野良猫通信
国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。
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東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。
先に、アメリカでは2025年2月13日の大統領令で「アメリカを再び偉大にするMAKE AMERICA GREAT AGAIN」(MAHA)が政府の方針として発表され、MAHA委員会が作られたこと、
MAHA (MAKE AMERICA HEALTHY AGAIN)とは何か – FOOCOM.NET
その最初の報告書が大統領令にあった「100日以内」の期限より2日早い98日後の5月22日に発表されたことをお伝えしました。
陰謀論のカタログとしてのMAHA報告書 – FOOCOM.NET
大統領令によれば180日後の8月12日に、具体的な解決戦略を示した2番目のMAHA報告書(MAHA戦略報告書)が発表されるはずでした。
ところが8月下旬になっても発表されてはいません。
関係者からは、遅れてはいるが8月中には発表するといったアナウンスがあったようですが、メディアを見る限り、単純に遅くなるだけとは思えないので現時点での情報をお伝えしておきます。
MAHA戦略報告書の発表予定一週間前の8月5日に、米国砂糖同盟の国際甘味料シンポジウムでEPAの化学物質安全性と汚染保護オフィス室長代理のNancy Beck氏が、質問への回答として、これから発表される予定の戦略報告書では、グリホサートが安全であるというこれまでの規制枠組みを尊重して使用は継続されるだろうと述べたと報道されました。
EPA official: MAHA report will ‘respect regulatory frameworks’ | TheFencePost.com
5月のMAHA報告書で農薬が子供たちの病気の原因であると記載されていたため、農業部門では特に名指しされたグリホサートなどは使用禁止あるいは最低限でも制限が提案されると予想されていました。
この情報に対して以前からRFK.Jr氏と一緒になってグリホサート禁止を訴えてきたMAHAの支持者たちは驚き、MAHA委員会に対して、MAHA戦略報告書にグリホサート禁止を盛り込むようにオープンレターを送っています。
PIRG calls on MAHA Commission to pause glyphosate use August 6, 2025
グリホサートが病気の原因だと言っておきながらそれに対して何もしないのはおかしい、とそこだけを見ればまっとうな主張です。
しかし先の記事でも紹介したように、もともとMAGAとMAHAは相容れない部分がありました。それが今さら内紛の形で噴出しても意外でもなんでもなく、むしろ今までこのどう見ても明らかな矛盾の解決方法について何も考えていなかったのかと驚きます。
そしてあちこちのニュースサイトからMAHA戦略報告書のリークされた案とされるものが報道されています。
無料で読めるもののリンクとしては例えば以下があります。
MAKE OUR CHILDREN HEALTHY AGAIN STRATEGY
politico.com/f/?id=00000198-adc3-d0bd-a1db-bfdb703d0000
リークと報道されていますが、どちらかというと夏休みの宿題の提出を促された学生が、やっていないわけではないと言い訳するため、タイトルと目次だけ書いたものを意図的に見せたもののよう、という印象です。
「戦略」報告書の体をなしていない、ただの項目の羅列だったからです。AIを使った最初のMAHA報告書の段階で関係者にあまり能力がないことはわかっていましたが、これはさらに予想をはるかに超えて出来が悪い。
8月11日の段階でこのレベルなら、期日通りに発表するどころか完成するのかどうかすら危ぶまれます。そのため私もこの段階で一度記事にしておくことにしました。
仮にこの案がそのままの内容で発表されれば、具体的に何らかの政策が行われる可能性はほぼないと思います。そのくらい中身が空っぽなのです。
項目は多数あるのですが、そのほとんどが「これから研究する」「研究費を出す」「対策委員会を作る」「~について前向きに検討する」レベルで、それは既に実施されてきたこととそれほど大きく変わりません。むしろこれまでやってきたそのような研究を廃止したのが現政権です。
そして特に農業分野で顕著なのは、MAHAママたちが望む「厳しい規制」とは真逆の「規制緩和」です。もともとトランプ政権のMAGAは基本的には規制をなくす方向だったので、これはMAHAがMAGAには対抗できないことを象徴するものかもしれません。例えば食品安全のための各種制度を緩和し、公的監視なしに食品を販売できるようにする、有機認証のための煩わしい手続きを減らす、などが提案されています。能力的に、今あるものを壊すことしかできないらしいので、安全性が高まる可能性はないです。
なお、この案にあるHHSの組織再編によるAdministration for a Healthy America (AHA)(MAHA庁)を作るという提案は既に議会で却下されているようです。
Senators’ HHS budget leaves out RFK Jr.’s chronic disease agency | STAT July 31, 2025
こうした状況下で8月18日にFDAは自主的に合成色素を食品から排除するとしている企業と商品のリストを発表しました。
Tracking Food Industry Pledges to Remove Petroleum Based Food Dyes | FDA
FDAのHPのトップに「アメリカを再び健康にする国の努力」として大々的に掲げて。
U.S. Food and Drug Administration
これがMAHAの誇る成果であると言いたいのでしょう。
お菓子の色素を合成から天然に自主的に変更させたところで、国民が健康になる可能性はほとんどないです。MAHAが国民の健康のためには何一つ良いことはできないことを象徴するかのようです。
こうした動向から再確認されるのは、RFK Jr氏らMAHA運動のリーダーは、農薬や添加物などの恐怖を宣伝するものの、それはお金儲けのための方便であって本当は全く信じていないし心配してもいない、ということです。実際RFK Jr氏は食品の着色用のわずかな量の合成色素を批判しながら合成色素であるメチレンブルーを健康に良いとして飲んでいます。
Methylene blue: The anti-aging liquid RFK Jr. seems to drink。
彼らの主張を真に受けて毎日の食事の心配をするのは時間の無駄です。
東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。
国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。