科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

内田 又左衛門

大学時代(京大、UC Berkeley)から農薬の安全性研究に携わる。現在は農薬工業会事務局長、緑の安全協会委嘱講師。日本農薬学会会員

農薬の今

プロダクト・スチュワードシップと農薬(下)

内田 又左衛門

キーワード:

<編集部注:筆者のプロフィールは、執筆当時のものです>

農薬における責任の連鎖

chemicals-lifecycle 右図のように、農薬のライフサイクルの各段階には、多くの組織や個人がかかわっています(図は再掲)。


 そして、わが国全体で、各段階の責任を大きく捉えますと、下図のように3つあると考えています。そして、食の安全まで確保しようとすれば、3者が一体となって責任を果たす必要があります(厳密には細かいものはいっぱいあります。)
3responsibilities

 第一は農薬の役割と安全性評価です。これは国や農薬会社の責任です。すなわち、厳しく審査して農薬を登録し、効果の高い、リスクが許容できる農薬を、製造そして販売し、農家の皆さんに提供することです。そして農薬使用者に製品ラベル等で責任を引き継ぐことになります。

 第二の農業者の責任は、農薬を適正に使用し、散布時の事故防止、環境や農作物の安全性の確保、最近では地域住民への配慮をする責任です。農作物の安全は、農薬の残留基準を遵守していることを意味します。

 また、第三として消費者にも責任があると考えています。農産物の安全を正しく理解して、日本の農業や農家が持続的に農産物を生産し提供できるように国内農産物の購入をすることであろうと考えています。安い輸入農産物ばかりを購入していたのでは、国内農業や国産農産物が立ち行かなくなり、いつ何時しかなくなってしまいます。将来の食料確保や自給率向上を目指すためには、非常に大事な責任であると思います。国内農業を生かすも殺すも、消費者の行動に掛かっていると思います。

 普段はあまり意識されてないかも知れませんが、農作物の安全性を理解することは、大変重要なことだと思います。国民として責任ある消費者行動により、農業者等の努力は報われ、さらなる頑張りへの動機づけとなるのです。勿論、農家や流通業者、食品会社等の怠慢や違反には厳しい対応が必要であることは言うまでもありません。
 我が国では3つの責任の連鎖がしっかり確保できていると考えます。したがって、私たちが口にする国産農産物は安全で、安心して食べられるのです(放射能に関しての最近の議論は別にして)。

 結論を申し上げれば、日本の消費者の皆さんが、自分も責任を果たす輪に加わって、初めて安全が確保され、安心できるのだと考えています。結果として、安全と安心の距離はなくなると思います。ポジティブなサイクルを確固たるものにして行くべきで、間違っても、ネガティブなサイクルにならないように、心がけていくべきだと思います。

 一方、輸入農産物では3つの責任の連鎖が不明で、確認できない部分が多すぎます。また、発展途上国では責任を果たす態度や倫理観も、なかなか状況が掴めない、あるいは理解できないことになっているのではないでしょうか。経済学で言う「情報非対称性」です。勿論、輸入業者や加工業者が、品質や残留農薬を分析したりして、安全確保をしている場面はあるので、決してすべてが該当するわけではありませんが、全般的には3つの責任の確保と透明性が問題になっているのだと思います。

農薬における安全・安心の条件

 ここで少し「我々が安心できる」条件を考えてみると、次の4点が重要なポイントになります。
4conditions わが国では上記4条件が良く満たされているので、食の安全が確保できていると感じ取れるのでしょう。やや不足しているのはクライシス・コミュニケーションでしょうか。有事の対応が不十分であるのは、食の安全だけでなく、地震・津波・原発事故そして放射能汚染でも同様です。もっと、わが国では有事の対応を前提にした社会や制度を構築すべきではないかと思います。

 5月11日付本欄「農薬のハザード(危険性)とリスク」で表にして指摘しましたが、わが国で中毒死がでるのは自然毒と大腸菌O-111等微生物だけです。農薬も含めて化学物質が原因では、食中毒死はまったく起こっていません。にも拘らず、消費者の皆さんは食品中の残留農薬を心配し、高価でも有機農産物を購入されるのは実に不思議なことです。日本では有機栽培は高々0.2%程度です。ごく一部の消費者に向けて栽培されているだけです。また、有機農産物がより安全だとは言えないことも判っています。

 更に最近、無農薬栽培では病原菌や害虫の加害が起こり、これに抵抗するように作物が特殊なタンパクを産生すること、このタンパクはアレルゲン(アレルギーを誘発する)であることも発見されています。感染したカビが毒素(アフラトキシン、麦赤カビ毒素DONやNIV等)を産生し、穀類がこれらを含んでいることもあります。

 一般の方々の食の安全の理解や知識が非常に断片的ではないかと心配しています。結果として、食の安全リスクでは何が重要で、何が無視できるのかが正しく理解されてない。適切なリスク管理ができないことになります。次回は、リスクについて重要なポイントを説明したいと思います。

農薬に関する相談窓口、Q&A

 社団法人「緑の安全推進協会」には農薬相談室があり、農薬使用者は勿論ですが、消費者の皆様方からのご相談やご質問にも答えています。また例えば50人以上の方が集まり勉強会や研修会を計画され講師が必要な時の「講師派遣要請」も受け付けています(電話03-5209-2512)。最近も、都道府県、大学・農業大学校等に講師を多数派遣しています。実は私自身も派遣講師の一員として各地に出向いています。また多くの農薬に関する質問Questionとその回答Answerが、農薬工業会ウェブサイトに「農薬Q&A」 として掲載されています。冊子としても販売されていますのでご利用下さい。

執筆者

内田 又左衛門

大学時代(京大、UC Berkeley)から農薬の安全性研究に携わる。現在は農薬工業会事務局長、緑の安全協会委嘱講師。日本農薬学会会員

農薬の今

消費者の皆さん方のお役に立つ農薬の情報を提供し、科学的に説明し、疑問や質問等にも答えたい。トップバッターは私ですが以降、農薬の専門家が順次コラムを担当する予定です