科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

紅麹サプリ問題を俯瞰して気になること

斎藤 勲

3月22日の小林製薬の自主回収発表から、今回の紅麹サプリ問題は始まった。機能性表示食品始まって以来の大問題となっているが、報道を見ていて気になるところがある。

●プベルル酸の毒性はわからない

3月29日に行われた厚生労働省と国立医薬品食品研究所(小林製薬社員も同席)の記者会見で、成分Xの一つはプベルル酸(Puberulic acid)で毒性が強いとする発表があった。プベルル酸は、紅麹モナスカスではなく、ペニシリウム属のカビが産生する物質で、北里大学で抗マラリア剤として関連化合物を含め研究されている化合物でもある。

強い毒性とされているのは、北里大の千成さんらのPuberulic acid関連物質の構造活性研究の論文のイントロ部分からの引用であろう。マラリア感染マウスを使って2㎎/kgを4回(4日間)皮下注射したら69%の阻止率を示したが、5㎎/kgを2回皮下注射したところ5匹中4匹が3日以内に死んだと書いてある。その後半部分をもってきて、毒性が高いという表現になっているのだろう。

しかし、通常のマウスで投与しないと実際の毒性はわからないし、今回の腎毒性と関係があるかないかは不明である。

●厚労省が示したクロマトパターン

しばらくの間、成分X ということばが日本中を飛び回っていたが、知る人は知っていたわけだ。厚生省は小林製薬が行ったデータをもらっているので情報量は多いなと感じる。3月29日の紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合の資料を見ると実感する。特に厚生労働省提出資料のスライド4「原因物質の特定について」を見ると、縦軸に製造年月、製品ロット、原料ロットがあり、それを分析した際のLC/MSだと思われるクロマトが載っている。

3月29日 紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合・厚生労働省提出資料より

分離カラムから溶出する早い時間帯に成分Xのピーク(プベルル酸)があり、その中で9月製造のロットが、一番大きいピーク(ピーク面積20211675)を示した図を掲載している。

こういった実データで成分Xについて、それが今回の腎毒性に直結するかは別にして、こういったクロマトなども含めて科学的にかつ具体的に説明をしてくれると、多くの科学的関心の高い人々の理解も進んだのではないかと思っている。今後、このような各製造ロットでの成分クロマトデータ、クロマトパターン比較は品質管理上必須のものになるかもしれない。

●紅麹モナコリンkは標準品(医薬品)よりも効く

もう一つ気になるのは、今回の報道とは直接は関係しないが、小林製薬研究所のHPに掲載されている「有用成分モナコリンKの吸収性の検証:【研究1】紅麹中のモナコリンKとモナコリンK標準品における血中動態の比較」である。

これは、紅麹のコレステロール低下作用の活性物質モナコリンk(医薬品名ロバスタチン)の吸収性を見た実験である。紅麹含有モナコリンkとのモナコリンk(ロバスタチン)標準品を40㎎/kgラットに投与し、血中のモナコリンk濃度を測定した。投与後1時間くらいが共に血中濃度のピークであるが、モナコリンk標準品群よりも紅麹モナコリンkの方が数倍高濃度であった(紅麹の方がよく効くということ)。また、投与後4時間のモナコリンk総吸収量も、紅麹投与群のほうがモナコリンk標準品投与群よりも数倍高かった。

考察として「紅麹にはモナコリンkの血中への吸収を促進する他の成分が存在することが示唆され、その薬効もモナコリンk単独摂取とは異なる可能性が考えられました。多様な成分を含む紅麹には、それらの成分の相乗効果による高い効能も期待されます。」と紅麹のプラスアルファ成分を強調している。多様な成分を含むということは、それだけ品質管理も難しかったはずだ。

これは2013年Chenらの報告にもあるように、紅麹中モナコリンkは結晶性が悪い(粗結晶)ので、標準品と比べて溶解速度が速いからという説明の方が納得できる。紅麹中モナコリンkの方が医薬品より吸収が良いということは、その効果評価の際、紅麹100㎎中ポリケチド2㎎相当と表示されているが、実際は医薬品の10㎎位に相当する活性濃度であることを意味するのではないか。米国やカナダでは1日5㎎程度以上では未承認医薬品としてみなされるようだとの情報(畝山智香子著「健康食品のことがよくわかる本」210p)もある。

疾病に対する効能をうたわない機能性表示食品ではありながら、医薬品よりよく効くことは記憶しておく必要がある。

●サプリメントとしての食経験は短い

小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」が機能性表示食品として届出している安全性の項目では、

(2)当該製品の安全性に関する届出者の評価
 1.食経験の評価で、「当該製品を2022年から1000万食以上販売しているが、本製品が原因と示唆される重篤な健康被害は報告されていない。さらに、小林製薬株式会社製の米紅麹原料の販売実績から考察を行った。米紅麹原料は2007年よりサプリメントの原料として販売を開始し、これまでに17.5トン以上(1.75億食分相当)を国内外に流通させてきた。(略)これまでに米紅麹原料を含有したサプリメント等において健康被害は報告されていない。」

とある。

正直、安全性の担保として、このような自転車操業的なものでいいのだろうか。今はいいけど、いつ倒れてもおかしくないのではと思ってしまう(今回は倒れた)。

紅麹としては長い歴史の中で食経験があったとしても、朝昼晩錠剤を毎日摂取するような形態ではなかったことは明らかだろう。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

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残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。