科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

野菜ジュースは野菜の代わりになるの?

児林 聡美

前回のコラムでは「1日に野菜を350 g以上食べましょう」という国の目標は、なかなか厳しいうえに根拠も乏しいため、少し柔軟に捉えたほうがよさそう、という内容をお伝えしました(「野菜を1日に350 gは適切な目標か?」参照)。
とはいえ、野菜は積極的に食べておきたい食品のひとつではあります。
1日に200 gくらいとか、野菜と果物を合わせて400 gくらいといった、ある程度の量を摂取することで、死亡率の低下が期待できそうです。

こういう話をしたときによくおたずねいただくのが、「それでは野菜はジュースで摂ってもよいですか」という質問です。
みなさん、どうにかして、手軽に健康になりたいと思われるのですね。
それでは実際のところはどうなのでしょうか。

●研究での野菜ジュースの扱い

まず、一般的には、野菜摂取量と死亡率などの健康状態を調べた研究では、野菜ジュースは野菜に含まれているのか、説明しますね。
答えは「研究によってそれぞれ」というのが正しくて、一概に「こう扱う」と決まっているわけではありません。

通常は論文の中の「方法」の説明のところで、その研究の中ではどのようなものを「野菜」としてカウントしたのか、詳しく説明されているものなんです。
野菜ジュースは野菜に含めるか、含めないか、もし含めるとした場合には、野菜汁100%のものだけなのか、それとも野菜汁100%未満の飲料でもある程度の野菜汁が入っていれば含めるのか、などが書いてあるものなんです。
科学では定義が大事ですからね。

そういうわけで、研究によって様々ではありますが、実際のところ、生の野菜を搾った野菜汁100%のジュースの場合は、野菜としてカウントすることが多い印象はあります。
日本で毎年実施されている国民健康・栄養調査と言われる食事調査でも、100%野菜汁で作られている飲料を「野菜ジュース」として、「野菜」のカテゴリの中に含めています(図1;文献1)。

図1. 厚生労働省が毎年実施している食事記録調査(国民健康・栄養調査)の野菜の分類(文献1):野菜という大分類の中には、野菜ジュースという中分類があります。具体的には、トマトジュースやにんじんジュース、果汁を含むが50%未満の野菜ミックスジュースなどが入るようです。

●日本人の野菜ジュース摂取量

とはいえ、ジュースだけで野菜の大部分を占める食べ方をしている人たちはあまりいません。
日本人の実際の野菜ジュース摂取量がどの程度か、調査結果を見てみると、成人の野菜摂取量の平均値が256 gであるのに対して、その中に占める野菜ジュースは12 gほどです(文献1)。
ずいぶん少ないですよね。

このように、一般的には、野菜の摂取量全体に占める野菜ジュースの割合はかなり少ないと考えられます。
こういう状況から、「野菜と健康の関連」を検討している研究論文を読んだだけでは、野菜をジュースで摂ってよいかどうかはわからない状況です。
大部分をジュースではない通常の「野菜」として食べたときの健康効果として解釈するほうが自然だろうと思います。

●野菜ジュースの効果は調べにくい

疫学研究では、日常生活を行っている人たちの普段の食事と健康状態を調べて、その関連を検討することが一般的です。
こういった、日常生活を観察して、その状況から調べたいことを明らかにする疫学研究の方法を「観察研究」と言います。
普通に生活している人たちの中で、野菜ジュースを大量に飲んでいる人たちが少ないと、野菜ジュースと健康の関連を調べる「観察研究」はできないわけですね。

一方で「観察研究」とは違って、「介入研究」といって、あえて日常では起こらないことを試してもらって、研究する疫学研究の方法もあります。
たとえば、野菜ジュースを野菜の代わりに摂ってもらって、それで健康状態が変わるかどうか、を検討する、といった方法です。

けれども、もし死亡率を調べたいなら、一生、野菜の代わりに野菜ジュースを摂ってもらう必要があり、これはおそらく不可能です。
もっと短時間で変化が測定できるような健康指標なら検討できる可能性もありますが、さて、そんな健康指標がその介入期間には少し変化したといっても、その結果を受けて、一生、野菜の代わりにジュースで摂ってもよいといえるでしょうか。
そのときに測定した健康指標の内容や、研究期間などをよく確認して、慎重に解釈する必要がありそうです。

