科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

お家騒動から、また話題になったはちみつ中グリホサート

斎藤 勲

出所:Adobe Stock

加藤美蜂園のお家騒動で話題となったはちみつ中グリホサートは、このまま収まるかと思っていたが、PBブランドのはちみつからも一律基準0.01ppmを超えて検出されたという報道が出て、店頭撤去や自主回収がすすめられている。

●残留基準と一律基準 超過した場合の考え方

食品衛生法第13条3項では、残留基準値のないものは、「人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める量を超えて残留する食品は、これを販売の用に供するために製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、保存し、又は販売してはならない。」と定めている。

農薬の残留基準値の決め方は、それぞれの農薬で安全性評価を行い、ADIを算出する。使用したい作物での作物残留試験から設定された残留基準値をきめ、その基準値でそれぞれの作物で使用され摂取しても十分ADIを下回っていればその基準値が採用される。残留基準値は、農薬を使った場合の使用方法を基に設定されるものので、基準値を2倍、3倍超過した場合は通常あり得ない農薬散布方法の証拠であり、その商品は回収・販売せず、次回から適切な農薬使用が求められる。このようにトータルとして安全性が担保される仕組みが、それぞれの食品で基準値を設定している意味である。

では一律基準を3倍、5倍超えた場合はどうか?一律基準超過の場合は、イレギュラーの発生を意味する。もともと基準値もなく、使われるわけでもない農薬の残留がウォッチラインに引っ掛かってきたというのが実際のところで、その理由を探るための指標であり、「超えたか超えないか」が問題なのである。この量の残留なら問題ないよというレベルなので、それを3倍5倍超えたからと言っても問題が発生するわけではない。一律基準違反が発生するのは、国と国との基準の違いや、隣で散布した農薬がドリフトした場合が大半である。

●はちみつのグリホサート検出の実態

今回のはちみつのグリホサート問題は、ミツバチがいろいろな花や蜜源からかき集めてきた蜜や体に付いてきたものだろう。

お家騒動の訴訟資料からとされる報道によると、はちみつの団体が輸入前の111件のサンプル調査で、アルゼンチン産は7割、カナダ産は3割から0.01ppm以上のグリホサートが検出されている。日本の一律基準は、諸外国に比べて基準が厳しいという実態を厚労省に伝えるための調査資料とのことだが、このレベルの残留、移染は現実に起こっているのだろう。ちなみにグリホサートの約半分が南米で使用されているとか。

2020年年もニュージーランド産はちみつからグリホサートが問題となり、2021年1月には命令検査に移行した。しかし、すぐに登録検査機関で対応できない(通常の残留農薬一斉分析に載らないため)ので、当面は自主検査を行い、2021年年8月に2か所の登録検査機関で分析可能となったとの事務連絡が出ていた。2019年にははちみつを769トン輸入して輸入時検査は0件、2020年には1,197トン輸入して57件検査して2件で、一律基準超過と報告されている。要するに今まで主要な食品でもなく、検査していなかったということだろう。

●グリホサートの基準値改正へ

グリホサート、正式な化学名はN-(Phosphonomethyl)glycine (IUPAC名)である。簡単に言うと、リン酸とアミノ酸のグリシンが結合したようなもので、昔からあるベンゼン環に塩素がたくさん付いた怖いイメージの農薬とはだいぶ趣が違う。除草剤としての作用は、動物や人にはないが植物体内の芳香族アミノ酸合成ルートを阻害して殺草効果を示すと考えられている。そのため毒性は高くなく、ADIが1㎎/㎏、ARfDは急性毒性が低いので設定する必要なしとなっている。

ではこの事実を踏まえて一律基準0.01ppmの3倍5倍のリスクを考えるとどうか。食品として摂取量の多い小麦の残留基準値は30pm、大豆20ppm、なたね30ppmと比べると、このハチミツにリスクがあるとは思えない。あるのは法律違反だけである。では、どうするのか。

今後の対応として、欧州委員会の対応も踏まえ、はちみつ中の農薬の基準値設定の方法について検討がなされている。基準値案としては、公示試験法がある場合には定量限界値を、公示試験法としてはちみつ固有の定量限界値LOQが検討されていない場合は、規定値として0.05ppmを設定するという方向で進められている。

現在、蜜を生成する果実ナッツ類等食用作物で残留基準値が設定され、急性参照用量ARfDで設定の必要なしとされた40農薬について基準値案が作成されている。シフルベンズロン、スピノサド、フェンヘキサミドの3農薬は0.01ppm、グリホサートを含むそれ以外の農薬は0.05ppmが提案されている。パブリックコメントも終了し、ちかく新基準値に改正されるだろう。

輸入はちみつには0.05ppmを超える残留のものもあるが、多くの商品がその範囲内に収まっている。今回のお家騒動のとばっちりで話題となったはちみつ中グリホサートも、もうすこしすると穏やかな日々が訪れるだろう。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。