科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はHERS M&S代表としてフリーランスで栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

大切なのは基準値以外(まとめ):これでわかった!食事摂取基準10

児林 聡美

エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、信頼できる食情報のエビデンスとして活用できる「日本人の食事摂取基準(食事摂取基準;文献1)」を連載でご紹介しています。

食事摂取基準がどのようなものかという説明に続き、食事摂取基準をどう使うかという活用法の具体的な説明に入っています。

食事摂取基準の本文では、「個人に対して」と「集団に対して」の2つの場面を想定して、食事アセスメントを行って食事摂取基準を活用する方法が説明されています。

このうち、個人に対して活用する場合の方法を、前回のコラムでご紹介しました(あなたの食習慣と指標を比べよう:これでわかった!食事摂取基準9)。

今回は、集団に対して活用する場合の方法を説明していきたいと思います。

●集団を相手にするとは?

「集団に対して」というのは、たとえば自治体にお勤めの栄養士さんが、担当地域の住民の方の健康改善を目的にして、その地域全体の食事と健康の問題に取り組み、食事改善の計画を立てるような場面のことを想定しています。

個人に対して食事摂取基準を活用するときと大きく違うのは、たくさんの対象者の摂取量や健康状態を一度に評価し、その地域全体の健康改善のためになるひとつの食事改善計画を立てることになる点です。

それを実施するために、調査で得られた個人の摂取量や健康状態を一人ずつ確認していては、計画の方針が定まりません。

そこで、摂取量や健康状態の「分布」を確認し、食事摂取基準を順守できている人の「割合」を増やすことを目的にする、という手順で進めることになります。

集団を相手にする場合は、この「分布」と「割合」がキーワードです。

食事摂取基準の本文中では、個人に対する場合と対比させられるように、集団に対して食事摂取基準を活用して食事改善の計画を立て、それを実施する方法を、図で説明しています(図1)。

図1. 食事改善(集団)を目的とした食事摂取基準の活用による食事改善の計画と実施(文献1 総論図20):個人に対する活用法との違いは、集団の摂取量の「分布」を確認し、その中で食事摂取基準を順守できている人の「割合」をいかに高めるか、に注目していることです。

●集団に対する具体的な活用法

食事摂取基準を活用して食事改善計画を立てる方法を、具体的に見ていきます。

指標の意味や使い方の基本は、個人に対しても集団に対しても同じです。

そのため、集団に対する活用法の説明は、個人に対するものと重複しているように感じることもあると思います。

けれども、キーワードとなる「分布」や「割合」という語に注目しながら、図1の内容を確認してみてください。

エネルギー摂取の過不足に関しては、前回説明したとおり、目標とするBMIの範囲が示されています。

この範囲に入っていない体格の人の割合を算出し、全体的に改善が必要かどうかを判断します。

目標とする範囲に入っていない人が多ければ、範囲内に留まる人の割合を増やすための計画を立てます。

次に栄養素の摂取不足を回避するための評価法ですが、これは個人に対する場合と方法が少し異なります。

個人の場合は推奨量と食事アセスメントで得られたその対象者の摂取量を比較していましたが、集団の場合は、推奨量を使わず、推定平均必要量と食事アセスメントで得られた摂取量の分布を比較し、推定平均必要量を下回る摂取量の人の割合を算出するのです。

このことは難しい説明になるため、コラム内では詳細を説明しませんが、「推定平均必要量よりも摂取量が少ない人の割合」を計算すると、その割合が「個人の真の必要量よりも不足している人の割合」と理論的には同じになることが説明できるためです(正しく理解したい人は食事摂取基準本文中のP.42~43のカットポイント法の説明をご確認ください)。

推定平均必要量よりも摂取量が少ない人の割合が多ければ、その割合が少なくなるような計画を立てます。

一方、推定平均必要量が設定されておらず目安量の設定されている栄養素では、集団の摂取量の中央値が目安量付近かそれ以上であるかを確認します。

目安量付近かそれ以上の摂取量であれば、その量を維持できるような計画を立てます。

目安量を大きく下回っているような場合は、実際にその集団で不足しているようなのか、集団の健康状態を観察し、必要であれば摂取量を増やすための計画を立てます。

過剰摂取を回避するためには、摂取量の分布と耐容上限量を活用し、過剰摂取の可能性がある人の割合を算出します。

目標は集団全体で耐容上限量を超えている人がいないようにすることです。

もしそのような人がいる場合には、速やかに改善計画を立て、実行します。

生活習慣病の発症予防のためには、摂取量の分布と目標量を活用し、目標量の範囲に入っていない人の割合を算出します。

入っていない人が多ければ、範囲に入る、または目標量に近づく人の割合を増やすような計画を立てます。

ただし、前回説明したように、食事以外の他の生活習慣の影響の大きさも考えながら、長期間達成し続けられる食事改善の計画を立てる必要があります。

●正しく使えるようになったかな?