●野菜ジュースの研究

そんな、検討しにくい「野菜ジュースの健康効果」ですが、果物と野菜をミックスした状態で、砂糖は添加されていない100%野菜・果実汁ジュースと、砂糖が入った果物や野菜を主原料にした飲料で、死亡率を比較した研究を見つけました(文献2)。
イギリスの研究なのですが、20万人ものたくさんの人を対象にして、死亡率を比較検討していました。

結論としては、砂糖の入った野菜・果実飲料は死亡率を上昇させていました。
一方で、野菜や果物の100%ジュースでは、比較的単純な解析によると、図2の黄緑色で示したグラフのように、たくさん飲んでいる人たちでは、死亡率の低下が見られました。

図2. 1日の野菜ジュース摂取頻度と死亡率の関係(文献2):まったく飲まない人たちの死亡率を1としたときの、各摂取頻度の人たちの死亡率の相対値。左(黄緑)は、性別、年齢、喫煙状況、身体活動度などの対象者の特性に加えて、野菜や果物の摂取量などの食事摂取量の違いによる影響を統計学的に取り除いた結果。 右(緑)は対象者の特性に加えて、食事の質のよさの影響を統計学的に取り除いた結果。

けれども、そのようなジュースを飲んでいた人たちは、ジュースだけを主に飲んでいたわけではなくて、他に食べている食事が健康に好ましい状態でした。
たとえば、生の野菜や果物の摂取が多いとか、脂質が少ないといった特徴があり、食事の質を評価するスコアが高くなっていました。
そういった食事の質の影響を統計学的に取り除いた結果は、図2の緑のグラフになります。
1日に2杯以上飲んでいる人で、やはり死亡率が下がっているように見えますが、エラーバーに注目してください。
エラーバーが1をまたいでおり、最初に確認した黄緑色の結果より結果が弱くなっている様子が伺えます。
このような食事の質まで考慮すると、死亡率の低下ははっきりしない、というふうに見るほうが正確そうです。

さらに、ここで「たくさん飲んでいる人たち」といっても、1日に2杯を超える程度であることがわかります。
すべての野菜を野菜ジュースに置き換えているわけではなさそうですね。
そして、この人たちの食事の質が高いことから、野菜ジュースを多めに飲んでいる人たちは、通常の形での野菜もたくさん食べているわけです。
それに、この1日に2杯を超える量を飲んでいる人たちの人数が、調査対象者全体が20万人いるうちの2000人ほどであるということにも注目しましょう。
人数の少なさが結果の不安定さにつながっているような気もします。

●野菜はやはり、飲むではなく食べたい

紹介したひとつの研究からではまだはっきりと言えませんが、野菜ジュースを飲んだとしても、そのことが直接的に健康によい影響を与えると考えることは、この研究からは言えませんでした。
野菜ジュースを多めに飲んでいる、という人特有の、様々な健康に良い影響を与える別の習慣が、健康に大きく寄与している可能性があります。

野菜や果物ジュースだけで十分に健康になれる、というエビデンスは今のところ十分にはなさそうです。
健康効果を期待して生の野菜や果物の代わりにジュースで摂るというだけでは、健康的によいと言える状況ではないのだなと感じます。

けれども、野菜ジュースも使いようで、たとえば砂糖で味付けしたほかの甘い飲み物の代わりとして活用されるのであれば、それは健康に良い影響を与えることになるかもしれません。
または、せめてジュースでも、という意識がきっかけになって、野菜を積極的に食べることができるようになるのであれば、まずはジュースから始めてみるのも悪くはないと思います。

最終的には野菜や果物はジュースとして「飲む」ものではなく、「食べる」ものとして、日々の食事に積極的に取り入れていきたい食材だなと思います。

参考文献:

  1. 厚生労働省. 令和5年 国民健康・栄養調査. 2025.
  2. Anderson JJ, et al. BMC Med 2020; 18: 97.

※食情報や栄養疫学に関してヘルスM&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、オンライン講座も開講しています。ぜひご覧ください。

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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