食情報、栄養疫学で読み解く！

食事摂取基準で扱うべき疾患は？：食事摂取基準2025のポイント7

児林 聡美

エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、食情報のエビデンスとして活用できるのが「日本人の食事摂取基準（以下、食事摂取基準）」です。

食事摂取基準そのものに関しては、「食事摂取基準2020年版」を題材にした34回の連載「これでわかった！食事摂取基準」シリーズで解説してきました。
（初回は「基準値なのに大切なのはそれ以外？：これでわかった！食事摂取基準１」）

食事摂取基準は5年ごとに改定されており、2025年4月からは最新版の「食事摂取基準2025年版」（文献1）の活用が始まっています。
この最新版の食事摂取基準の重要ポイントを「食事摂取基準2025のポイント」シリーズでお伝えしているところです。

前回の「食事摂取基準2025のポイント6」までの3回で、各論の第1節で扱われている、各栄養素の変更点や重要ポイントを紹介しました（「フレイル予防・糖や食物繊維の測定値、最新の知見をどう盛り込んだ？：食事摂取基準2025のポイント4」からご確認ください）。

各論は栄養素を扱った1節に続き、2節の対象特性に関する内容と3節の生活習慣病等の疾患に関する内容が続きます。
2020年版でこれら2節と3節にすでに記載されていた内容には、2025年版になっても大きな変更点はありません。

2節の対象特性に関しては「すべての日本人のために改めて情報を整理する対象特性の章：これでわかった！食事摂取基準28」、3節の疾患に関する内容は「臨床栄養に踏み込んだ重症化予防の章：これでわかった！食事摂取基準29」から始まる5回の連載記事をそれぞれご参照ください。

一方で、2025年版の3節には、2020年版までにはなかった、追加された内容があります。
その追加部分を確認していきましょう。

（FOOCOMコラム内では、2020年版の解説では「1章、2章、3章」と「章」を使用していました。食事摂取基準の目次や本文中には「章」の文言はなく、解説のしやすさから便宜的につけていたものです。一方、2025年版では各論3の冒頭に「本節では」との語があることから、「1節、2節、3節」と「節」を使用して解説するほうが分かりやすいと判断しました。本コラム中でもそのようにいたします。）

●３節で扱う疾患を増やせ！

「最新版の食事の摂り方ガイドラインが公開！：食事摂取基準2025のポイント」で紹介したように、最新版の食事摂取基準は、国の健康政策の大きな取組みである「健康日本21（第三次）」の実行を受けて、この取り組みと連携して健康づくりを進めよう、という観点で策定されています。

そこで、これまで行ってきた、主要な生活習慣病の発症予防・重症化予防だけでなく、生活機能の維持・向上等の観点も踏まえた取組を推進する、ということになりました。

その結果、この疾患を扱う3節を、これまでより充実させようとする動きが出てきたわけです。

●どんな疾患を扱うのか？定義が大事！

とはいえ、十分な栄養素と疾患の関連のエビデンスのないような疾患に関しては記述できません。
それに、策定までに使える時間は限られていますし、扱う疾患を闇雲に増やすわけにもいきません。

すでに2020年版までに扱ってきた、高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病（CKD）の4つの生活習慣病は扱い続けるのか、他の疾患も扱っていくべきか、扱うならどのような疾患を扱うべきか、の定義を明確にして、その取り決めに従って策定方針を立てる必要が生じました。

実は、2020年版までは、3節で扱う疾患はどのような疾患なのか、明確な説明がなかったんです。
今後、食事摂取基準ではどの疾患を扱うのか、を共通認識にして策定作業を進めるためにも、この定義が大事になっていました。

●扱う疾患の定義

このような背景から、2025年版では、3節の冒頭に、3節で扱う疾患はどのようなものなのか、の定義が明確に示されるようになりました。

図1にあるように、以下のような2つの条件に当てはまる場合に3節で扱うとされています。

1. その疾患の発症や重症化とエネルギー・栄養素の関連を表す図がエビデンスに基づいて描ける疾患。
2. 複数の栄養素が、通常の食品から摂取できる量で、その疾患の発症や重症化に関係しており、栄養指導などで改善が見込める場合。

ここで言っている「疾患とエネルギー・栄養素の関連を表す図」というのは、疾患の項で、栄養素の指標の値に代わるものと考えることもできる、重要な図として位置づけられています。

このことは以前のコラム「臨床栄養に踏み込んだ重症化予防の章：これでわかった！食事摂取基準29」で解説しています。

この図が描けること、そして複数の栄養素が関与することが、3節に含まれる条件となったわけです。

●フレイルは含まれず

定められた条件を満たす疾患はあるか、いくつかの疾患が検討されました。
そのひとつが、以前から食事摂取基準で注目度が高まっていてるフレイルです。

食事摂取基準の中では、老化に伴う身体機能の低下により、要介護状態、入院、死亡などの健康障害に陥りやすい状態のことをフレイルとしています。
要介護状態に至る前段階としても扱われています。

フレイル予防のための栄養素の指標を定めていきたい、という動きは以前からありました。
けれども、まだエビデンスが不足しています。
そして、関連が言われている栄養素として、ある程度のエビデンスが蓄積している栄養素というのは、たんぱく質ひとつのみです。

これでは今回扱う疾患の条件として挙げられた②の「複数の栄養素が関わる」という条件を満たしません。

その結果、フレイルは3節に含まれないこととなりました。

●新たに骨粗鬆症を追加

一方で、骨折の原因となり、介護予防の観点から防ぎたい骨粗鬆症は、ある程度のエビデンスに基づいて、複数の栄養素との関連が言える疾患です。
まだ十分なエビデンスとは言い難い部分もありますが、それでも複数の栄養素との関連図が書けるということで、今回初めて扱われることになりました。

このような経緯で、3節で扱う疾患が明確となり、内容が充実することになりました。

次回は新しく扱われることになった骨粗鬆症が食事摂取基準でどのように扱われているか、確認していきたいと思います。

FOOCOMコラムでの食事摂取基準2025年版のポイント解説は「最新版の食事の摂り方ガイドラインが公開！：食事摂取基準2025のポイント」より順にご確認ください。

参考文献：

1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2025年版. 2024.

※食情報や栄養疫学に関してヘルスM&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、オンライン講座も開講しています。ぜひご覧ください。