属ではなく、サルモ属でした。
 サケ科にはどんな種名のものがいるのか、㈱マルハニチロホールディングスのサーモンミュージアム「サケ科魚類の分岐図」が参考になります。属名や種名といっても絶対的なものではなく、分類もしょっちゅう変わってきた歴史を知ることができます。

 ガイドラインでややこしいのは、属名と同じ種名に「サケ」があること。シロサケやアキサケとしておなじみのものです。しかし、種名の「サケ」が、このように限定されているということは、あまり知られていないでしょう。

 標準和名や一般的名称が、消費者のイメージと必ずしも一致しているわけではありません。たとえばマスノスケ。マスとつけば淡水型と思われそうですが、マスノスケは川で生まれて海に降る降海型、一般的名称「キングサーモン」の名まえのほうがピンときます。サケの王様といった感じですが、種名はサケと書けません。

 そして、今回問題になっている「サーモントラウト」、種名は「ニジマス」です。ニジマスといえば、観光釣り場などで見かける小ぶりの白身の魚を思い浮かべますが、こちらは陸封型。このニジマスを品種改良して、海での養殖を可能にした降海型がサーモントラウトで、主にチリから輸入され私たちの食卓に届きます。スーパーなどでは標準和名の「ニジマス」とは表示されず、一般名称の「サーモントラウト」と表示されます。

 この「サーモントラウト」を「サケ」と表示してもいいのか、念のため水産庁の担当者に照会してみました。「JAS法で商品に一般的な名称を表示する場合は種名で、具体的には標準和名のニジマスか、一般的名称例にあるサーモントラウトなどと表示をしてください。サケとは表示できません。標準和名のサケは別にちゃんとあってシロサケなどがそうなので、区別をして表示をしてもらわねばなりません」ということでした。

●JAS法は「種名」が基本だが、運用はケースバイケース

 この説明のように、一般に販売されている生鮮食品や加工食品には、JAS法で名称や原材料名の表示が義務付けられており、そこには一般的な名称が表示されることになっています。ここでは、水産庁の「魚介類の名称のガイドライン」にならって種ごとの名称(標準和名か一般的名称)が記載されるのが基本となります。

 この位置づけはあくまでガイドラインですから、間違って種名を表示しても即違反ということにはなりません。しかし、魚の切り身などを扱う生鮮食品はきちんと適用されているようです。

 消費者庁が半年ごとに公表している違反事例をみると、種名間違いは年間に数件報告されています。最近では昨年9月に、「アトランティックサーモン」を「キングサーモン」と表示した不適正表示が公表されています。また、3月にはスモークサーモンの原材料が「紅サケ」を使っているのに、「秋サケ」と表示をしていた事例も報告されています。

 一方、加工食品の一部だけに使われるような場合は、そこまでの厳密さは求められておらず、違反事例も見つけられませんでした。
 たとえば、かまぼこなどは様々な魚介類が原材料として使われるため、魚種名での表記は困難です。業界団体では「魚肉練り製品における魚肉の原材料名に関する業界自主ガイドライン」という独自のルールを決めており、原材料に「サケ」「カラフトマス」を使った場合「さけ」と大くくりで表示してもいい、としています。

 弁当の場合も、あまり厳密ではないようです。現在、JAS法ではコンビニ弁当のように販売場所と別のところで製造しているものは、加工食品と同じく表示を義務付けられます。ここで「加工食品品質表示基準(わかりやすい表示方法等)に関するQ&A」「加工食品品質表示基準Q&A(弁当、惣菜関係)」をみると、おにぎりや弁当の原材料名に「鮭」「焼鮭」と表示例が掲載されていて、種名の表記まで求める記述はありませんでした。実際にコンビニ弁当をみると、種名の表記の無いものもよく見かけます。

 さらに、加工食品のアレルギー表示の特定原材料に準ずる品目に「さけ」がありますが、これも種名の「サケ」とは違います。食品衛生法における「アレルギー物質を含む食品に関する表示Q&A」の中で、この「さけ」の範囲は、「サケ科サケ属、サルモ属に属するもので陸封性を除くもの」としています。一般の人が思う「さけ」と近い感覚で使われています。

 このようにスーパーなどで売られる「魚介類の名称のガイドライン」の種名は、がちがちではなく、ものによってフレキシブルに運用されているようです。これがメニュー表示になったらどうなるのか、(下)に続きます。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。