ここまでの10回のコラムで、食事摂取基準とは何か、そしてどう活用するのか、ということを紹介してきました。

これらは、食事摂取基準の指標の値を活用する前に知っておくべき、指標以外の大切な前提知識となります。

この内容は、食事摂取基準の本文中の、「総論」という章の中に書かれていることです。

食事摂取基準という、基準となる数値を示したガイドラインであり、指標の値に注目されがちです。

けれども、食事摂取基準を正しく活用するにはこれら前提知識の理解が不可欠で、「活用の際には指標の値が示されている各論(各栄養素の章)よりも総論の理解が欠かせない」と策定委員の先生が口を酸っぱくしておっしゃっている意味が、理解できてきたのではないかと思います。

この連載の始まりも「基準値なのに大切なのはそれ以外?」のタイトルで始まりました。

基準値以外の大切な部分がみなさんに伝わっていれば幸いです。

ところで、「これでわかった!食事摂取基準」連載の冒頭を、ここで振り返ってみましょう(基準値なのに大切なのはそれ以外?:これでわかった!食事摂取基準1)。

食事摂取基準の使われている場面が2つ、例として挙げられています。

これまでのコラムの内容が十分理解できている場合には、初めて読んだときとは違った印象を持ったり、使い方に関して気になったりする部分があるかもしれません。

ある高齢者施設の食事の献立表に書かれた「当施設の1食分の献立に使われている食塩量は1日の目標量の1/3以下である2 g以内となるように設定されています」の注釈。

まず、すでにこの初回で述べたように、食事摂取基準の指標の値を、1食分や1日分に当てはめて厳しく守ろうとする使い方は正しくありません。

食事摂取基準は、おおよそ1か月くらいの習慣的な食べ方の基準を、分かりやすく1日単位で表しているものです。

1か月の食事を平均した1日分が基準を守れていれば、1食や1日単位では基準に当てはまっていなくても問題はないわけです。

もちろん、1食または1日の食事で食事摂取基準を順守できるような食べ方になるべく近づけておこうと意識し、それを日々続けることができていれば、習慣的な食事も食事摂取基準に沿った食事に近づきやすくなります。

1食や1日で食事摂取基準を毎回順守しようとする方法は必須ではなくて、習慣的な食事を適正な状態にするための目安であり、ひとつの食事改善のやり方であると、少し緩めに考えるとよさそうです。

そして、目標量の使い方ですが、これは達成しても安心というわけではなく、真の目標値に到達するための中間的目標値といった意味合いを持っていました(「栄養素○○が健康にいい」はありえない:これでわかった!食事摂取基準4)。

指標の値をぎりぎり達成していても、それでよしではなく、より摂取を減らす(栄養素によっては増やす)方法を追求することが望まれています。

一方で、この例では高齢者施設の献立の食塩含量に関して記載してある想定ですが、このあと読み進める栄養素のナトリウム(食塩)の項では、高齢者では食欲低下があり、極端なナトリウム制限(減塩)はエネルギーや多くの栄養素の低下を招くことが記述されています。

このように、食事摂取基準は対象者の年齢、体格、健康状態といった個別の状況に合わせて、柔軟に運用される必要があります。

どんな人にもひとつの数値をあてはめるという姿勢で使うことは避けなければならないのです。

または食事指導の際に言われた「LDLコレステロールが心配なので飽和脂肪酸を1日の基準量以内に収めるような食事を続けましょう」のアドバイス。

これも上述したように、1日で基準を守るという方法は必須ではなく、本来目標とするのは、1か月くらいの習慣的な摂取量の1日分の平均値を指標の範囲に収めることです。

食事指導の場面では対象者の方に、毎日基準の範囲に収め続けなければならないという厳しい目標ではなく、1か月くらいの単位で柔軟に考えればよいとお知らせしておく必要があると思います。

また、飽和脂肪酸の基準量と記述されていますから、この場面も基準というのは目標量のことですね。

目標量の上限を守れていれば安心、ではなくて、それが達成できたところでさらにもう少し減らすことはできないか、と考え続ける必要があります。

そして、このように個人を相手に食事改善の計画を立てるときには、食事アセスメントを行い、対象者の方の現在の食事摂取量を把握したうえで、あとどの部分をどう改善すればよいか、具体的に示す必要がありました。

たとえば対象者の方がどの食品から多く飽和脂肪酸を摂取しているかを調査し、その食品の摂取量や摂取頻度を減らすように伝えるといった、具体的な改善計画を示すことが必要です。

さらにこの場合は目標量達成の改善計画を立てるわけですから、長期間にわたり実行可能な目標、すぐに改善するのが難しそうであれば徐々に達成に近づけられるような目標を考える必要があります。

指標の値のみを伝えて改善を求めるのでは不十分で、その対象者さんの食習慣や生活習慣全体を把握して、達成可能な計画を立てることを、食事摂取基準では求めているのです。

●いざ、各論へ

ここまでの10回のコラムで、食事摂取基準は何か、そしてどう使うのかという全体が見えてきたかと思います。

これが、主に「総論」に書かれている、基準値以外の大切な部分でした。

次に食事摂取基準の本文では、各栄養素の指標の値が具体的に示された「各論」へ進みます。

この後もどうぞお楽しみに!

参考文献:

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html


※食情報や栄養疫学に関してHERS M&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、通信講座も開講しています。ぜひご覧ください。

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はHERS M&S代表としてフリーランスで栄養疫学研究の支援を行う.

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