科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

企業の勘定と業界の事情~General Mills社と全米食品製造業者協会

宗谷 敏

キーワード:

 2014年1月2日、米国食品製造大手General Mills社(本社ミネソタ州ミネアポリス)の「(Original)Cheerios」 からGM(遺伝子組換え)成分を排除し、「Not Made with GMO Ingredients」と任意表示するという発表Q&A により、米国内メディアは沸騰した。

 「Cheerios」は、代表的なナショナル・ブランドの朝食用シリアルで、GM成分とはコーンスターチと蔗糖を意味する。リリースにもあるし多くのメディアも指摘した通り、「Cheerios」の主原料は全粒オートムギであり、現在GM作物は存在しない。

 ごく少量の添加物としてのGMトウモロコシ由来のコーンスターチとGMテンサイ由来の蔗糖をNon-GMに切り換えるというのが主旨だ。適用される製品は「Original Cheerios」のみであり、「Honey Nut Cheerios」や「Peanut Butter Cheerios」などCheerios系列ブランドの派生商品は除外されている。

 フラッグシップとも言える巨大なブランドを守るために、ほとんど無意味と考えられる最少のコンテンツを変更した理由について、「消費者がそれを受け入れるだろう(つまり、購買する)と思ったからであり、安全性の問題ではないし、決して圧力からでもない、『Cheerios』は本質的に変更前と同じものだ」と同社は説明する。

 このレトリックについて、Cornel大学のMargaret Smith 教授(植物育種と遺伝学)はこう解説する。「コーンスターチと蔗糖は高度に精製されており、GMOsのDNAとそれらが発現するタンパク質を含みませんから、遺伝子組換え作物由来と非遺伝子組換え作物由来のコーンスターチや蔗糖は栄養的・化学的に全く同一です。つまり、このことは『Cheerios』の新しいバージョンは、栄養的・化学的に従来のバージョンとまったく同じであろうことを意味しています」

 GM食品の安全性に関しては、FDA(米国食品医薬品局)や多くの関連企業と同様、General Mills社も日頃より肯定的立場を標榜している。一方、圧力に関しては、GM食品表示を求める積極行動主義者組織の「GMO Inside」や「Green America」が動員したキャンペーンがCheerios Facebookに対する執拗な攻撃を続けて炎上させた。これに屈したとの見解もある。「消費者が受け入れるだろうと思った」という陳述は、世論に動かされたとも受け取れるからだ。

 この転向をアンチGMO陣営は大きな勝利として歓迎したが、Wired紙などに代表される一部メディアの論評は辛口であり、「シリアルをもっと多く売るために消費者の恐れを利用した」、「うわべだけのジェスチャー」と手厳しい。

 科学者を自称するホラ吹きや科学を無視する観念論者など声の大きな批判者による誤報に基づかされた、無意味なマーケティング・スタントだというのだ。より品質が高いシリアルだと思わせる騙しのテクニックだと論難されれば、米国人はこういう小細工を嫌う。

 米国の食品製造業界に「ドミノ効果」をもたらすのかというのも、大きな関心の一つだろう。有名な格言「If a tree falls in a forest and no one is around to hear it, does it make a sound?(誰もいない森で木が倒れたら音は発せられるのか?)」を引いたメディアもあったが、企業は戦略的にGMO への公共の懐疑の増大へ注意を払わなければならないけれど、フォロワーを輩出するかというと、これには否定的な見方がメディアには強い。

 「Not Made with GMO Ingredients」という任意表示とコストについてはどうだろう。製品ラベルに対する変更は、企業が吸収するか、消費者に添加されるかは別として、必ずコスト要因を持つ。General Mills社広報担当も、(たったこれだけの変更にさえ)「かなりの投資を必要とし」、すべてのCheerios系列ブランドの変更は「不可能ではないにしろ、困難」とWall Street Journal紙に語っている。

 半年ほど前から瞠目すべきGM論争の検証を続けているNathanael JohnsonもGrist紙で最後にコスト問題に言及し、「General Mills社は、この変更に1年も費やした。大企業がマーケットを維持するために非GMの製品バージョンを提供してこなかった理由が、いま理解できた。空母を方向転換するのは難しい」と結んでいる。

 面白いのは、Monsanto社のスタンスだ。CEO Hugh Grantのコメント。「以前から述べている通り私たちは任意表示を支持しており、それをするのは企業次第です。本当の任意表示の最初の現実的な例と、おそらくちょっとしたマーケティングを、先週私たちは見たと思います」。これは、General Mills社への支持である。

 辛口の一部メディアからの批判にも拘わらず、関連業界にはGeneral Mills社の動きに対して暗黙の了解があるようにも思える。これを裏付けたのは、1月7日付Politico紙のスクープ記事だ。

 GMA : Grocery Manufacturers Association(全米食品製造業者協会)が、FDAに対して製品が「GMO free」と表示できる任意表示システムの開発をさせて、同時にGM成分を含む製品にも「natural」表示を許すよう連邦議会に請願しようとしているという内容である。

 Politico紙が入手したGMAのドラフト文書について、GMA関係者はごく初期の成案だが、内容的に大筋は現在でも変わっていないと証言している。

 「安全性が証明されている」製品に対する「非能率的で高価な州毎のパッチワーク・システム」であるGM食品義務表示を、GMAは強く懸念している。カリフォルニア州とワシントン州のイニシャティブ(住民投票)については大金を投じて僅差でこれらを潰したが、コネチカット州とメイン州では条件付きながらGM食品義務表示法案が州議会で成立した。各州の住民投票を求める動きや、郡も含めて諸州の地方議会によるGM規制(主に表示)立法検討の嵐は止まらない。

 これらの動向に対し、GMAは連邦レベルで法的に任意表示を奨励し、州毎の義務表示法案を非合法化してしまおうと画策しているというのだ。あわよくば、受け皿の議員を捜して、連邦議会で審議中の新農業法への付帯条項としてぶち込もうなどと考えているのかもしれない。

 ConAgra社、Kraft社、Coke社, PepsiCo社, Nestlé社、Kellogg’s社などと共にGMAの有力会員でもあるGeneral Mills社は、当然ながら義務表示制度に反対し、カリフォルニア州とワシントン州のGM食品義務表示イニシャティブを挫くために自ら2百万ドルを拠出している。

 今や限界点を越えたかに見えるGM食品表示を巡る消費者世論に対し、食品製造業界としてもはやほおかぶりはできない。しかし、義務表示は絶対に避けたい。よりマイルドでかつ企業側にディシジョン・メーキングが可能な任意表示を落としどころにしたいというのが、米国食品製造業界の総意らしい。とするなら、General Mills社の今回の変更は業界ぐるみの実験的なパイロット・プロジェクトとして捉えることも可能かもしれない。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい