GMOワールドⅡ
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている
2015年5月1日、Monsanto社によるSyngenta社の買収話が市場を賑わした。Syngenta社はMonsanto社からの2度にわたる申し入れを断ったが、とかくお騒がせのMonsanto社は、GM反対派から悪の象徴として蛇蝎の如く忌み嫌われ、罵詈雑言にはことかかない。それらのうちから代表的な5つの神話(誹謗中傷)を取り上げ、検証を試みたのが5月29日にInstitute for Ethics and Emerging Technologiesに掲載された「Top 5 Myths About Monsanto (Part 1)」である。概要は以下の通り。
<神話1:Monsanto社はAgent Orangeを開発しました>
(1)Agent Orangeを開発したのは国防省(Department of Defense:DoD)であり、Monsanto社は、Hercules社、Diamond Shamrock社、 Uniroyal社とThompson Chemicals社などと共に開発に協力したその他大勢の一つに過ぎません。
(2)Agent Orange の主な製造業者は、当初Dow Chemical社でした。
(3)上述のMonsanto社は、GM(遺伝子組換え)種子を開発している現在のMonsanto社ではありません。Agent Orangeに関与した化学会社のMonsanto社は、2000年にG.D. Searle 社とPharmacia & Upjohn社に合併し、最終的にPharmacia社となりました。さらに、Pharmacia社は2002年にバイオ製薬会社Pfizer社によって買収されました。この時、化学会社を買収したPfizer社は傍系の農業会社には目もくれませんでした。結果として、スピンアウトした現在のMonsanto社は、その前身とは異なったマネージメントを展開しています。
従って、ベトナム戦争中のAgent Orangeの開発について現在のMonsanto社を責めることは濡れ衣です。
<神話2:Monsanto社は大企業です>
極端に単純化した考え方ですが、常にアクティビストによって「悪」の権化と決めつけられているMonsanto社は、イメージ的に石油メジャーのように思われています。しかし、他社との比較においてMonsanto社は決して巨大企業ではありません。Franklin Veauxが Quora で示したグラフは、2013年の年間総収益を表しますが、Monsanto社はDish Satellite TV社とStarbucks社との間に沈んでいます。一方、オリジナルのMonsanto社(つまりPfizer社)は、Ford Motor社やCoca Cola社を凌ぎ、UPS社とGoogle社に肉薄する大企業です。
<神話3:Monsanto社はGM作物生産を独占しています>
これは、もう一つの神話です。現実的に、Monsanto社はGM作物の生産に取り組んでいる多くの企業の一つに過ぎません。Monsanto社以外の大手企業としては Syngenta 社、Pioneer Hi-Bred International社(DuPont社の子会社)、Dow Agrosciences社、BASF社とBayer Cropscience社などがあります。より小規模の企業は、米国、オーストラリア、カナダ、インド、イスラエル、オランダと南アフリカなどに分布しています。
では、上場企業の中でMonsanto社は最大でしょうか? Monsanto社 が43カ国で約22000人の従業員を有するのに対し、Syngenta社は90カ国で28000人以上の従業員を持ちます。現実では、Syngenta社の方が大企業なのです(訳者注:但し、GM種子を含む商用種子市場のみのシェアで比較すれば、Monsanto社は首位でSyngenta社は3位である)。
<神話4:Monsanto社はインドの農民自殺に関与しています>
Monsanto社製Btワタのインドへの導入と農民自殺との関係は、最も疑わしいけれど最も人気が高い神話です。
ワシントンD.C.ベースの農業政策シンクタンクInternational Food Policy Research Institute(IFPRI)による2008年の研究によれば、「私たちの分析ではBt ワタが農民自殺の必然性と発生する条件のいずれをも明白に示していません」。もちろん若干のエリアでは、広範に普及しているBtワタが間接的な役割を持ちますが、それは「主に栽培された状況もしくは環境の結果」でした。
