科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食の安全・考

福島の試験操業を視察 東京でも県産マガレイを買いました

森田 満樹

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 福島県産の農林水産物の風評払拭のため、県は「新生!ふくしまの恵み発信事業」と名付けた広報活動を行っています。今年度のテーマは漁業の復興。2014年10月8日、活動の一環としてメディアツアーが開催され、福島県北部の松川浦漁港で試験操業の様子を見せていただきました。SONY DSC
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 漁港に到着したのはこの日のお昼過ぎ、ちょうど底引き網漁船から水揚げをしている最中でした。市場では浜のかあさんたちが、慣れた手つきで魚の種類や大きさにあわせて選別していきます。働いている方々は若い方が多く、とても活気がありました。
 この日の漁はマガレイがたくさん、他にもミズダコ、ヤリイカ、キアンコウなど。お聞きすると震災前はこんなものではなかったとか。水揚げ量はこの10倍くらいで様々な魚種が溢れ、もっとたくさんの方が働いていたそうです。現在のところ試験操業は週1回、魚種も漁獲量も比べものにならないほど少ないのです。

 福島県の沿岸漁業及び沖合の底引き網漁業は、原発事故による放射性物質の影響のため、ずっと操業を自粛してきました。その中で、県で実施する2万件を超すモニタリング検査から、魚種のうち濃度が著しく低いか検出限界未満のものに絞って試験操業を行っています。試験操業の対象魚種は現在、52種です。
福島県漁業協同組合連合会・福島県における試験操業の取り組み

 県では2011年4月よりモニタリング検査を行い、これまで178種類の魚種について放射性物質の濃度を調べてきました。検査データが蓄積されるにつれてわかってきたことは、水深が深くなるほど高い濃度の魚介類が少ないこと、魚介類の種類によって放射性セシウム濃度がかなり異なること、時間の経過とともに速やかに低下したものがあることです。2012年4月以降ほとんど不検出の魚は、シラス、カツオ、キチジ、タコ、イカ、甲殻類、貝類などで、世代交代が早い、回遊性、深いところに棲息するものは低い傾向にあるということでした。

 まずは、ほとんど不検出の魚から試験操業対象魚種を選び、漁業者や流通業者が協議して「地区試験操業検討委員会」、「県地域漁業復興協議会」「漁協組合長議会」で検討を経て、対象種や対象海域、漁法などを決めています。試験操業の対象種は12年6月には、タコ2種と貝1種で、この年は水揚げが121トンでしたが、対象種はその後徐々に増えたのですが、今年1月から6月までの水揚げは390トンとまだ僅かです。

 なお、事故後2年半を経過した時点でも、放射性セシウムが100Bq/Kgを超えるものは、メバル類、沿岸性のカレイ類、ヒラメ、アイナメなど。沿岸性、定着性の強いものは高い傾向にあります。長期的にみれば低下してきているそうですが、これらは試験操業の対象魚種にならず、試験操業で獲れても海に戻されたりして市場に出回ることはありません。
この日、漁協で一番たくさん見かけたマガレイは、国の出荷制限指示がありましたが、その後のモニタリング検査の結果から2014年4月に出荷制限が解除され、現在は対象種となったものです。                           

 試験操業の目的は、小規模でも実際に流通をさせて出荷先での評価を調査し、福島県の漁業再開に向けた基礎情報を得ること。少しでも福島の魚を流通させることで、安全性をアピールすることもできます。震災前の福島県の2010年の漁獲高は約200種、7万9000トンですから、試験操業はわずかな流通量です。それでも大切な取り組みと、相馬双葉漁協本所部長の遠藤和則さんがこの日、説明をしてくださいました。

相馬双葉漁協本所部長の遠藤和則さん

相馬双葉漁協本所部長の遠藤和則さん(製氷施設にて)

―2012年6月に初めて試験操業が行われたのが、ここ相馬双葉漁協です。その後もモニタリング検査を強化して、ようやくここまで増えました。操業を中止してしまうと、本格的な操業再開の際にまともにできるか、仲買いも少なくなる中で戻ってきてくれるかという思いがありました。ここはご覧のとおり若い後継者が比較的多く、そのためにも試験操業でも着実に、続けることで前を向くことができます。流されてしまった漁具倉庫や製氷施設などの整備も、相馬市復興計画のもとに進んでいます。この沿岸は北からの親潮と南からの黒潮で魚種に恵まれ、「常磐もの」として市場では高い評価を受けてきました。特に県産ヒラメは、震災前の2010年2月、福島県ブランド認証制度による認証を受けて、知名度向上に努めてきたところでした。今は対象魚種ではないため獲ることはできませんが、これからモニタリング検査を強化して安全性の確認を慎重に行い漁業復活に取り組んでいきたいと思います。―

