食情報、栄養疫学で読み解く!
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします
九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.
児林 聡美以前よりFOOCOMコラムでは何度か、日本人の食事の課題に「食塩の過剰摂取」があることを話題にしてきました。
食塩は長期間にわたって過剰に摂取すると、将来高血圧になりやすくなる可能性があるため、まだ低い若いときから薄味を続けることが必要です(FOOCOMコラム「若いときからの「節塩」で自分も社会も健康に」を参照)。
けれども、日本人の食塩摂取量は以前から過剰であり、その量は1970年代からあまり変わっておらず、近年でも1日に平均で12 gほどの食塩を摂取していることが研究で示されています(FOOCOMコラム「見えない食塩をどうはかる?:24時間蓄尿」参照)。
国の食事のガイドラインである食事摂取基準(文献1)の最新の食塩の基準値が、男性で7.5 g/日未満、女性で6.5 g/日未満であることを考えると、この現状の摂取量はかなり多い量です。
いったいどんな食品から、食塩を摂取しているのでしょうか?
今回は、食塩の摂取源となる食品に関して、エビデンスに基づいた話と、自分の生活者としての目線からの話で、今の社会で安心して外食・中食を使い難い、という印象を持っていることを、私見も織り交ぜて述べてみたいと思います。
私たちはいったいどんな食品から食塩を摂取しているのでしょうか。
研究結果によると、図1のように、しょうゆ、食塩、みそ、その他調味料からの摂取が多く、こういった調味料からの食塩摂取が、食塩摂取量全体の半分を超える量になるようです(文献2)。
それから、スープや汁物、そしてめん類、漬物、パン、などと続いていくようです。

図1で、めんやパンからの加工食品からの食塩摂取も比較的多めなことがわかります。
これらの加工食品の場合、材料の小麦粉にはほとんど食塩は入っていないため、この食塩は加工の過程で人の手により添加された食塩ですね。
しかもそういった場合の食塩は、食品の中に練りこまれることが多いです。
ところで塩味を感じる仕組みを考えてみると、舌の表面の「味蕾」という器官に食塩が付着したときに塩味を感じるそうです(文献3)。
食品の表面に塩をふっておくと、食品を口に入れたときに食塩が舌に付くため、塩味を感じやすいです。
ポテトチップスやフライドポテトなどをイメージするとわかりやすいでしょうか。
一方で、食品の内部に塩が練りこまれているとき、その食塩は舌に付着しない限り、味として認識されません。
けれども体の中に入れば、どちらも同じように血圧をあげます。
こういった見えない「隠れた塩」のことは、英語では「hidden salt(隠された塩)」と呼ぶそうです。
私の恩師である、佐々木敏先生の著書では「損な塩」とも表現されています(文献3)。
ところで、先ほどの図1の研究ですが、たとえば「おにぎり」を食べたという食事記録があった場合、それが家で作ったのか、コンビニで買ってきたのか、わからなければ、家で作ったと仮定して栄養素の含量を計算しています。
お惣菜などは、買ったものと分かったとしても、対象者の方がパッケージなどを提出してくれなければ、どのくらいの量の調味料を使って味付けしたのかが不明で、やはり、家で作る一般的な味付けであると仮定して、栄養素の含量を計算しています。
けれども、外食や加工食品を使った食品って、家庭で調理したときよりも味が濃いと感じることが多いですよね。
研究ではこのようにデータ処理していくため、研究で調べた結果は、実際の状況とはずれが生じている可能性があるだろうと感じています。
現代の日本人の生活を考えると、多くの加工食品を活用しているでしょうし、実際の食塩摂取量は、加工食品からの「隠れた塩」の摂取がもう少し多いかもしれないと想像しているところです。
そういう想像をする理由としては、自分が外食や加工食品を使った食事をしたときに食品中の食塩含量を確認すると、ものすごく多いと感じるためです。
このあたりのことは、加工食品に含まれる栄養素量のデータベースが日本には十分に存在しないため、研究が進んでいない分野です。
そのため、エビデンスに基づいて話をするのはとても難しいと感じます。
そんな中で、この食品の摂取は気を付けたいな、と思うものがいくつかあります。
完全に私見になってしまうのですが、みなさんに「そういえば」と感じていただきたいことと、今後類似の食品を食べようとするときにどのくらいの食塩がその食品に含まれているかを気にしてほしいなと思い、私自身が気になってしまう「隠れた塩の多い加工食品」を例えばとして3つほど挙げてみたいと思います。
●おにぎり
7歳と5歳の子どもがいる我が家では、休日のお昼に、スーパーやコンビニでおにぎり(おむすび)を買って、外出先の公園などで食べることがよくあります。
弁当を作って行けばよいのでしょうが、作るのは大変ですし、行き先がどこになるのか出かけるときには決まっていない場合も多いので、あらかじめ作ってから出かけるのが難しいのです。
そんなときに、昼食時刻になって、その近くにあるお店で購入できるおにぎりは、我が家にとってありがたいお助けアイテムです。
子どもたちもお店で購入するおにぎりが大好きなのですが、とにかく気になるのが塩!
