科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

誇大広告と誤解の間―健康食品やサプリメントに関する提言や報告

畝山 智香子

2025年7月17日に日本弁護士連合会からサプリメント食品に関する法規制の早急な整備を求める意見書が提出されました。
日本弁護士連合会:サプリメント食品に関する法規制の早急な整備を求める意見書
趣旨は以下のようなものです(HPから)。

  • 1.サプリメント食品の製造、販売、品質管理及び広告を規制する法律を制定すべきである。
  • 2. 同法律中に、以下の規定を設けるべきである。
  • (1) サプリメント食品の製造を業として行う場合及びサプリメント食品の原材料(未加工の農畜水産物を除く。以下同じ。)の製造を業として行う場合は、営業許可を要するものとすること。
  • (2)サプリメント食品及び同食品の原材料の製造については、監督官庁が定める最新のGMP(※) 基準に適合していることを義務付けること。
  • (3)サプリメント食品を販売に供する場合は、当該製品に係る表示内容についての許可(以下「表示許可」という。)を要するものとすること。
  • (4)サプリメント食品の表示許可を得た業者に対して、当該サプリメント食品に係る健康被害情報の提供及び公表を義務付けること。
  • (5)サプリメント食品について、何人もその効果又は機能に関して、明示的か暗示的かを問わず、虚偽又は誇大な広告をしてはならないことを明記すること。
  • (6)サプリメント食品の過剰摂取等を防止し、健康的な食生活等の健康維持・増進に関する知識の向上を図るための注意喚起及び啓発活動の充実を関連省庁及び地方公共団体に求めること。
  • 3.前項(5)の実効性を確保するため、国は、誇大広告等の厳格な取締りを積極的に行うべきである。

また関東弁護士会連合会は7月22日付で機能性表示食品に関する意見書を発表しています。
機能性表示食品に関する意見書: 宣言・決議・声明 | 関東弁護士会連合会

趣旨は以下です。

  1. 機能性表示食品制度については、廃止すべきである。
  2. 仮に機能性表示食品の制度を廃止できない場合であっても、食品の安全性を確保し、機能性の科学的根拠が十分合理的と評価できるものに限定するように必要な措置を講じるほか、機能性表示食品の表示についても、適格消費者団体の差止請求権の対象とすべきである。

これらに関連した最近の海外情報を紹介しておきます。

●FAO いわゆる健康食品の規制と消費者の認識の現状と課題を紹介

2025年4月、FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations、国際連合食糧農業機関)から「個別化栄養における食品安全」という報告書が発表されました。
Food safety in personalized nutrition

プレスリリースは以下です。
安全な革新を支援する:FAOは食品サプリメントと機能性食品あるいは健康食品の安全性の検討を強調する
Supporting safe innovation: FAO highlights food safety considerations for food supplements and functional or health foods
29/04/2025

内容はいわゆる健康食品の規制や消費者の認識などについての現状と安全上の課題をまとめたもので、世界中の事例を多数紹介しています。
これらの安全性の問題としては以下の項目をあげて説明しています。

  1. 医薬品との相互作用
  2. 既往症や生活習慣への生物活性成分の影響
  3. サプリメントに使用される植物抽出物の安全性
  4. 汚染物質
  5. 予期せぬアレルゲン
  6. 生理活性のある物質の一日推奨摂取量と過剰使用の可能性
  7. 植物ベースのサプリメントの過剰摂取や不適切使用による毒性
  8. 新規成分

このうち汚染物質の項目で日本での紅麹を含むサプリメントによる健康被害事例を紹介しています。製品の摂取と関連する可能性のある死亡が100人を超え、400人以上が入院したと記述されていて、他の多数の紹介されている事例の中でも大規模で深刻なものであることが改めて認識されます。

この報告書ではかなりのページを割いて医薬品との相互作を紹介しているのが印象的です。

●ドイツBfR 食品サプリメントによくある5つの誤解

ドイツBfRが定期的に刊行している科学読み物BfR2GOの2025年第1号が食品サプリメント特集でした。
BfR2GO, Issue 1/2025, Main topic: Food supplements – BfR
18/07/2025

表紙の文章は「食品サプリメント:誇大広告と誤解」、特集の見出しは「誇大広告と誤解の間Between hype and misconception」です。そして消費者調査の結果から、食品サプリメントによくある5つの誤解として以下が明らかになったとしています。

  • 誤解1 食品サプリメントは制限なしに販売できる医薬品である
  • 誤解2 食品サプリメントは販売前に公的に評価されている
  • 誤解3 食品サプリメントは病気や症状の治療に使える
  • 誤解4 健康でバランス取れた食事をしている人でも食品サプリメントのメリットがある
  • 誤解5 食品サプリメントは無害である、なぜなら微量栄養素を摂りすぎることはないので

章のまとめは「食品サプリメントを使用している人の数は、それらへの誤解と同じくらい多い」とあります。つまり食品サプリメントの需要の多くは誤解によるもので、食品サプリメントが繁栄する場所は「誇大広告と誤解の間」であるので、正確な理解が普及していれば食品サプリメントの使用はそれほど多くはならないはずだというわけです。

この「誇大広告と誤解の間」という表現が健康食品の本質をついていておもしろかったのでタイトルにいれてみました。

EUの食品サプリメント規制は比較的厳しく、ヘルスクレームも認可されたものしか使うことはできないのですがそれでも誇大宣伝による誤解が広がっているのが実情です。

これらの文書からは、国際的にも、国が違っていても、いわゆる健康食品が、医薬品と食品の境界付近で、誇大広告と安全性の点で問題になっていることがわかります。サプリメントの性質からは当然のことです。

そして日本の保健機能食品制度においては、食品は病気の人が使用するものではないという主張の下で医薬品との相互作用についての考慮が不足していることも明らかです。日本でも医薬品と同時に健康食品を使っている人がそれなりにいることは報告されています。サプリメントそのものの安全性はもちろん、それを使う人がどういう人なのか、その人たちにとって安全なものにするためにはどうしたらいいのか、まで考えることがいわゆる健康食品による健康被害を防ぐためには必要です。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

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