2011年にUniversity of Agricultural Sciences(インド)の研究者たちが、引き続き Btワタがインドの農民に与えた影響について調査しました。彼らは Bt ワタの導入とインド農民の貧困増加との関係を見い出さなかったばかりか、Btワタ使用の留保はむしろ農民により有害な影響を与えることに気がつきました。その上、若干のエリアで Btワタ(種子)はかなり高価格でしたが、オーガニックの非 Bt コットン(種子)はさらに高い価格帯にあったことも示されました。
Btワタが2002年までインドに導入されませんでしたが、農民自殺のデータは1997年から統計が取られています。2011年の研究によるグラフから、農民自殺は2002年以前から起きていたばかりではなく、Bt コットンの導入後に際立って減少し始めました。Btワタによって農民自殺が増加したという誤った主張は、ばかげたものなのです。
農民自殺が明らかに減少しているけれど、インドではビタミンA欠如のような微量栄養素不足のために人々が死ぬという別の酷い状況になっています。
科学者と企業は、ビタミンA前駆体のベータカロチンを生合成するために遺伝子組換えしたゴールデン・ライスを開発し、ンドのような途上国に無料で配布しようとしています。しかし、GM反対派はこれを阻止するために恐怖を煽るキャンペーンを展開し、フィリピンなどでは試験圃場を破壊しています。換言すれば、Monsanto社よりむしろ反 GMO のアクティビストたちこそ本当の殺人者であるように思われます。
<神話5:「モンサント保護法」>
2013年3月、Barack Obama大統領はH.R.933(包括予算割当法)に署名しました。多くの人々が、H.R.933はGM作物を押しつける「Monsanto保護法」だと主張して騒ぎ立てました。問題とされたのは、Section 735(農民保証条項)でした。
事実は、Section 735も、H.R.933全体を通してもMonsanto社への言及はなく、そもそもGM作物を明示さえしていません。
Section 735は、植物防疫法のsection 411、412及び414の解釈を補完しており、これらの条項もMonsanto社やGM作物には言及しておらず、植物害虫の悪影響について重視しているだけです。
これらを踏まえた(訳者注:この部分の原文はかなり細かい法解釈がなされているが、煩瑣になるので大幅に省略した)Section 735の意味とは、「当面規制されていないどのような植物の流通-はい、(規制緩和された)「GMO」植物さえ-も、環境あるいは消費に対する植物の影響に疑問を生じるさらなる科学的証拠が提示されるまで流通を許されるべきです」ということあり、これは農業の世界においてことさら新しいことではありません。
この法案が「Monsanto保護法」と名付けられたのは、反 GMO / 反Monsantoアクティビストが左翼的なメディアを通じて流したデマ以上のものではありません。換言すれば、「Monsanto保護法」はなかったし、農民と消費者に対する「悪の企業による攻撃」もありませんでした。(抄訳終わり)
面白いのは、これを書いたB.J. Murphyが、以前は反GMOアクティビストであったということだ。彼は、Mark Lynasと全く同じように「幸いにも正気に戻って、GM作物生産のバックにある科学的正当性を認識することができました」が、「それでもMonsanto社が環境と農民に関してBig-Agの悪いすべてを象徴していると信じて、反Monsantoの観点は維持してきました」と告白する。さらに「最終的にMonsanto社について私自身が完全に間違っていたと認めるのは、私にとって最も困難な経験でした」とも。
執筆動機については、「私はMonsanto社の役割の重要性を認識するに至ったが、同社は依然として陰謀理論と歴史的事実を無視した虚偽の主張を信じ続ける人々によって挑戦され続けています。GMOsやMonsanto社 について人々を啓発することを希望し、この会社に関する最大の神話のいくつかを覆そうと試みます」と書いている。
Murphy氏の記事は、Monsanto社に対する好き、嫌いは自由だが、その前にデマや誇張に惑わされないように客観的事実をキチンと知ることが重要だというメッセージととれる。但し、どこがとは指摘しないが、部分的にはMurphy氏が属していたGM反対派がしばしば用いる手法をそのまま裏返しに使ってみせたところも読み所かもしれない。最後に、訳者が創作したMurphy’s law「転向者は、転向した側で過激な支持者になる」。
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている
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