科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

国産農産物における残留農薬は、どの程度?

斎藤 勲

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 まだまだ食品中の残留農薬問題は「出た」「出ない」といったゼロリスクで語られることが多く、出ない場合だけが良くて、出た場合(残留濃度は分からないが)、その説明は神経毒性があるなどと不安材料の提供が大部分である。どのレベルで検出されているかを知らなければ、どの程度気にしたり、恐れればいいかは実際のところ分からないのではないだろうか。日常的な背景を知る方法は結構あるのだが。

 今年7月、農林水産省から平成24年度の「国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査結果について」のプレスリリースがされている。平成24年度は、生産農家4,618戸を対象として、農薬使用状況の調査と生産された1197検体の農産物の残留農薬検査が実施されている。とても参考になるデータである。
 農薬問題に関心があるマスコミならば、発表のつど本来大きく取り上げてもいい情報ではないかといつも思っている。4618戸の農家のうち18戸(0.39%)が、適用がない作物に使ったり、使用時期、使用回数の間違いなどが見つかっている。それなりの注意を払っていれば、こういった良好な結果が得られるということだろう。

 対象農産物は、米、麦類、大豆、えだまめ、さやいんげん、にんじん、はくさい、レタス、ブロッコリー、いちご、ピーマン、トマト、なす、ねぎ、ほうれんそう、にら、メロン、しゅんぎく、日本なし、西洋なし、もも。前年度までと比べると、りんご、ぶどうがなす、日本なし、西洋なしに変更となっている。検査対象農薬は136種類。多くの検査機関が、残留農薬一斉分析400農薬、600農薬と宣伝している時代に、こんなに少なくて大丈夫?という感じを受ける人もいるだろうが、実際の残留農薬検査では、一つの農産物から2,3種類の農薬検出といった事例が多く、残りの397、597農薬は検出せずという検査報告書が多くなる。正直なところ、10ページ近くの報告書から検出された農薬を探すが一苦労なのである。

 農水省の調査では、生産現場での使用状況を把握して行っているので、136農薬と少ないが、そのうち検出された農薬は70農薬と使用実態を踏まえた対象農薬となっていると感じる。但し、最近登録された農薬(よく効くので現場ではすぐ使われやすい)で対象となっていないものもあるので、そのあたりは早めに検査対象として対応していってほしい。

 調査方法も食品衛生法で定められている試料採取方法や通知分析法(一斉分析法、個別分析法)に従い、試験方法の妥当性評価などを行い、適正な検査結果が得られるよう行われている(言葉で書くと1行位だが、添加回収試験を含め日常業務ではなかなかの苦労で、やっているものしか実感できない部分である)。

 残留農薬検査結果は、農薬別と農産物別に表になっており、細かく時間をかけてみていくと当たり前のことだが、農産物ごとに使われる農薬の状況が見えてくる。使用農薬と農産物の関係は残留分析を行うものとして最も大切な情報である。こういった現状を勉強しておくと、日常報道される大変だ大変だ!を見ても、落ち着いて対応することができる。

 農薬が検出された検体数は897件(延べ検体数)で、6,111分析試料全体(延べ検体数)の14.7%となるが、それは多いのか少ないのかが分かりにくい。農産物別に検出頻度(検出数と割合)の高いものを見てみると、ネオニコチノイド系殺虫剤アセタミプリド(商品名モスピラン)が、イチゴでは14/31(検出件数/総件数)で検出率は45%、にら16/31 (52%)である。殺菌剤アゾキシストロビン(アミスター)は、にら12/23 (52%)、しゅんぎく15/32(47%)。殺虫剤エトフェンプロックス(トレボン)は、えだまめ12/21(57%)、殺菌剤キャプタン(オーソサイド)が、日本なし11/42(26%)。

 農薬まみれの国内農産物!といわれそうだが、収穫に近い時期に使用すればなにがしかの農薬は残留しているのが常であり、冒頭でも言ったように「出た」よりも「どの程度出た」のかが大切である。イチゴのアセタミプリドも、平均値(出来るなら中央値もあると評価しやすいが)は0.047ppmで残留基準3ppm(通常の使い方を基に設定された残留濃度で、その基準内であれば通常の摂取でも十分ADIの範疇に収まり、健康影響を考える必要がない数値)の1.6%、最高値で0.26ppm(8.7%)と、私から見れば適切に使用されているなあと推測できる。

 検査結果を見る場合、検査部位を知っておく必要がある。えだまめは皮ごと、なしも皮ごと検査対象となっている。農薬の性質にも因るが、外側から散布された農薬は表面付着していることが多く、実際食べるえだまめの中の豆や皮をむいて食べるなしには、調査結果の数値よりもかなり低い濃度しか含まれないか、検出せずの結果となるだろう。

 他の農薬でも、残留基準値と検出された数値の平均値を比べてみると、大部分は良く収まっており、この状態なら健康影響を気にすることなく普通に食していても良いのではと評価できる。問題はこれらの食材を、どうバランスよく食べていくかだろう。

次回は、検出された農薬の頻度や残留が多い農産物、残留基準値を超えたレタス、にらについて紹介します。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。