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執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

EFSAのウール長官インタビューより“オーガニックは世界を食べさせられない”

瀬古 博子

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2019年11月に、EFSA(欧州食品安全機関)の長官を務めるバーンハード・ウール氏(Dr. Bernhard Url)のインタビュー記事が、海外メディアに掲載されました。

ウール氏自身が、ツイッターで、グリホサート、気候変動、持続可能性、食料生産など、食品安全関連の幅広いトピックについて話したインタビューだと紹介しています。

●グリホサートは安全か?

インタビュー記事はオーストリアのメディアで、ドイツ語です。正確な内容を知るには、原典をご覧ください。

タイトルは、「論争の除草剤 食品安全機関長官:オーガニックは世界を養うことができない」。
論争の除草剤とは、グリホサート(商品名ラウンドアップ)のこと。

オーストリアは、7月に議会で除草剤グリホサート禁止を決議し、2020年に決議が発効すると、グリホサートを全面禁止した最初のEU加盟国になるということで、注目されているわけですが、インタビューワーは、いきなりグリホサートについて「この除草剤は安全か」と問います。

ウール長官の答えは、「人間の健康にとっては安全。」と、明快です。「もちろん除草剤なので環境への影響はある。標的ではない生物への影響と同様、これはリスク軽減策を通じて管理されなければならない。」と説明しました。

グリホサートについて、異なる見解が出ることについては、
「WHOには、植物保護製品を評価する部門が二つあり、一つは、EFSAと同じようにグリホサートを評価し、発がん性なし、としている。もう一つのIARC(国際がん研究機関)のほうは、薬剤が発がん性である可能性が高いと考えている。主な違いは、IARCは公開されたデータのみを見ていること。私たちEFSAでは、公開された文献と、産業界の申請者によって提出されたデータを考慮する必要がある。」

また、グリホサートに関するアメリカの裁判については、「科学的な議論ではない」としています。

オーストリアでのグリホサート禁止については、「選挙で選ばれた代表者が議会で決定した場合、それは彼らの権利。しかし、農家にとっては何を意味するのか。農家は何を使うのか。代替となるものの危険性は増加するのか減少するのか。」と述べています。

たしかに、適当な代替物があるのか、その安全性はどうなのか、それが最大の問題といえます。

●気候変動と食品安全

オーガニックについては、「2050年には100億人が地球に住んでいる。グローバルな視点では、オーガニックは解決策ではない。土壌の健康、生物多様性など有機農業の長所と、高収量という慣行農業の長所を組み合わせる必要がある。」と述べ、さらに、気候変動の影響についても「気温の上昇、豪雨などにより直接的な影響がある。サルモネラなど微生物への影響も。海洋の温度上昇で、例えばマグロがより多くの化学物質を吸収したり、カリブ海にのみ存在した、毒素を形成する藻類がヨーロッパの海域に入ってきたり。」と語っています。

このインタビューについて、読者コメントが629件も寄せられており、関心が高いことがわかります。科学者がわかりやすい言葉でインタビューに答えたので、読者も、身近なこととして興味を引かれたのでしょう。

●オーストリアのグリホサート禁止令は暗礁へ

オーストリアでのグリホサート禁止令は、2022年末まで使用を認めるEUの規制と合致しない可能性があり、欧州委員会が異議を唱えた場合、禁止令が発効しなくなる可能性があることが、以前から指摘されていました。

最新の報道(12月9日・ロイターなど)によると、オーストリア政府は、グリホサート禁止令の発効を止めたようで、欧州委員会への通知が適切に行われなかったという、手続き上の問題が理由とされています。

グリホサートは、日本では、農薬取締法の使用基準や食品衛生法の残留基準などの規制の下で、規制の範囲内で使用されていますが、海外では、タイで使用禁止をいったん決めたものの、農業界からの反発で撤回したり、ヨーロッパではフランスやドイツが脱グリホサート政策を進める一方で農民による反対デモが起きたりなど、いろいろな動きが報じられています。

オーストリアでもこの先、グリホサート規制がどうなるのか、まだわかりません。

いずれにしても、ウール長官も指摘したように、注意が必要なのは代替として使用される物質であり、その安全性や環境影響がグリホサートと比べてどうなのかを問う必要があるでしょう。(12月5日FOOCOMメールマガジン第421号に、加筆修正しました。)

<参考>

アグリファクト

どうなるグリホサート発がん裁判 陪審員評決は3連敗だが環境保護庁は発がん性を否定

食品安全委員会 グリホサート評価書

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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