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執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

国産農産物の残留農薬をリスクで見てみると?

斎藤 勲

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 農水省の平成24年度の国内農産物調査では、どんな農薬の検出頻度が高いのだろう。表を棒グラフにしたのが次の図である。

コラム用H24農薬検出頻度 平成23年度と比べてみると全体的な検出農薬の傾向は変わらないが、ジノテフラン(農薬製品名は、スタークルやアルバリン)は250検体中156件(62.5%)で検出され、ぬきんでた形となっているが、23年も検出率は63.3%で対象作物の種類も大きく変わっていないので、検査件数が207件から250件に増加したのが影響している。お米のジノテフランはカメムシ防除などで使用されるが、農水省の調査では、平成23年から本格的に検査されており検出件数に貢献している。

 ジノテフランの検出濃度は、平均値でしゅんぎく0.805ppm、ほうれん草0.393ppm、ねぎ0.236ppm、ピーマン0.115ppm等が0.1ppm以上となっているが、それらの残留基準と比較すると、1/20以下であり適切な使用がうかがえる。最高値でも残留基準の1/4に収まっている。
 全体的な残留濃度の平均値を見てみると、0.1ppm未満が大半であり、通常の摂取量ではADIにははるか届かないレベルで管理されていると思っていいだろう。

 以前にも書いたが、有機リン系殺虫剤の検出がほとんど見られない。検査はしているが検出率がとても低い。ネオニコチノイド系殺虫剤などに使用が代変わって来ている。家庭園芸などでも良く使ってきた有機リン系殺虫剤アセフェート(オルトラン)も、ADIの変更(厳しくなった)や急性暴露評価の実施なども考慮して、農薬企業が自ら、残留基準値の大きいかんきつ類、トマト類、なす等を登録削除している。そのため、農家は使わなくなっている。

 そんな状況を見ていると、昔から農薬検査をしてきたものとしては何か寂しい感じがするし、残留基準値が削除され一律基準が適用される作物が増えてくると、現在アセフェートの残留基準が設定されていないニンジンでたまに発生する事例だが、使っていないのに基準超過するようなトラブルが増えるのは正直なところ気が重い。

 農産物ごとの検出数は、比較がむつかしいが、延べ検出数を述べ検体総数で割った割合では、全試料検体では14.7%であった。その内では、しゅんぎく47.6%、にら35.4%、ほうれんそう24.7%、日本なし16.4%(23年のりんごでは14.9%)などと明らかにしゅんぎく、にらの両方が検出率が高い。しゅんぎくでは、ジノテフラン、フルフェノクスロン、アセタミプリド、アゾキシストロビン等、にらではクレソキシムメチル、アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、シペルメトリン、フルジオキソニル等が検出されている。
 農薬残留を嫌う人が多ければ、この2作物は有機農法で栽培すればビジネスチャンスは大きいと、生産現場の苦労などを無視すれば考えてしまう。

 最後に897検出農薬の中で、残留基準を超過した2検体、レタスのプロシミドン(検出値7ppm/基準値5ppm)、にらのクレソキシムメチル(検出値70ppm/基準値30ppm)についての農水省の考察を紹介する。通常の保健所などの行政検査で違反事例の発表があるものと少し異なるというか科学的な説明である。

 保健所等なら、このように説明するだろう。
レタスのプロシミドンの場合、ADIから計算した最大許容量は1.93㎎/人(体重55.1㎏)/日。このレタスを毎日275g(1.93㎎÷0.007㎎/g)一生涯食べ続けてもADIを超えることはないので健康に影響はありません。

 今回の農水省の説明は次のようなものだ。
プロシミドンは全農産物からの推定摂取量(基準値×平均的摂取量の総和)がADIの50.8%。今回のレタスを平均的な摂取量9.6g/人/日食べた場合(超過分を計算するので、7ppmから5ppm(基準値)を差し引いた2ppm)、ADIの0.98%となる。通常の50.8%+0.98%=51.8%。ADIに対して51.8%と健康に影響を及ぼすおそれはない。

 にらのクレソキシムメチルも同様で、保健所等の説明ならこうだろう。
このにらを毎日282g(19.8㎎÷0.07㎎/g)一生涯食べ続けてもADIを超えることはないので健康に影響はありません。

 今回の農水省の説明は、次のようなものだ。
ADIから計算した最大許容量は19.8㎎/人/日。全農産物からの推定摂取量はADIの10.8%、今回のにらを平均摂取量2g/人/日食べると超過摂取量はADIの0.4%で、合計ADIの11.2%となり、と健康に影響を及ぼすおそれはない。

 農水省の説明は科学的で正しいと思うが、にらを2g!食べるという、にら1本にもならない量を言われてもピンとこない感じがする。まだ、保健所の違反事例説明の282gの方が分かり易いが、本来は両方とも実情を説明はしていない。

 それは、こんなイレギュラーなレタス(プロシミドンの検出される平均値は1.52ppm)やにら(クレソキシムメチルの平均値3.39ppm)はめぐりあうのがまれである。こういった一過性の摂取については、今後進められていく急性毒性評価指標のARfD(急性参照用量、まだ国内では設定が少ないが今後設定されていく予定)が適している。

プロシミドンの場合は、ARfDは0.1㎎/㎏がJMPR(2007年、FAO/WHO合同残留農薬専門家会議)で提案されている。一過性であるから、プロシミドンが7ppm残留したレタスを体重20㎏の子供が285g(大人なら800g弱)食べてもたぶん大丈夫でしょうということになり、毎日レタス9.6gを食べるより説得力があるだろう。 

では、クレソキシムメチルの場合はどうだろう。クレソキシムメチルはJMPRで1998年ARfD設定の必要なしnot necessary とされた。必要ないとはどういうこと? ではどうするの?
それは、JMPR でも安全側に立って、一過性の摂取による動物試験における無毒性量500㎎/㎏(カットオフ値)より大きいものは、ヒトの健康への悪影響の懸念がない又は極めて低いと考えられ、ARfDの設定は必要なしとなっているからだ。

 それではこのクレソキシムメチルはどうするのか? 無毒性量500㎎/㎏に安全係数1/100をかけた5㎎/㎏を仮にARfDのようなものとして使うと、体重20㎏の子供が1.4㎏(5㎎×20㎏÷0.07㎎/g)というありえない量のにらを食べたらその量に達する計算となり、当然健康影響への懸念もなく、あまり意味のない心配をしていたかなという判断ができる。(急性参照用量の考え方は、食品安全委員会の資料を参照)

 こういった評価判断が、まれに起こる基準超過事例の際になされるようになれば残留農薬のリスク判断も少しはまともなものになるのではないだろうか。全ての農薬の急性の毒性試験において無毒性量がカットオフ値500mg/㎏以上である場合、急性及び慢性暴露による毒性は弱い農薬であると考えられるので、こういった農薬の基準運用はイエローカード的に行い、限られた監視のエネルギーを毒性評価の厳しい有機リン系、カーバメート系、ネオニコチノイド系農薬などに振り向ける効率的リスク管理運用が今こそ求められている。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。