科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

紅麹サプリの原因究明 動物実験について理解を

畝山 智香子

小林製薬の紅麹を含む食品による健康被害の原因究明が続いています。厚生労働省から5月28日付で公表された「小林製薬社製の紅麹を含む食品の事案に係る取組について」と題する資料で、

  • 「ラットの7日間反復投与試験でプベルル酸単品および製品(プベルル酸および化合物Y,Zを含む)を投与した結果、近位尿細管の変性・壊死等の所見がみられた」
  • 「ラットの90日間反復投与試験(実施予定)」

との記述があったことから、数か月以内に結果がわかるだろうと受け取った人がいるようです。

そこで、食品添加物や残留農薬の安全性評価にもよく使われる動物実験について、少し説明してみようと思います。

化学物質の安全性を評価するためには、短期間での影響から長期間での影響まで幅広く調べる必要がありますが、標準的によく実施されるげっ歯類試験は、28日間反復投与、90日間反復投与、そして2年間の発がん性試験です。

今回予定されている90日間試験では、ある程度の期間摂取した場合の有害性に関する情報が得られます。試験は基本的にはOECD テストガイドライン 408のげっ歯類における 90 日間反復経口投与毒性試験」にしたがって行うことになります。

このようなガイドラインに従った定型の試験を行うことで、農薬や添加物などで得られた過去の試験と同じ検査項目のデータと比較することができます。例えばNTPのデータベース(US National Toxicology Program:米国国家毒性プログラム)のように、公開されているデータを参照して、これまで調べられてきたどんな化合物と近いかといった考察ができます。

●動物実験で用量と毒性影響の関係をみていくが…

ただし実験を理想通りに実施するのはそれなりに大変です。90日間試験では少なくとも3段階の用量と対照群を設定する必要があり、その用量は、最高用量は悪影響を生じさせるが死亡や重度の苦痛を引き起こさない用量、最低用量は何ら毒性影響を生じさせない用量、そして用量反応関係がみられるように各用量段階を設定する、と定められているのです。

理想的な場合を食品添加物や残留農薬のADIの説明に使っている図(下図)の上に、赤で書きこんでみました。
Cは対照群、Lは低用量群、Mが中用量群でHが高用量群です。

このような結果が得られるような実験ができれば、毒性影響の指標となる量である無毒性量や最小毒性量がこのあたりだろうという目安が得られます。しかしプベルル酸はこれまでほとんど情報のない化合物であり、7日間投与で腎臓の近位尿細管の変性・壊死がおこる量はわかったものの、「毒性はあるが死亡しない用量」や「毒性影響が認められない用量」はわからないでしょう。

となるとまずはある程度用量に目安をつけるための試験、通常28日間反復投与試験が必要になります。

よくわからない化合物の試験をするのは結構大変で、食品の成分でもある食品添加物のようなものなら餌や水に混ぜることもできるかもしれませんが、未知の物質だと味やにおいで動物が食べないかもしれず、一匹ずつ毎日経口投与しなければならない場合が多いのです。

水に溶けない場合は、さらに工夫が必要です。定められた動物を指定された条件で飼育し、約1週間の順化期間と28日間の投与期間を経て解剖し、必要な組織を標本にして観察し、まとめるという作業をして、うまくいけば投与量のめどがつきます。それから90日間の試験を行うことになるでしょう。90日試験では、私たちが健診で受けるような血液検査を含め、全身すべての組織が詳細に調べられることになります。

食品添加物のようなものだと最大量の餌の5%を投与しても何の毒性も見られない場合がありますが、プベルル酸の場合は明確に腎臓に毒性がありますから、短期間では死亡までいかなくてもある程度長くなると途中で動物が死亡してしまうかもしれません。

通常は試行錯誤を経たうえで用量反応が確認できるデータが得られるのですが今回はできるだけ短期間で結果を出すようプレッシャーがかかっていることでしょう。実際にヒトで健康被害が出ているものですし、現時点で目に見える影響がなくても不安を感じている人も多いでしょうから早く情報が欲しいという気持ちは理解できます。

しかし拙速ではなく適切な試験をきちんと行うことが重要です。最近は動物実験をなくそうという主張があちこちで聞かれ、実験施設を廃止するところもありますが、今回このような問題にすぐに対応できる能力が維持されていたことは幸いでした。

毒性影響に関する情報は、今後も厚生労働省で公表され次第、説明してゆきたいと思います。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

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