CsIシンチレーション検査器

CsIシンチレーション検査器

 説明の後に見せて頂いたのが、市場の中にある放射性物質の検査施設です。ここで出荷するものは漁協が自主検査を行います。施設には、NaIシンチレーション検査機が5台、CsIシンチレーション検査機1台の計6台あり、県水産試験場の指導を受けながら職員がスクリーニング検査を行っていました。検査は検出下限値が10Bq/kg前後となるようにし、県漁連の出荷方針として50Bq/kgを自主基準としており、さらに自主基準の半分の25Bq/kgを超えたら県のゲルマニウム検査機器の精密機器で測定をして、50Bq/kg超の場合は出荷を自粛するということです。自主基準を設けることには様々な意見があったそうですが「間違っても100Bq/kgを超える魚介類を出荷しない」という方針で決まったということでした。

全数検査のための非破壊検査器

全数検査のための非破壊検査器

 また、水揚げされた魚を仕分けしている施設の別室には、ベルトコンベア式の非破壊検査装置が設置されていました。コメの全数検査がおこなわれているように、魚介類も全数検査ができないか、試験が行なわれているそうですが、魚介類は鮮度低下が早く、大きさや形がさまざまなことから、難しいということです。まずはヒラメやカレイ類など、平べったい形のもので大きさを揃えてできないか、試験中とのことでした。

 視察をして、慎重に試験操業が進められ、あわせて自主検査も行われるなど様々な取り組みが進んでいることがわかりました。さっそく買いたいと思いましたが、東京ではあまり売られていないというお話。地元では販売されているそうですが、試験操業は週に1度で量も少なく、あまり購入できないということでした。

左コウナゴ 右シラス

左コウナゴ 右シラス

 メディアツアーの帰りに道の駅に連れていってもらいましたが、ここでも種類はミズダコ、ツブ貝、シラスなどごくわずか。シラスを購入しましたが、量が多いため小分けにしてわが家の冷凍庫に直行、少しずつ解凍しておいしく頂いています。

 東京に戻ってからは、近所のスーパーの魚売り場では福島県沖の魚が購入できないか、注意して探すようになりました。すぐには見つかりませんでしたが、気を付けてみると販売されています。

福島県産 真ガレイ切身

福島県産 真ガレイ切身

 まず見つけたのが、イトーヨーカドーの「福島県産 真ガレイ」。北海道産のマガレイと一緒に、数は少ないけれども手前にいくつかありました。値段も北海道産のものと変わりません。さっそく購入して、煮つけにして頂きました。ほっくりと柔らかく、おいしく頂きました。

 次に見つけたのが、イオンのサンマ。発砲スチロールのトロ箱に入ったサンマには「三陸北部沖」と表示されていますので、福島県産とすぐにピンときませんでしたが、注意深く見ると発泡スチロールのトロ箱には、福島県の小名浜漁港の名前が大きく書いてあります。ポップには「小名浜港から」とあります。サンマは回遊魚ですから、そもそも操業自粛の対象になっておらず、試験操業の対象魚種になっていません。沖合から遠洋を回遊する魚を漁獲する漁協では、震災後も継続してサンマ、マグロ類、カツオなどの漁を行ってきたそうです。

 売り場の方にお聞きしたところ、小名浜漁港であがったサンマ、カツオ、サバは、昨年から定期的に販売しているそうです。水産物の原産地表示は水域名か、漁港のある所在地の県産を表示することが基本です。震災以降、水産庁は水域名の表示を奨励するようになっており、原産地表示は水域名表示、そこに任意表示で「小名浜港から」と表示をしているのです。鮮度もよく値段も他県産地と変わらず、手ごろです。お刺身コーナーでも切り身が販売されていましたので、こちらもあわせて購入しました。この日はさんまの塩焼きとお刺身で、こちらもおいしく頂きました。

 イオンの売り場の方とお話をしていると、福島県大熊町の方だということがわかりました。私が福島県産の魚を応援していること、先日松川浦漁港の見学をしていることをお伝えすると、「松川浦漁港はよく潮干狩りに行ったなあ。あそこのホッキ貝は最高だよ」と教えてくださいました。国道が開通して、3年半ぶりにお墓参りができたのだそうです。

松川浦漁港潮干狩り入口

松川浦漁港潮干狩り入口

 メディアツアーで、松川浦漁港の潮干狩りの施設も見せて頂いたことを思い出しました。かつては宮城県や福島県からシーズンになると大勢の観光客が押し寄せたそうですが、施設は閉じられていて、寂しい雰囲気です。潮干狩りが再開されて、もとの漁港の活気が取り戻すことができますように。県や漁協、地元の皆さんの取組みを見せて頂きながら、何ができるのか、ずっと考えています。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食の安全・考

食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。