今月の質問箱
いろいろな場面で食品安全や食品表示の質問、疑問に遭遇します。自分なりに、気になる質問のコタエを探したい
いろいろな場面で食品安全や食品表示の質問、疑問に遭遇します。自分なりに、気になる質問のコタエを探したい
消費生活アドバイザー。フーコム・アドバイザリーボードの一員。
矢吹丈を起用した特定保健用食品(トクホ)のコーラのCMに目をとめた方は多いのではないでしょうか。矢吹丈は、リングの上で白い灰になって燃え尽きたボクサー。トクホは似合いません。(マンモス西ならともかく!) そんなことをモヤモヤと思っているうちに、キリンメッツコーラは売れに売れ、4月24日の発売開始からわずか1カ月で、早くも年間販売目標100万ケースを達成したそうです。
この絶好調ぶりは、トクホだからなのか、コーラだからなのか、関与成分の難消化性デキストリンがよいのか、あしたのジョーだからなのか。そもそもこのコーラ、どんな商品なのでしょうか。
●キリンメッツコーラの表示は?
トクホとしての許可された表示内容は、「食事から摂取した脂肪の吸収を抑えて排出を増加させる難消化性デキストリン(食物繊維)の働きにより、食後の中性脂肪の上昇を抑制するので、脂肪の多い食事を摂りがちな方、食後の中性脂肪が気になる方の食生活の改善に役立ちます」。
ひとことで言えば「食事の際に脂肪の吸収を抑える」です。
●難消化性デキストリンの働きは?
トクホは、特定の保健の目的が期待できることを表示した食品であり、身体の生理学的機能などに影響を与える関与成分を含んでいます。
キリンメッツコーラの関与成分は難消化性デキストリンです。
難消化性デキストリンは、でんぷんを酵素処理してつくられる水溶性食物繊維で、これを食事とともにとることにより、脂肪の吸収抑制、排出増加につながることが、商品のブランドサイトで、図解説明されています。
●実証実験の結果は?
トクホは、有効性と安全性について国が審査を行っています。有効性を示すデータは、前述のブランドサイトにグラフで示されています。
このグラフは、「血中中性脂肪の上昇抑制」と題したもので、食事摂取4時間後に血中中性脂肪の変化量がもっとも大きくなり、対照飲料を飲んだ場合で160mg/dlを超え、キリンメッツコーラを飲んだ場合でそれを下回っています。
実証結果は学術誌に掲載されているもので、アブストラクトはインターネットで読めますが、詳細はわかりません。グラフに添えて、どのような実験が行われたのかなど、わかりやすい参考情報がほしいところです。
●炭酸飲料のトクホは他にもある?
コーラのトクホは初めてとのことで、たいへん話題になっていますが、炭酸飲料ではどのくらいあるのでしょうか?
調べてみたら、けっこうありました。平成9年(1997年)に許可された大塚製薬の「ファイブミニ」から今年4月に許可された「ヘルシアスパークリング」まで、確認できたものだけでも17種類。関与成分は難消化デキストリンのほか、ポリデキストロース(食物繊維)や茶カテキンなどです。ちなみに、コーヒー飲料は38種類、緑茶・茶系飲料は77種類確認できました。飲料では、このほかに果実・野菜飲料や乳酸菌飲料などがあります。
●難消化性デキストリンのトクホはよくある?
関与成分を難消化性デキストリンとするトクホは割と多く、個別審査が不要な「規格基準型」もありますが、キリンメッツコーラも「規格基準型」なのでしょうか?
いいえ、規格基準型トクホとして認められているのは、難消化性デキストリンでは、「おなかの調子を整える」、「糖の吸収をおだやかにするので、食後の血糖値が気になる方に適している」の二つ。ですから、これら二つがとても多いのです。
難消化性デキストリンで、中性脂肪の吸収抑制については、規格基準型では認められていません。したがって、このコーラは個別審査を受けており、実際にトクホの安全性・有効性について判断を行う消費者委員会の部会では「トクホにコーラはどうか」という観点からも議論が重ねられました。結局、「コーラだからという理由だけをもって許可しないということはできない」とされ、トクホとして認められました。また、カフェイン量を表示することになりました。
●関与成分が難消化性デキストリンで、中性脂肪吸収抑制を表示できるトクホは、他にもある?
あります。十六茶プラス(アサヒ飲料)です。
十六茶プラスのブランドサイトでは、キリンメッツコーラと同じような食後の血中中性脂肪の上昇についての対照飲料との比較実験データがグラフで示されています。やはり食後4時間でピークが訪れ、対照飲料では約150mg/dl、十六茶プラスではそれを下回る図となっています。
なお、日本コカ・コーラでも、「からだすこやか茶 W」という名称のものが、関与成分を難消化性デキストリンとし、脂肪と糖の吸収を抑えるという二つの表示許可を受けています。ただし、現在のところ商品化はされていないようです。
●食べ過ぎていては本末転倒
このほか、血中中性脂肪関連のトクホには、サントリーの黒烏龍茶や花王のヘルシアなど、関与成分が異なるものもあります。(独)国立健康・栄養研究所にも一部掲載されています。
今回、トクホ製品の宣伝をいくつか見ましたが、気になるのは、「これさえ飲んでいれば高脂肪・高カロリーの食品を好きなだけ食べられる」といった印象を与えるCMがあること。トクホの宣伝で、偏った食事のほうに人を導くようでは、製品表面に表示された「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。」という決まり文句が泣きます。
また、実証実験結果を簡単なグラフだけで示しているケースが多いと感じました。グラフは一目で「効果がある」という印象を見る人に与えますが、その実験の条件設定などの説明はないため、どのような場合でも効果があるかのように受け止められがちです。こうした誤解を防ぐためにも、有効性のデータがどのような実験で得られたのかなど、メーカーは積極的に情報提供すべきでしょう。
消費生活アドバイザー。フーコム・アドバイザリーボードの一員。
いろいろな場面で食品安全や食品表示の質問、疑問に遭遇します。自分なりに、気になる質問のコタエを探したい