野良猫通信
国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。
国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。
東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。
野良猫 食情報研究所の畝山です。
これからFOOCOMで、日々のニュースの中からピックアップして簡単な解説などを加える野良猫通信を連載することになりました。第1回はここしばらくの間で最大規模の食品事故である、小林製薬の紅麴を含む製品による健康被害の件です。
FOOCOMにはこれまでも複数の記事が掲載されていますが、今回は「機能性表示食品は情報が公開されて消費者が判断できるようになった」という主張について、考えてみます。
機能性表示食品は、消費者庁への届け出情報を以下のサイトから検索できます。
機能性表示食品の届出情報検索 | 消費者庁 (caa.go.jp)
公開されている情報は事業者が届け出たもので、内容を第三者が確認したものではありません。それを消費者が、信頼に値するのかどうかも含めて、自分で判断することになっています。
小林製薬の紅麴を含む製品は、機能性関与成分として「米紅麹ポリケチド2mg」と表示してあります。ポリケチドとはケトン(>C=Oあるいはその還元型) とメチレン (>CH2) 基が交互につながった分子( [−C(=O)−CH2−]n)由来の天然物群の総称で、これだけでは何を指すのかわかりません。
届け出情報を見るとモナコリンKを含み、それがHMG-CoA 還元酵素を阻害するためコレステロール濃度を下げると考えられる旨の記載があります。それならモナコリンKと書けばいいだろうと思われるのですが、モナコリンKは医薬品のロバスタチンのことですから隠したかったのでしょう。HMG-CoA 還元酵素阻害により血中コレステロール濃度を下げる医薬品は多数あり、世界中で広く使用されています。
一方、医療用医薬品では、使用上の注意や用法・用量、服用した際の効能、副作用などを記載した書面である添付文書というものがあり、それはPMDAから検索することができます。
添付文書は、専門家が評価したうえで認可された医薬品についての重要事項の概要が記されていて、その内容は常に改定されていて信頼できるものです。その中からHMG-CoA 還元酵素阻害により血中コレステロール濃度を下げる医薬品の代表として、日本で長く使用されてきたメバロチン(一般名:プラバスタチン)を選んでみてみましょう。
この2種類の公開情報を並べてみたのが以下の表になります。
製品 | 紅麹コレステヘルプ(小林製薬) | プラバスタチンナトリウム錠(第一三共) |
規格 | 3粒200mg中ポリケチド2mg・アスタキサンチン0.023-0.45mg | 1錠中有効成分5mg賦形剤 |
使用量 | 1 日あたり3 粒 | 10mgを1回または2回に分け経口投与 |
販売開始 | 2018年 | 1989年 |
安全性・有効性 | 2試験103人 | 6つの試験1629人 |
効果 | あいまい | 明確 |
市販後調査 | なし | 7832人平均5.3年 |
1日あたりの費用 | 110円 | 約10円(3割負担) |
医師のフォローアップ | なし | あり |
副作用被害救済 | なし | あり |
毒物の混入 | あり | なし |
医薬品は、錠剤に含まれる賦形剤(でんぷんのような、錠剤としての形を作るために使われる成分、純度等は薬局方に規定されている)以外の成分は全て有効成分であり、不明の成分はありません。一方のサプリメントは、含まれることがわかっている成分は200mg中わずか2.023〜2.45mgでしかも一定ではありません。臨床試験の結果や使用歴も医薬品のほうが圧倒的に質と量がよく、医薬品は明確に有効で、その上値段は医薬品のほうが安価です。
もしもコレステロールが気になる、という人がこの表のデータを見せられたら、最後の行の「毒物の混入」がなかったとしても、医薬品を選ぶと思います。
ところが実際には、サプリメントを使っていた人がたくさんいました。その理由は「情報」にあります。サプリメントは一般向けに膨大な広告宣伝費を使って宣伝されている一方で、医療用医薬品は基本的に一般向けの宣伝は禁止されています。そこに情報のギャップが生じます。消費者は情報を与えられたうえでの選択をすることになっていますが、いわゆる健康食品について消費者が与えられている情報は、極めて偏って断片的なものです。
機能性表示食品では、届け出情報を検索すれば情報が得られることをメリットだと宣伝しています。しかし実際にデータベースを見る人は相当少なく、そしてデータベースで届け出情報を見たとしても記載されている情報は表のうち黒字部分のみです。赤字で記載した、判断にあたって参考になるだろう重要な情報は、知識がなければ入手できないのです。
私が提供したいのはその「消費者が自覚していないかもしれない、不足している情報」です。本来の「情報を与えられたうえでの選択」のためには、提供される情報は現時点の科学の知見に照らして最良で万全なものである必要があります。少なくともできる限りそれを目指すべきです。科学は日々進歩し、人間の思惑に配慮などしませんので、野良猫通信は特定の立場に縛られず常に新しい知見を追いかけたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。
国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。