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紅麹サプリ問題を2016年の著書で警告(畝山智香子さん)

「健康食品」のことがよくわかる本(日本評論社)

小林製薬の紅麹関連食品の健康被害が広がる中、この問題を一部予言していた著書があります。2016年に日本評論社より刊行された『「健康食品」のことがよくわかる本 (畝山智香子/著)』です。その終章「食品の機能とはそもそも何?」に、「紅麹」について記述がありました。
紅麹サプリはフランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)の市販後調査によって健康被害が報告され、服用する前に必ず医師に相談するように注意喚起が行われていたこと、また、米国やカナダでは未承認医薬品として取り締まり対象になるのに日本ではいわゆる健康食品としてなんの警告もなく販売されていたことを指摘しています。

今回、畝山智香子さん(現在、立命館大学客員研究員)より、著書の一部を抜粋する形でご寄稿いただきました。なお、畝山さんは現在、食品安全情報blog2の暫定後継サイトfoodnewsclipで引き続き情報発信をされていますのでご参照ください。(FOOCOM編集部)


市販後調査、健康被害報告でわかること(畝山智香子) 

●フランスのニュートリビジランスシステムと紅麹

医薬品の場合市販後調査(ファーマコビジランス)というシステムで有害事象を集め、副作用があればそれを早期に検出し対応しようとしています。この場合有害事象というのは薬の服用中におこったあらゆることを指し、必ずしも薬が原因であることが確認されていなくても報告されます。集まったデータに何らかのパターンがあるかどうかを解析して、薬の副作用かどうかを判断するのです。例えばある薬を飲んでいる患者さんが転んで骨を折った、というような一見薬とは関係のなさそうなことでも報告はされます。報告が1件あったというだけでは何も言えませんが、事例がたくさん集まると、ある特定の薬を使っている患者さんにだけ骨折の頻度が高い、というようなことがわかる場合もあるからです。

食品についてはそのような制度はないのですが、毎年新しいタイプの食品や販売方法がでてきて消費者の行動も過去の時代よりは多様化し変化しているため、何かがあった場合の健康被害を最小限に留めるためにも医薬品にならった監視システムが必要だと考えて実施し始めたのがフランスです。ニュートリビジランス(栄養監視)と呼びます。この制度が特に注目しているのは当然医薬品同様にリスクが高い可能性がある食品サプリメントとエネルギードリンクのような新しいタイプの食品です。

フランスのニュートリビジランスでは医療従事者から健康担当当局に食品が原因であることが疑われる有害事象の報告を求めています。2010年に始まって2014年に発表された最初の報告書によると、報告された有害事象は1500件以上、そのうち76%が食品サプリメントです。残り24%は強化食品や特別用途食品でした。予想通り、食品による(食中毒以外の)健康被害事例は圧倒的にサプリメントによるものであることが実証されています。

フランスはこのシステムでうかびあがったいくつかの問題製品に対して評価を行い、対応しています。

【シネフリン】18の有害作用報告を受け、摂取濃度を規制

一つはシネフリンです。p-シネフリンはビターオレンジ(ダイダイ)の皮に含まれる物質で、エフェドリンと類似の構造を持ち(エフェドラの項参照)、多くの「減量用」といわれるダイエタリーサプリメントの成分として使用されています。ANSESはニュートリビジランスシステムにより、p-シネフリンを含むダイエタリーサプリメントの消費に関連すると思われる有害作用の報告を18件受け取って評価を行いました。その結果として、ANSESはダイエタリーサプリメントによるp-シネフリンの摂取濃度は20 mg/日以下にするべきであると考え、カフェインと一緒にp-シネフリンを取ってはならないと勧告しました。有害事象の内容としては心血管の影響、肝臓障害、高リン血症、神経障害などで、重大な有害作用の事例は主に心血管系への影響でそれは文献にも報告されていて蓋然性が高いと判断されました。20 mg/日というのは普通の食生活で摂取する可能性のあるp-シネフリンの最大量です。そして市販のダイエタリーサプリメントのシネフリン含量は推奨1日摂取量で1~72mgであり全てカフェインも含んでいました。

【紅麹】25の有害作用報告を受け、医師に相談するよう注意喚起

もう一つは紅麹です。

「紅麹」は「正常コレステロール値を維持する」と謳う多くの食品サプリメントに使用されるコメにつく赤カビで、ANSESは紅麹を含む食品サプリメントの摂取に関連すると思われる25の有害作用報告(主に筋肉と肝臓の傷害)を受けとりました。紅麹の有効成分はモナコリンという化合物で、そのうちの一つであるモナコリンKはコレステロール合成経路に関与する酵素(HMG-CoAレダクターゼ)を抑制する作用があり、「ロバスタチン」という名前で米国・カナダ・オーストリア・スペイン・ポルトガル・ギリシャでは医薬品として使用されています。しかしフランスでは医薬品ではありません。

ニュートリビジランスシステムに報告された25件の有害事象はロバスタチンで報告されている事例と類似しているので、ANSESはモナコリンを含む紅麹食品サプリメントの摂取が、遺伝的素因を持つ、病状がある、治療中であるなどの感受性の高い人たちにはとりわけ、消費者に健康リスクを引き起こす恐れがあると考えました。そのためANSESはこの製品を摂取する前に、これらの感受性の高い人には医学的助言を求めるよう助言しました。

「このサプリメントはスタチンベースの薬を使用している患者や、副作用によりスタチンベースの薬の使用を止められている患者(「スタチン不耐性」患者)に使用してはならない。感受性の高い人(妊婦、授乳中の女性、子供、青年、70歳以上の人、グレープフルーツを多量摂取する人など)も紅麹サプリメントの使用を避けるべきである。」

なおロバスタチンを医薬品として認可している米国やカナダでは紅麹を含むダイエタリーサプリメントは未承認医薬品としての取り締まり対象になります。目安としては1日の摂取量が5mg程度以上だと医薬品とみなされるようです。日本では医薬品ではなく食品扱いなのでいわゆる健康食品として何の警告もなく販売されています。高脂血症を治療するなら品質にも安全性にも疑問の多いいわゆる健康食品を使うのではなく、医師の管理下で、保健の効くスタチンをきちんと効果や副作用を確認しながら服用した方がはるかに安全だと思います。

このような問題点は監視システムがあったからこそ明らかになったもので、日本でも積極的に探せば相当数の被害事例があると考えられます。

ニュートリビジランス健康被害(胃腸炎)発生総数と報告数

実は食品による健康被害事例は、報告されてくるものだけを数えると実際の件数を大幅に下回ることがわかっています。図(右)に胃腸炎発生総数の推定のイメージを示します。

これは微生物による食中毒の場合についてのものですが、いわゆる健康食品でも同様で、例えばある商品を使っていたら調子が悪くなったので使用を止めたらなおった、といったような軽微なものは病院にかかることもなく通報することもなく終わるでしょう。病院に行った場合でも原因が確定できない場合には健康食品による健康被害とは計上されません。消費者が健康食品による健康被害であるとは思いもしない場合もあり、報告されている事例は氷山の一角なのです。

(以上、著書の抜粋は出版社の許諾を得て紹介しています。)


参考
National Nutrivigilance Scheme
Nutrivigilance, a scheme devoted to consumer safety
Today ANSES publishes its recommendations on dietary supplements for weight-loss containing p-synephrine(05/05/2014)
Food supplements containing red yeast rice: before consumption, ask a healthcare professional(18/03/2014)

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