科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

内田 又左衛門

大学時代(京大、UC Berkeley)から農薬の安全性研究に携わる。現在は農薬工業会事務局長、緑の安全協会委嘱講師。日本農薬学会会員

農薬の今

プロダクト・スチュワードシップと農薬(上)

内田 又左衛門

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<編集部注:筆者のプロフィールは、執筆当時のものです>

誕生から墓場までの各段階で、安全に配慮

 農薬会社や農薬工業会は、プロダクト・スチュワードシップ活動に取り組み、また、日本化学工業協会に加入してレスポンシブル・ケア活動も実践しています。2つの活動は視点がお互いに少し異なるようですが、内容的には同じような活動です。すなわち、これらの活動では、化学物質(農薬も含む)の誕生から墓場までのすべての段階において、安全に配慮し、農薬製品が適正に取り扱われるようにしています。また、環境・安全・健康に関する様々のリスクを抽出し、重要なものから順次リスク評価・リスク管理を実施し、継続的に改善を図っています。

chemicals-lifecycle 農薬については左図のように、研究開発、登録、製品、販売・物流、使用、農産物そして食品というライフサイクル(一生)となります。ライフサイクルで考えると全体像がもれなく把握でき、総合的重点的に理解できます。

 現在の農薬は、各段階での安全確保は勿論、環境や健康に対しても問題ありません。しかし、更なる改善の余地や課題・指摘があれば優先順位を付けて毎年達成すべき目標を掲げて、継続的に改善してゆきます。取り組む目標と成果については公表することになっており、会社のウェブサイトに掲載したり、レポートを発行したりしています。

 この時、企業は法令遵守だけではなく、法律以上の水準で実施可能な改善を目標化し、達成を目指します。図は上段から、国と法律、主体あるいは責任者、そして具体的なモノの流れを表しています。農薬の場合の関係省庁、取り締まる法律、そして各段階の責任者である農薬会社、農家、消費者と、それぞれが係わる範囲を示しています。

ライフサイクルを通した安全管理が信頼、安心を産む

 各段階の「取り組むべき役割」は次のようなものです。
 まず、農薬会社では、発見した農薬候補化合物を様々な角度から研究開発し、薬効試験や安全性試験を実施し、成績と判断をまとめて登録申請します。国は厳格な審査を実施し、リスクが許容できると確認できて初めて、登録となります。登録を取得できれば、農薬会社は農薬製品を製造・輸入そして販売できます。農薬の製造、使用、環境での挙動や影響、農産物中の残留農薬等すべてのリスクを評価しています。

 農家は、ラベルに記載された農薬使用基準を遵守して農薬製品を使用します。その結果、収穫した農産物には使用農薬がわずかに残留することになりますので、国は農薬残留基準を設定しています。そして都道府県や厚生労働省が、収穫された農産物中の残留農薬を監視し、その結果を公表しています。
 消費者の皆さんは、その中で農産物や食品を購入し、消費しているのです。

 これらすべてが、現状の体制の下で厳重に管理・運用されていることが必要です。稀に、残留基準値超過や食品回収の発表や報道がありますが、健康への影響があるものではないと明言されています。

 リスク面から考えると、農薬製品と農産物中の残留農薬ではまったく意味が違います。希釈して使用する農薬製品を例にとると、散布には希釈した散布液を使用し、収穫物や食品では代謝分解を受けて僅かに残留した農薬しか存在しません。いちばん注意すべきなのは、希釈する前の高濃度の農薬製品です。これの取扱いには、製品安全データーシートMSDSがあり、注意事項や留意点が記載されています。物流時の緊急連絡用にイエローカードを作成し、活用しています。農産物中の残留農薬になるとリスクは無視でき(実質的ゼロリスク)、食べても大丈夫です。

 国民が安心を得るには、このような責任体制が良好な状態であり安全が確保できていることが前提です。更に、監視し問題ないことも国民に理解され信頼された後に初めて、安心が確保されるものと思います。

執筆者

内田 又左衛門

大学時代(京大、UC Berkeley)から農薬の安全性研究に携わる。現在は農薬工業会事務局長、緑の安全協会委嘱講師。日本農薬学会会員

農薬の今

消費者の皆さん方のお役に立つ農薬の情報を提供し、科学的に説明し、疑問や質問等にも答えたい。トップバッターは私ですが以降、農薬の専門家が順次コラムを担当する予定です