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GMOワールド

「カリフォルニア現象」をブロック〜州法1056論争

宗谷 敏

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 米国カリフォルニア州では、昨2004年に3つの郡と2つの町がGMO栽培禁止などを決議した。これらを無効とし、さらに州内の同様の動きを阻止する目的の州法1056が、州上院において議員立法により準備されている。GM賛否論争を越えて複雑なこの問題を探る。

参照記事1
TITLE: Biotech bans in California counties spark push for state control
SOURCE: AP by Daisy Nguyen
DATE: July 12, 2005

参照記事2
TITLE: Proposed legislation would void county biotech seed bans
SOURCE: Capital Press Agriculture Newspaper, by Ari Bay
DATE: July 8, 2005

 住民投票もしくは地方行政措置によってGMO栽培禁止などを決定しているのは、メンドシノ郡(04年3月)、トリニティ郡(04年8月)、マリン郡(04年11月)の3郡と、フンボルト郡アルカタ町(04年11月)およびメンドシノ郡ポイントアリーナ町(05年5月)である。ソノマ郡でも、来る11月に住民投票が行われる予定だ。これらの動きを総称して「カリフォルニア現象」と呼ぶ。

 広大なカリフォルニア州は58の郡と478の町を有するが、カリフォルニア大学の調査によると、12の郡がGMO栽培などに反対する住民投票を計画しており、一方9つの郡は既にGMOを支持する議決をしている。

 「カリフォルニア現象」を抑えこむために、ペンシルベニア、アイオワ、ジョージア、ノースダコタ、サウスダコタ、アリゾナ、アイダホ、オクラホマ、テキサス、カンサスなど15の州が、カリフォルニア州法1056と同様な働きを持つ州法を既に成立させたり、導入を検討したりしている。

 州法1056の成立に危機感を抱いて、もっとも強く反対しているのは当然ながら有機農業関係者だ。しかし、6月29日に開催された州議会農業委員会の公聴会では、The California Seed Association(カリフォルニア種子協会)、California Women for Agriculture(カリフォルニア農業婦人会)、The Wine Institute(ワイン研究所)、The California Association of Winegrape Growers Winegrape(カリフォルニアワイン用ブドウ栽培者協会)などの農業グループが州法1056支持を表明した。

 賛否各論の争点は、今まで世界中で繰り返されてきた共存論争とたいした違いはない。が、地方のGM禁止令に反目するグループの根底に共通して流れているのは「自分の土地に何を植えようが、それは自分たちの自由だ。たとえお上からでも干渉されたくない」という感情である。この自由という言葉に米国人は極めて敏感だ。

 GMダイズやナタネが始めて本格商業栽培された96年のことが思い起こされる。秋の収穫に向けての播種の時期に、日本の製油・穀物輸入業界は、米国とカナダにその年のGMダイズとナタネ作付けを控えてくれるよう民間レベルで要望した。日本の厚生省(当時)による安全性承認が得られておらず、秋までに認可されるという保証がなかったからである(最終的に認可は間に合った)。

 もちろん対日貿易依存度や栽培面積の違いはあるが、Canola Council of Canada(カナダ菜種協会)は、莫大な経費と手間をかけてGMナタネの収穫を、この年(逆)IPハンドリングしてくれた。一方、American Soybean Association(アメリカ大豆協会)からの回答は「米国は自由の国だ。米国内で販売が許されているGM種子を、農家に植えるなとは言えない」という素っ気ないものであった。

 話をカリフォルニア州に戻そう。この議論のねじれ方が複雑なところは、バイオ工学への支持を表明しているThe League of California Cities(カリフォルニア都市連盟)やThe California State Association of Counties(カリフォルニア郡協会)が、必ずしも州法1056には賛成していないことだ。この法案が、作物栽培に対するいかなる規制も事前に郡や町が決めることを許さない点が反対の理由であり、それはバイオ工学問題を超越しているというのだ。

 なお、似たようなケースとして、カリフォルニア州では90年代に喫煙や銃器を禁止する地方の規制を、業界からの巻き返しなどにより州法レベルで潰した前例がある。連邦政府が、GM食品について充分に説明しなかった怠慢から、地方でこうした混乱が起きているのだという怨嗟の声も一部から聞こえて来る。ともかく「カリフォルニア現象」の行方は、今や全米の農業関係者の注目を集めている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)