食の安全・考
食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。
食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
食品の自主回収(リコール)届出制度が、2021年6月1日よりスタートします。新制度は、事業者がリコールを行う場合、保健所など行政にリコール情報を届け出ることが義務化されるもの。2018年に食品衛生法と食品表示法が改正されて約3年の準備期間を経ての完全施行となります。
行政に届出されたリコール情報は、厚生労働省のウェブサイトで公開され、だれでも見ることができるようになります。これは消費者にとっては歓迎すべきことです。リコール情報が迅速に開示されることで健康被害の未然防止にもつながります。
また、厚労省と消費者庁の通知では、食品ロスの観点から注意も促しています。現在、日本ではリコールの多くが健康被害のないもので、問題なく食べられるものが捨てられており、この点にも配慮されています。
新制度で食品リコールがどう変わるのか、見ていきましょう。
新聞社告やニュースなどで時々目にする食品リコール。小規模なものまで含めると、年間で1000件ちかくあります。一口にリコールと言っても、その理由はガラス片混入など口にしたら危険なものから、軽微な表示ミスなど健康影響のないものまで、様ざまです。
こうしたリコール情報は、地方自治体の自主回収報告サイトや、民間のウェブサイトなどで更新されてきましたが、集計方法がバラバラで、全体像が見えにくいものでした。また、あまりにも数が多くて、消費者が気を付けるべき情報が埋もれてしまうのも問題でした。
一方、欧米に目を向けると、国が食品リコール情報を公開して、消費者に注意喚起をしています。こうした背景から、厚生労働省は2017年、改正食品衛生法の検討をした際に新たな食品リコール制度を創設することを決め、2018年の改正食品衛生法に盛り込み、消費者庁も食品表示法を改正しました。
これまで食品リコール情報は、事例に応じて事業者が地方自治体に書類を出すなどしていましたが、今後は国が管理することになり、厚生労働省と消費者庁で一元管理されたデータベースに集約されます。
事業者は、リコール情報を届け出る時に、厚生労働省の食品衛生申請等システムの「食品等自主回収情報管理機能」を利用して、届出を行います。これは国のデジタル・ガバメント計画に対応したもので、改正食品衛生法の営業許可制度、営業届出制度も同様のシステムが使われます。
こうして食品リコールの仕組みが大きく変わり、デジタル化まで一気に進みました。厚労省は説明会などを行い、2020年末には動画も公開して周知をはかっています。しかし、車のリコールと違って食品は零細事業者が多く、どこまで周知されているのか、不測の事態に対応できるのか心配な面もあります。
実際には、所管する保健所等の食品衛生監視員が事業者をサポートするような場面も出てくるのでしょう。とはいえ、2021年6月1日からHACCPも完全施行され、全国の食品衛生監視員の負担は大きくなっています。コロナ禍で保健所の業務がひっ迫する中で、新制度が円滑にスタートすることを願うばかりです。
一方、これまで地方自治体が条例などで定めていた食品リコール報告制度は、原則として廃止されます。たとえば東京都は、食品安全条例に基づく自主回収報告制度を2004年11月から施行し、専用サイトで都民に自主回収情報を提供してきました。これが2021年6月1日から国の制度に一本化され、制度は終了します。
さて、新制度の届出対象ですが、リコールの理由が食品衛生か、食品表示かによって法律が異なります。前者は食品衛生法違反又は違反のおそれのあるもの、後者は食品表示法違反のもの(アレルゲン、消費期限、保存方法等の安全性に関する表示の欠落や誤り)が対象です。
新制度のポイントの1つが、クラス分類です。食品衛生法は3分類、食品表示法は2分類で、いずれもCLASSⅠがもっとも健康被害のリスクが高く、消費者にとって要注意であることが一目でわかるようになります。
食品衛生法については厚生労働省が2019年12月27日の通知で、食品表示法については消費者庁が2021年2月26日の通知で詳細を示しています。通知でクラス分けの事例も示されていますが、実際には分類に迷うものも多いでしょう。クラス分類は、届出を受けた保健所等が判断しますが、これから事例が重ねられることになりそうです。
