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GMOワールド

共存へのブレークスルーとなるか?〜交雑抵抗性トウモロコシ種子

宗谷 敏

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 現在のGM作物栽培の最大の泣き所は、他家受粉する農産物の交雑(クロスポリネーション)問題であろう。これが解決されれば、在来種や有機作物との共存政策は一気に勢いづく。ターミネーターなどが足踏みしているうちに、米国ではトウモロコシの交雑抑止に新しい可能性を持つ技術が出現した。

参照記事1
TITLE: New corn is a breed apart
SOURCE: Star Tribune, by Joy Powell,
DATE: June 29, 2005

参照記事2
TITLE: New system can prevent corn contamination
SOURCE: Fremont Tribune, by Beverly J. Lydick
DATE: June 29, 2005

 この技術を開発したのはHoegemeyer Hybrids社、ネブラスカ州にある小さな種子メーカーである。創業は1937年、当時黎明期にあったハイブリッドトウモロコシの将来性に賭け、専業メーカーとしての道を歩んできた。

 PuraMaize と名付けられたこのハイブリッドトウモロコシは、圃場試験の結果、自身の花粉以外の外部からの授粉を阻止した。クロスポリネーションは完全に押さえられたか、現在の非GMOの区分のために規定されるどのような閾値にも満たない極めて低いレベルに留まったという。

 早い話が他家受粉植物を自家受粉化するということだろうが、特許の問題からか、残念ながら技術の詳細は記事にも同社のサイトにも見あたらない。記事によれば、97年から多数のトウモロコシ種子を調べ必要とする遺伝子を特定したあと、在来育種法により開発を進め、00年から試験栽培を行ってきたという。PuraMaizeシステムは、06年にデモンストレーションが予定され、07年から本格的販売を目指す。

 全米のGMトウモロコシ作付けは、04年には48%を占め、05年も55%に増加すると見込まれている。PuraMaizeがうまく働けば、その恩恵は計り知れない。農家は、従来のコストのかかる交雑防止システムや保険料から解放され、高反収のGMトウモロコシと非GM市場向けの在来種や有機トウモロコシを安心して作付けできる。

 ベビーフードメーカーをはじめ、非GM仕様の乳化剤やデンプンを求める食品製造業者にとってもそれは朗報だ。非GMにコアな要求を有するヨーロッパ、日本やオーストラリアへのトウモロコシや製品の輸出の道も切り開かれる。

 しかし、記事中でミネソタ大学の研究者が指摘しているように、PuraMaizeだけでは完全な解決にはならないこともまた事実だ。畑での区分が完全になされても、長い輸送経路におけるコンタミネーションの問題が依然残る。

 トウモロコシのコンタミネーションは、産地のコンバイン、サイロビンから集荷エレベーターに至るまで、機械装置から起こる可能性を排除できない。輸送経路をカットして、近隣の食品原料工場でトウモロコシを製品化してしまう手はあるだろうが、ともかく洗練されたIPハンドリング(分別流通手法)と組み合わされて、初めてPuraMaizeは活きる。

 これはトウモロコシに限ったことではないが、米国農家のGM農産物作付けへの支持が伸長する中で、非GM市場の要求を満たして行くことは、ますます困難となる傾向にある。分母が大きいから不可能ということにはならないだろうが、非GM市場がどこまでコスト負担に耐えられるのかは、難しい問題だ。

 共存に関しては、フィラデルフィアで開催されたBIO2005において、GM、在来、有機を成功裡に栽培している米国農家からの発表が行われた。緩衝地帯の設置と近隣農家の説得や理解が鍵だというが、花粉の飛翔距離など真剣に考えれば、それほど楽観的な話ではないようにも思える。

参照記事3
TITLE: Where conventional, organic, GM farms co-exist
SOURCE: The Hindu, by M.R. Subramani
DATE: June 29, 2005

 様々な背景を考えれば、PuraMaizeシステムには充分ビジネスチャンスがあるだろうし、もっとこの種の技術は開発されるべきだろう。GMには明らかにベネフィットがある一方、有機や非GMへの別種の要求も存在する。共存は時代の要請であり、応分のコスト負担は条件だが、選べることは一つの文化だ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)