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執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

農と食の周辺情報

ドイツ緑の党 連立政権でどうなる? ゲノム編集食品、グリホサート承認、動物福祉

白井 洋一

2021年9月、ドイツは総選挙でキリスト教民主・社会同盟が負け、社会民主党、緑の党、自由民主党の3党連立政権が12月8日にスタートした。社民206、緑118、自民92で、計416議席、735議席の56.6%だ。環境重視の緑の党と自由経済志向の自民党で果たしてまとまるのかわからないが、欧州委員会の広報サイト、EurActiv(2021年11月26日)は、3党は家畜福祉重視、農業補助金配分の見直しを強調と伝えている。

欧州委員会の広報サイト、EurActiv(2021年11月26日)記事より

ゲノム編集食品や除草剤グリホサートなど社会を賑わす話題にもふれている。欧州連合(EU)はバイテク農産物や農薬の承認は、科学的に妥当と専門家が認めても、最終的にはEUの行政府である欧州委員会と閣僚会議の政治投票で決める。一国一票ではなく、人口に比例した持ち分票があるため、大国ドイツがどう出るかはEU全体の農業、環境政策に大きく影響する。2022年はグリホサート使用期限の更新年でもあり、ドイツの動向が注目される。

●ゲノム編集食品

EUではゲノム編集食品は現時点では、遺伝子組換えと同じルール扱いだが、欧州委員会は小規模の変異を誘導するだけで、外来遺伝子は残らないタイプのゲノム編集は、別なルールを適用して、緩やかなものに変えたいと目論んでいる。前回の当コラムで紹介したように、EUの決定は早くても2023年の予定で、まだ先の話だ。

緩やかなルール変更の方針に、社民党と緑の党は当初、慎重か反対だったが、9月の総選挙では「ゲノム編集技術そのものは否定しないが、販売する農産物には表示が必要」とややトーンダウンした。自民党は積極的な推進派だ。表示や識別する技術がない中で、2023年に政治投票となると、連立政権内でまとまらない可能性がある。しかし、政党、政治家の態度はコロコロ変わる。今、2年先のことをあれこれ予測しても意味がないだろう。

グリホサートの更新 再承認か失効か

グリホサートをめぐるヨーロッパの混乱、迷走は当コラムでも何回か紹介してきた。EUでは農薬の使用期限は原則15年で、グリホサートは2016年6月に15年間の再更新が認められるはずだった。しかし、2015年3月に世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)が「グリホサートはおそらく発がん性の可能性がある」とグループ分けしたことで流れが変わった。グリホサートは遺伝子組換え作物の最大手、モンサント社(2018年にバイエル社に合併)の製品であり、反農薬、反組換えの市民団体や政治家の標的となった。

2016年6月の再更新は難航し、欧州委員会はとりあえず1年半の延長で乗り切った。この間に欧州食品安全機関(EFSA)と欧州化学庁(ECHA)が、グリホサートの発がん性を再審査したが、いずれも使用基準に従って使えば安全というものだった。これはリスク(確率)に基づくものだ。一方、IARCの見解は、危害(ハザード)を示唆する論文があったからというもので、農薬の商業利用の審査には使わない判断基準だ。しかし、反対派は審査に使ったデータの多くは開発企業の提出したもので、論文として公表されていないと、審査体制そのものを批判した。

翌2017年の各国投票では、本来の15年更新ではなく、10年更新案を示したが、賛成、反対とも有効票に達しなかった。ドイツが棄権に回ったのが大きい。さらに5年更新案に変更したが、それでも決まらず、時間切れで、使用禁止が迫った。使用禁止になると、グリホサートを散布できなくなるだけでなく、大量に輸入しているグリホサート耐性の組換えダイズに含まれる残留農薬も未承認となり、基準値が大幅に厳しくなる。飼料用ダイズの輸入ストップはEUの畜産業にとって死活問題だ。

ところが11月末の農業担当閣僚会議で、ドイツの農業大臣が賛成票を投じ、有効票をクリアし、5年間の使用延長が決まった。メルケル首相は「シュミット農業担当大臣が勝手に判断した。私は指示していない」と怒ったそうだが、その後、シュミット氏が更迭されたという話は聞かない。グリホサート使用禁止になればEU各国が混乱するのはわかっており、最後は「大臣が勝手にやったこと」で幕引きとなった。