1個食べただけで、1 gを軽く超えるものが多いのです。
大手のコンビニのおにぎりのサイトも見てみました。(2025年12月5日アクセス)
セブンイレブン
https://www.sej.co.jp/products/a/onigiri/
ローソン
https://www.lawson.co.jp/recommend/original/rice/
ファミリーマート
https://www.family.co.jp/goods/safety/goods010.html
実際にお店に並んでいるものも確認してみました。
最近は、大きさが大きめタイプのもの、そして具にフライみたいなものを使っていたり、混ぜご飯で作られていたりするものもあります。
そういうものだと、1個で2 gを超えていました!
食事摂取基準の目標量を目指すため、我が家では、日々の食事での食塩摂取量を、大人は1食2 g以内、子どもは1食1.5 g以内にしたいなと思っています。
けれども、子どもの場合は、お店のおにぎり1個食べたら、それでもうおしまいにしないといけない量の食塩が、おにぎり1個に入っているわけです。
(もちろん、それで昼食がおわりになるはずもなく、おにぎりを2~3個、その他に、から揚げや魚のフライなども食べてしまいます…。)
ちなみに、家で自分自身がおにぎり(塩むずび)を作るとき、塩の量はひとつまみほどです。
計量スプーンを使って色々駆使して測定、計算してみたら0.05 gほどになる量でした。
購入したものに比べたら20分の1です。
家庭では表面に塩を付けるので、それで十分味がしますよね。
または、塩をまったく使わないでのりをまいたおにぎりでも、子どもたちは「おいしい!」と言って食べています。
ごはん部分の塩は、なくても本来なら十分なのではないか、とも感じます。
一方で、加工食品のおにぎりは、めしに先に塩を練りこんでそして成形するそうです(大学の農学部で食品科学工学を学んだので、機械で食品を作るときに、表面に均等に微量のものをまぶすというのが難しいのはよくわかります…)。
まさに隠れた塩。
おにぎりは主食としてそこそこの量を食べるものですし、もう少しなんとかならないかなと思います。
●めん類
めんは種類が色々ありますが、多くのめんで、製造の過程で食塩が添加されます。
そのため、うどんやラーメンなどのめん類自体に塩が多く含まれています(文献4)。
食べる直前にゆでたときにゆで汁に塩は溶けますが、それでもかなりの塩が残っています。
それをさらに、塩味のついたスープの中に入れて食べる場合には、スープからの食塩の摂取にも注意が必要ですね。
インスタントめんやその他めん類に含まれる食塩量も、たとえばということで、大手コンビニのサイトでいくつか調べてみました。
1個で5 gほどの食塩が含まれる食品は広く出回っている印象です。(2025年12月5日アクセス)
セブンイレブン
https://www.sej.co.jp/products/a/7premium/process/
ローソン
https://www.lawson.co.jp/recommend/original/select/cupnoodle/index.html
ファミリーマート
https://www.family.co.jp/goods/safety/goods060.html
スープは全部飲まない、カップめんでスープが粉末で別になっている場合には、入れる量は半分ほどにする、お湯を入れたら一度茹でこぼしてみる、などの工夫が必要な気がします。
●かまぼこやソーセージなどの練り製品
子どもたちはソーセージも大好き。
けれども100 gあたりに1.9~2.0 gの塩が入っている(文献4)ことを考えると、太いフランクフルト、長いソーセージパンなどを買い与えるのは躊躇してしまいます。
ちくわやかまぼこといった魚の練り製品にも、やはり100 gあたりに2 gほどの塩が入っており(文献4)、ちくわ2本食べれば50 gほどのため、食塩摂取量は1 g。
食べすぎに気を付けたいところです。
我が家ではたとえば、これら練り製品はそのままは食べず、刻んでスープの具材として使い、そうすることで内部に練りこんだ塩をスープに溶かして、スープ自体への塩の添加量を少なくする、などの工夫をしています。
今回のコラムをお読みいただいたことで、実はこんなところに、こんなに食塩が含まれている、ということに気づいた、ということもあるかもしれません。
現在出回っている食塩の量を、いきなり減らすことは難しいのでしょうが、消費者が知ることで声を上げることはできます。
そして、それを知らせるための表示制度も改正の手続き中で、消費者庁では「日本版包装前面栄養表示」の改正に関する検討会が開催されています(文献5)。
こういった制度により、加工食品にわかりやすく気づきやすい表示がなされるようになり、消費者の気づきを促すことで、その次のステップとして「もっと食塩含量の少ない食品」を消費者が求めるようになればいいなと思います。
一消費者として、特に子どもと一緒に外食・中食をするたびに、この食塩の多さにかなり不安を感じるところを、少しでも解消できたらと感じます。
参考文献:
※食情報や栄養疫学に関してヘルスM&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、オンライン講座も開講しています。ぜひご覧ください。
九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.
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