なお、消費者庁の2021年2月26日の通知を見ると、届出対象は食品表示法第6条8項に規定するアレルゲンなど安全性に重要な影響を及ぼすものです。それ以外のもの、たとえば原料原産地、原材料の順番、栄養成分表示の間違いなどは対象外で、届出の必要はなくクラス分類もありません。
それでは、安全性には関係ないけれども表示を間違えたような場合、どう対応したらよいのか。消費者庁は2021年3月17日、食品表示Q&A(加工-274)(加工-275)を改正して、ポップシールなど簡便な修正を認め、基準に違反しても安易に廃棄されることがないよう次のとおり示しています。
「また、今般、食品ロスの削減を推進する観点から、食品表示基準(平成 27 年内閣府令 第 10 号)に違反する食品表示の修正方法について、安全性に係る表示事項の修正を除き、 適正な表示を記載したポップシール又はネックリンガーを容器包装の任意の場所に貼付又は配置することによる簡便な表示修正を認める運用を始めることとしました。食品表示基準の違反をした商品について、当該商品が安易に廃棄されることがないよう、この運用の活用を促していただくようお願いいたします。」
2021年3月17日「食品表示基準Q&A」の一部改正について
これからは、軽微な食品表示の間違いなどでやみくもにリコールされないようにという消費者庁の思いも伝わります。修正方法はもう少し柔軟な方法もあるのかもしれませんので、制度がスタートしたら実態に応じて見直していくことを期待したいと思います。
そういえば、少し前にビールのLAGARのつづりがLAGERの間違いだったと発売中止を決めた事業者に対し、食品ロスの観点から「もったいない」と意見が相次ぎ中止を取り消したことが話題になりました。商品名の問題で食品表示基準とは関係ない極端な事例ですが、何か問題があったら自主回収するような企業姿勢は支持されない時代になったと言えるでしょう。
2019年に食品ロス法(食品ロスの削減の推進に関する法律)が施行されましたが、その所管は消費者庁で、通知にもその点を配慮するよう書かれています。厚労省の通知でも「また、食品ロスの削減の推進に関する法律の趣旨に鑑み、食品衛生上の危害の発生のおそれがなく、まだ食べることができる食品がむやみに回収され無駄に廃棄されるなど、本制度が過剰な自主回収を誘発することのないように留意すること」と記されています。
これまで消費者団体は、食品リコールのあり方について「食べられるのにもったいない」と提言などを行ってきており、私自身も2011年に消費者志向NACS会議で発表する機会がありました。当時は、お客様のことを思って少しでも問題があれば自主回収するような企業はもてはやされるような風潮があったと思います。あれから10年。食品ロスは改めて大事な消費者問題になっていると思います。
最後に、新制度のリコール情報の活用についてご紹介しておきましょう。
一般の人は食品衛生申請等システムから、左側の「食品リコール」の下にある「公開回収事案検索」をクリックすると、下記の検索画面が出てきます。日時や商品名などの入力項目がありますが、何も入力せずに検索ボタンを押すと、その時点のリコール中の製品がダーッと出てきます。ここで商品名、回収理由とともに想定される健康被害の情報を見ることができます。(2021年4月22日時点では届出がないので、0件となっています)
ここから知りたい情報を検索していきましょう。たとえば食物アレルギーの表示間違いで今、何がリコールされているのか知りたい場合は、□食品表示法違反、□CLASSⅠにチェックを入れて検索すると、たくさんのリコール案件から情報を絞り込むことができます。なお、掲載された情報は自主回収終了の報告を受理してから14日経過後に削除されます。
食品リコールサイトは様々ありますが、こうした検索機能がついたサイトは他にはありません。せっかくの情報開示ですから、使い方マニュアルなどがあればよいと思いますが、それは今後に期待しましょう。パソコンなど端末が無ければ見られませんが、何かあったときに厚労省のサイトに行けば情報が集約され開示されていることがわかります。新制度が食の安全の向上とともに、食の安心にもつながるような気がします。
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。