科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

農と食の周辺情報

2月1日からBSE対策変更 月齢基準のさらなる見直し作業も進行中

白井 洋一

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 牛海綿状脳症(BSE)の検査基準の見直しが2月1日から実施される。昨年9月に食品安全委員会プリオン専門調査会から出された検討結果に沿ったものだ。昨年9月26日のコラムでも書き、メディアでも詳しく報じられているが、見直されるのは次の3点だ。

(1)検査対象とする月齢を現在の生後20カ月齢以上から30カ月齢以上に引き上げる。
(2)特定危険部位(SRM)として除去する対象を現在の全月齢から30カ月齢以上に変更する。
(3)この基準は日本国産牛と米国、カナダ、フランス、オランダからの輸入牛肉に適用する(日本を含め米加仏蘭の5カ国共通ルール)。

 なお、その後の協議でオランダ産は輸出国側のビジネス上の要望から、12カ月齢以下の牛肉と内蔵が輸入対象となった。

リスコミはやや低調 非定型BSEも突っ込み不足
 法律の改正を前に、東京と大阪で一般向けの説明会(リスクコミュニケーション)が開かれた。 1月22日の東京会場には約200人が参加し、10人が質問と意見を述べた。「全頭検査をやっているのは日本だけ。(無駄なことはやめて)予算をもっと有効に使ってほしい」、「和牛の輸出振興とともに輸入も進め、国民の選択肢を広げてほしい」という意見もあったが、生協、消費者団体、畜産農家からの意見は、米国の検査体制への不安と不信、それにエサ(肉骨粉)を介しない自然発生型の非定型BSEは未解明な点が多いことに集中した。。 行政の担当者は、米国の管理・検査体制について、「飼料規制はきちんとおこなわれている」、「歯列での月齢判断は国際的にも認められており、個体間のばらつきを考慮しても30カ月齢以上を区別できる」、「全頭検査ではないが、歩様の正常な健康牛を調べてもBSEが検出される確率はきわめて低い。リスクの高い牛を調べることに意味がある」と回答。 非定型BSEについても、「日本での1例を除けば、すべて6.3才以上の牛で発生しており、検査対象を30カ月以上に引き上げてもリスクはほとんど変わらない」、「日本で発生した23カ月齢もプリオン蓄積量は少なく、感受性の高い遺伝子組換えマウスを使った実験から伝達性ではなかった」と回答。 「予防的な観点から、できるだけ安全を確保するのが行政の役目ではないのか」との質問には、「ゼロリスクではなく、できるだけリスクを低くするのが行政の役目と考える」との回答があった。 非定型BSEについては、2012年4月のアメリカでの発生とともに、最近(2012年12月)のブラジルでの発生も話題に出るかと思ったが、どの質問者からも深く突っ込んだ質問はなかった。

輸入規制は2月、国内規制は4月から実施されるが
 今回のBSE対策見直しによって、輸入条件は2月1日から変更になるが、国内産牛の検査月齢の見直しは4月1日からになる。しかし、都道府県のと畜場での全頭検査は今まで通りつづく模様だ。厚生労働省は見直し後も、現在の21カ月齢以上のBSE検査費用の国庫補助を続けるからだ。 配布された厚生労働省の資料の「今後の予定」によると、次のように書いてある。 「食品安全委員会では、国内措置の検査対象月齢および輸入措置の月齢制限について、さらなる月齢引上げを審議中」、「国内措置のBSE検査費用の国庫補助(21カ月齢以上)については、本年4月の30カ月齢超への見直し段階では継続する」、「食品安全委員会の2次答申の際に補助対象月齢を見直す」。 国産牛の出荷月齢の平均はおよそ30カ月齢であり、今年4月に補助金打ち切りとなると現場での混乱も予想されるので、経過措置として当分の間は今まで通りに検査費用を出す。しかし、食品安全委員会のさらなる答申が出たら、その月齢に引き上げ、それ以下の月齢牛への検査費用補助は打ち切るということだ。 国内でのBSE問題の次の山場は「さらなる月齢基準見直し」が答申されたときになる。 見直し作業は今、食品安全委員会のプリオン専門調査会で進行中だ。これは急に決まったことではない。2011年12月に、厚生労働省が食品安全委員会に諮問した3つ目の案件の一つだ。しかし、30カ月齢への引き上げや米国牛肉の規制緩和ばかりが話題になってマスメディアもあまり取りあげていない。 さらなる月齢見直し(引き上げ)の答申がいつ出されるのか、それが48カ月齢になるのか、ヨーロッパのように72カ月齢になるのか、現時点では不明だ(海外の検査月齢見直しは瀬古博子さんの今月の質問箱「イギリスでは3度、BSE対策を緩和した」を参照)。 しかし、食品安全委員会の科学的見地からのリスク評価が終わり、厚労省の薬事・食品衛生審議会で承認されれば、当面継続の30カ月齢以下の検査補助金も廃止ということになる。そのときになって、安全性無視だ、さらに後退した、また外国の圧力に屈したなどと突然、騒がれないよう、厚労省や食品安全委員会は今こういう作業を進めていますと、メディアや関係団体に知らせておいた方が良い。 今回の対策見直しで、20カ月から30カ月への引き上げに多くの人が不安、不信を抱いたのは、2003年に日本で発見された21カ月齢と23カ月齢のBSE陽性牛が記憶にあったからだ。発生時は大きく報道されたが、その後の精密な検査で、「プリオン蓄積量はごく少ないこと」、「感染性の高いマウスを使った実験でも感染性(伝達性)はなく、たとえこの牛の肉を食べても、人への感性性はない(無視できるほど小さい)こと」は十分に伝わらなかった。 関係者には当然わかっていることでも、一般市民や多くの出来事を取材しているマスメディアの人たちにはなかなか理解されない。節目節目での情報公開は当然だが、早め早めのお知らせ、事前予告も必要だ。これも丁寧な説明、リスクコミュニケーションのひとつだと思う。

執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

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一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介