あれから5年の2022年11月、グリホサートの更新時期が来る。欧州委員会はEFSAとECHAの再審査をもとに2021年9月に意見募集を開始した。更新期間は明らかではないが、もちろん再承認を目指している。ただし5年前と比べ、グリホサートをめぐる情勢はさらに厳しい。ドイツは2023年末までに国内での販売禁止を予定しているが、実際の使用禁止時期や輸入穀物の残留値など細かいことは決まっていない。フランスもマクロン大統領が2021年までに使用禁止を宣言したが、代替の農薬、雑草防除法が見つからない。グリホサートを使用しない農家にはコストがかかった分、補助金を出すと対策を示したが、政策に一貫性がなく、農業者の評判はよくない。

ドイツは緑の党の顔を立てて、グリホサート再更新に反対票を投ずるかもしれないが、ほんとに完全禁止になったら困るので、他国が様子見で賛成や棄権に回る可能性はある。2022年秋から初冬にかけて、EUはグリホサートが話題になるだろうが、科学的な安全性ではなく、政治家、環境活動家による恒例のドタバタ政治ショーが繰り広げられることになる。

●家畜福祉重視では一致 

アニマルウェルフェア(Animal welfare)は本来、動物愛護、福祉を意味するが、今、EUで注目されているのは家畜福祉、家畜の生存権だ(EUの家畜福祉、5つの自由, EurActiv, 2021年10月)。

家畜にとっての5つの自由とは、主に飼育環境の改善で、家畜本来の行動を保証する飼育スペース、長距離輸送によるストレスの解消など家畜の生存権に関わるものだ。欧州委員会は2021年4月にニワトリのケージ飼育を禁止し、止まり木のある平飼い飼育を求める市民の請願を受け入れる方針を示すなど、家畜福祉はEUの農業、環境政策では大きな流れになっている。家畜の他、気まぐれでペットを買うなとか、サーカスでの野生動物使用禁止を法制化している国もある。

ドイツでも環境重視の緑の党だけでなく、社民党や自民党も家畜の福祉尊重では一致している。連立政権の政策で、ドイツの畜産業の構造をリストラし、家畜福祉の向上と温室効果ガスの削減を図るものに改革すると強調している。家畜福祉には、ニワトリのケージ飼育禁止だけでなく、繁殖雌ブタの閉じ込め禁止、長距離・長時間の輸送禁止、ふ化直後の雄ひなの殺処分禁止など、さまざまな目標があるが、ドイツはより厳しい目標を設定し、表示によってドイツ畜産物の優位性を強調する戦略のようだ。

●アニマルウェルフェアの波 そのうち日本にも?

欧州ほどではないが、日本でもアニマルウェルフェアを強調した企業、畜産品が増えてきた。大手の食肉企業が「雌ブタの妊娠ストール(おり)を使わない」とか、養鶏業者が「卵は全部、平飼い。ケージ飼育はしていない」と強調する広告や記事が目につくようになった。

1年前の2020年12月に、元農林水産大臣が在職中に養鶏業者から現金を受け取った事件が発覚した。新聞報道によると、養鶏飼育法の国際基準作りに業者が危機感を持ち、大臣に現金を提供し、厳しい基準にならないよう働きかけたらしい。事件の真相はまだはっきりしていないが、この養鶏業者だけでなく、畜産業界が欧米、特に欧州の家畜福祉重視、より厳しい基準作りの動きに敏感になるのは理解できる。環境団体の要求や消費者の購買動向だけでなく、より厳しい基準を作って商品を差別化して、売り上げ増を目論む業界の思惑があるため、生産現場の実情やコスト負担が顧みられない面があるからだ。

今、日本の農水省は有機農業の拡大、推進に熱心のようだが、EUでは有機畜産でも家畜福祉を強調し飼育条件の向上を求めている。日本の有機畜産も抗生物質や遺伝子組換え作物をエサに使わないだけでなく、より厳しい飼育条件が求められる日が、遠からずやってくるのではないかと思う。

生き物を大切にし、家畜の飼育条件を快適なものにする家畜福祉自体は良いことだが、人間本位の家畜福祉が、ほんとうに家畜にとって幸福なのかはわからない面もある。人間の勝手な押し付けや、商品売り上げの目論見が見え隠れするので、素直に称賛できないのだ。

執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

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一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介