GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
テロに水を差された形だが、G8サミットの主要議題の一つはアフリカの貧困救済プログラムだった。先週のGMOワールドでも、これにタイミングを合わせた記事が上がっていた。その中から、African Biofortified Sorghum Projectの話題を追う。
参照記事1
TITLE: African scientists plan GMO super sorghum
SOURCE: Reuters, by Alistair Thomson
DATE: July 5, 2005
参照記事2
TITLE: CSIR in bid to engineer more nutritious sorghum
SOURCE: Business Day, by Tamar Kahn
DATE: July 6, 2005
CSIR(The Council for Scientific and Industrial Research:科学と産業研究のための評議会)は、アフリカ最大の研究開発組織であり、南アフリカ共和国に本拠を置く。そのCSIRが、先進国からの1700万ドルの寄付による5カ年プロジェクトで、GMスーパーソルガムを開発するために他の8つのアフリカの研究組織とコンソーシアムを組むと発表した。
ソルガムとは、トウモロコシの親類筋に当たるイネ科の一年草植物で、原産地はエチオピアなど中央アフリカ。その栽培には5000年以上の歴史を持ち、古代エジプトやメソポタミアでも栽培されていたらしい。栽培史に比例し、様々な派生系統と豊富な品種群を持つ。例えば、日本のモロコシは中国で発達したコーリャンの系統に属する。
トウモロコシ(デントコーン)と共に米国から日本に飼料用として輸入されるマイロもこの系統である(双方を併せてメイズ・マイロとも言う。メイズには丈高く生育したトウモロコシ畑の一部を刈り取って行う迷路遊びの意味もある)。このようにソルガムは、先進国においては主に配合飼料の原料として用いられるが、世界のソルガム生産量の50%以上を占めるアフリカなどの途上国では、5億人以上の人々がこれを食用としている。
ソルガムは、高温や干ばつに強い特性からヨーロッパからの入植者たちによってアフリカ諸国に導入され、広く栽培されるようになった。しかしながら、残念なことに食品としては栄養的に欠陥があるため、これをもっぱら主食とした場合には栄養失調の恐れがある。
コムギなどの他のシリアルに含まれるタンパク質のグルテンに乏しく、ビタミンやミネラルも不足しているのだ。GMによりこの栄養改善を行うのが、このプロジェクトのゴールである。必須アミノ酸と一緒にビタミンAとE、鉄や亜鉛分を含むスーパーソルガムの開発を目指す。
この開発で国際コンソーシアムを組む9つの研究組織のうち7機関はアフリカベースである。アフリカ側で研究をリードするのは、Florence Wambugu博士(03.11.25.拙稿参照)がCEOを努めるAfrica Harvest Biotech Foundation Internationalだ。
先進国側からは、Dupont社の子会社であるPioneer Hi-Bred International社、ミズーリ大学コロンビア校が技術協力に当たり、必須アミノ酸であるリジンを50%増やす480万ドル相当の技術などが無償供与される見込みだという。
その一部が充当される総額1690万ドルの巨額財政援助は、Microsoft社のBill Gatesと夫人の名前を冠したthe Bill & Melinda Gates Foundationはじめ、the Wellcome Trust、the Canadian Institutes of Health Researchなどが寄付を行っている。
さらに、目的こそ米国でブームのバイオ燃料開発にあるようだが、セントルイスのOrion Genomics社によって、多額の費用を要すると考えられていたソルガムのゲノム解析が95%達成された。しかも、この情報は公開されており、アフリカのプロジェクトにも追い風となる。
参照記事3
TITLE: Orion Genomics Donates Sorghum Sequence To Public Domain
SOURCE: Orion Genomics
DATE: Jan. 4, 2005
コメやコムギなど先進国の食糧に対するGMが抵抗に遭う一方、トウモロコシやダイズ(カス)など先進国の飼料原料に対するGMが成功裡に実用化されている先例もある。こうした背景から、このプロジェクトが「GMは本当に飢えを救うのか?」に対する回答の、かなり実現性の高い位置にあることは間違いないだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)